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「義勇さん×炭治郎のオメガバ二次創作」


弟の義勇が生まれたのは、蔦子が12歳の冬。

人は、命尽きる瞬間まで忘れないだろう物語をどれ程紡いでいけるのだろう。
今生を去る間際に、むしろ彼らが私を虹の彼方の世界に連れて行ってくれるはず。
誰に語ったことも無く、信じてもらえるはずもない昔話。
「運命」を伴侶とする前夜の頃になって、記憶はより鮮明に蘇る。

「これは珍しい、水の竜の子らか」
「純血が残っていたとは。輪廻邂逅の縁やもしれぬな」
 
二人の男性は唇を動かさずに、直接私に声を響かせてきた。
その年に五つになった弟は、その震え上がるくらいに神々しい光にも屈せず、
辿々しくも彼らの腕の中に眠る存在へと、真っ直ぐに歩を進めた。

「この子は、だれ?」
「おや、見えているのか」
「さすがに力が強い。それに限りなく我らに近い匂いだ」

ううう、と光の中に包まれるそこから、赤ん坊の声。紅葉のような小さな手が
何かを探すように空を踊る。

「この子の名前は?」
「触るのか?燃え尽きるぞ」
「名前を教えて」
「お前が燃えてもかまわぬのか」
「それでもいい、僕はこの子が、この子がいい」

ほかには、なにもいらないから。この子をちょうだい。

「如何しますか兄上。ヒノカミの百年振りの輪廻を」
「さよう、これはすべての命の為に降り注がれる光であるべき」
「一匹の竜にだけは渡せぬのだ」

手足が震えて声も出ず、私はその光景を眺めるしかなかった。

長い髪は腰まで伸びた赤鋼、一人には額に大きなしるし、気が遠くなるくらいに美しい瞳と顔は鏡に映したようで、双子の神様かもしれない。
人形劇の「平家物語」で憧れた、白に赤と金に飾られた武士の羽織、黒い袴、長い刀。
二人からは細かい粒子が流れ落ちて、空間が蜃気楼に揺れている。

「この子が欲するならば、全身全霊を引き換える覚悟をしなければ」
「幾多の試練に耐えて、自身の骨肉を砕かれても護らねばならない。誓えるか」
「ちか……?」
「約束を、果たせるか?この赤子の為に死ねるか?」
「僕は約束する、誓う」

ふふふ、と微笑みが重なる。

「水の竜の血を継ぐ若子よ、ここに契約は成された」




弟の義勇が冨岡家に生まれたのは、蔦子が12歳の冬の、鬼払いの数日後だった。
その年の冬はとにかく雪が多く、温暖化で夏がなかなか終わらない日本の最近では異常とも報道されていた冷たい吹雪の節分の頃。

元々は鎌倉の古い日本家屋邸で歴史を重ねてきた冨岡の一族だったが、父は何かと格式に囚われる祖父母や親類と若い頃から軋轢を重ねていて、蔦子が11の春にヒノカミ町へと引っ越しをした。義勇が生まれる一年前だ。

母は身体の弱い人で、Ωの第二性別を持っていた。父の家系は代々優秀なαを中心に構成されたいた事情から、父と母の番関係は黙認されてはいたが、Ωの妻を一人しか持たない男は種馬として役立たずだと後ろ指を刺されながら暮らしていたのだ。


鎌倉から出られると母から聞いた時には本当に嬉しかったし、蔦子の出産後に五回も流産をしていた母が、また妊娠した吉報にも家族に明るい光が降り注いだ。

「真田十勇士のように、強く誰かの為に戦える勇士」と弟の名付け親になったのは、冨岡家で何代にもわたり、剣の指南役を続けてきた末裔の鱗滝という男の人で、若い頃には剣道の大きな道場を数件構えていたと聞くが、引退と同時に、まだ山への道が切り開かれる前の日輪町へと身を隠してひっそりと暮している。

