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「グオメ」人間AU二次創作小説。

おはようございます、雲州鳩です。

昨日は筆運びが絶不調だったんですが、なんとかやっと「グッドオーメンズ」の二次創作、人間AU版のクロウリー紹介部分をpixivに更新できました!

pixivに小説を上げたのは、「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」のリアタイ放送時2020年だったから、実に三年振りかな。あの頃は書き上げると800スキが付くジャンルの勢いが凄かった。


「その、言いにくいんだけどねアンソニー。例のCMの話は無かったことにして欲しい」
「んあ!?」

ロンドンの再開発地域ど真ん中に、次世代グローバルシティとして建てられた65階建てのパプティマスビル。その中層階に入っている大手広告代理店にて、34歳のアンソニー・J ・クロウリー・デイモンは、ほぼ確定と思われていたCM製作の担当を外された。

「ふざっけんな! サンプルデータ観せたら、これで通すっつーてただろ!」
「本当に申し訳なく思う。でも上の決定なんだ。他のクリエイターの作品がプロデューサーの目に留まってしまって。君のチームとは長い付き合いだし、僕も頑張ってみたんだが……」
「…………誰だ」
「うん?」

いつも漆黒の装いを、スラリとした痩身にスタイリッシュにまとう赤銅色のヘアメッシュをロングヘアにまとめているクロウリーは、地獄の底から這い出る悪魔の如く、表情を歪めて低い唸り声を吐き出した。

「その、他のクリエイターってのは! どこのクソファッ(規制音)だ!」

ヒィ、とオフィスチェアから飛び上がったアシスタント・ディレクターは、
「こ、これを見て」と、デスク上のiMacディスプレイにムービーを展開させる。
怒りにブルブルと肩を震わせ、顔面を歪めていたクロクリーの顔面から少しずつ赤みが引き呼吸が深くなり、やがて長い両腕がダラリと力を無くす。

「……君のデモ版も当然、いつもながら素晴らしい出来上がりだったよ。会議でも最初にお偉いさん達の意見がほぼ一致して、君の作品に決まりかけた。だけど、YouTubeでこの数ヶ月話題になっているこのビジョンと音楽が流れた瞬間に、室内の雰囲気がガラッと変わったんだ」
「…………だろうな。オレでも言葉を失うぜ」
「知ってるのか? この作者を」
「アホ抜かせ! YouTubeで十二万人ユーザーお抱えの超有名クリエイターじゃねぇか! 会ったこたねぇがな!」
マウスをクリックしたクロウリーは何度も凝視しつつ、その映像をサングラス越しに見つめる。

「間違いねぇ、アンジェリック・フェールの手描きアニメだろう」

アンソニー・クロウリー・デイモンは、幼い頃からイラストや漫画を得意とし、また、理数系でも特出した成績にてマサチューセッツ工科大学へ留学。卒業後にロンドンの有名美術大学にて3CGを学んだ。

その後もハリウッドの一流アニメスタジオにて腕を磨き、二十代後半にして栄誉ある芸術賞も数々受け取っている。
コンピューターの立体CGと、AIでのカラー彩色をメインに生み出される最新アニメ画像はほぼ実物の人間像と変わらないリアルさを誇り、欧米のみならず日本や中国、韓国