αとして生まれた蔦子も物静かな性格ではあったが、赤ん坊の時からほとんど泣かない弟には両親も不安を隠せず、日本だけでなく欧米の著名な小児科医に診察させた。

「知能指数の高いαには、よくある症例です。高機能社会不適合自閉症にも
見えますが、成人すると落ち着きます」

数人の権威から同じ結果を聞いても、特に病気がちの母は弟の将来を悲観して
「蔦子、私に何かあった時は義勇を頼むわね」が、亡くなる直前までの口癖で、
ついには遺言と成り果ててしまった。

母を永遠の伴侶として他のΩを一切寄り付かせなかった父は、絶望を振り切るが如く仕事に没頭するようになり、今度は「蔦子は姉さんなのだから、義勇を頼む」と繰り返される。

まるで、呪いだ。

それでも、ただ一人の愛する弟だ。可哀想にも感じたし不憫だった。
日輪町に新設された私立キメツ学院理事長の産屋敷耀哉と父は古くからの友人で、冨岡グループからも多額の寄付を重ねている。
特に霊山頂上に建立されているヒノカミ神社の補修工事には、父が数億円助成していて蔦子も中等部の優等生αとして、大学卒業まで心静かに学生生活を送る事が出来た。

「冨岡さん、いいや蔦子さん。僕が大学院を卒業したら……妻になって下さい」

キメツ大学の薬学部で卒論との戦いが始まった二十歳の時に、理工学部の先輩からのプロポーズは、弟が剣道の小学生大会で全国優勝した時と同じくらい、喜びに震えた。

家庭教師のアルバイト仲間として、サークルで出会った瞬間に「運命」を天啓された男性で、寡黙な弟にも優しく接してくれるΩ。

「姉さんも俺の子守から、やっと卒業だね」

身内だけの、それでも産屋敷一家と鱗滝の年若い門弟達が出席してくれた神前結婚式で、ポツリと刺された弟からの毒はそれからも蔦子に罪悪感を抱かせたが、
8歳の子供のその言葉を否定しきれない自分がいた。

「蔦子姉さんに会わせたい人がいる」
 
衝撃的なその電話を受けたのは、夫が東欧の科学者会議に出席し、慣れないパーティーで疲れ果てていたミュンヘンでの夜。弟はきちんと時差を確認していたようだ。子供の頃からそんな部分も変わらない。

「義勇、あなた……。私にずっと黙っていたのは何故?喜ばしいけれど、それ以上に驚きで息が止まるかと思ったわ」
「義兄さんの研究結果が出るまでは言いたくなかった。そう言えば、受賞おめでとう」

相変わらず感情の乗らない声だが、母親同然の存在である自分には彼の恥じらいと称賛が心に響く。

「どんな人?同じクラス?いいえ、同期生ではないわよね。貴方の興味を引くような子はいなかったわ。年下なの?」
「中等部一年生」
「中等……、そう、そうなの……。それで」
「知りたいだろうから言うけど、Ωだ」

やっぱりか、予想はしていたけれど自分や両親からの血筋なのだろう。

「でも、普通のΩとは違うんだ。帰国してから詳しく話すけど、とにかく……炭治郎は特別な子だよ」
「たんじろう、くん」
「神様からの贈り物みたいな感じがする。蔦子姉さん、かまどベーカリーを覚えているか?」
「義勇、」
「そこのパン屋の子なんだ。母さんが好きだったパン、よく話してれたろ」

ああ、これが。あの人達の言う「邂逅」なのだ。

幼かったあの雪の日、人見知りの弟が強くを引いて走り出した、イーストの匂いのするお店。
あのドアを開いた時に日差しに包まれていた光景、二人の神様、それから。

「写真を見てくれ、あの子に直接会う前に。姉さん、おやすみ」




自分で描いた義勇さんをAIに取り込んで、二年前に書いたオメガバース二次小説を、勿体無いので添えてみました。現代日本が舞台のかなり長い小説で、メモがたんまり残ってました。


元絵はこちら↓、地元のドトールで二時間かけてApple Pencil第一世代にてカラーリングしたもの。まだまだクリスタに慣れてなくて大変だったなあ。

「刀鍛冶編」のアニメがスタートしたけど、義勇さんの声優どうなるんだろ。私的には若い人に交代して、全然オッケー。梅原雄一郎くんとかどうかな。




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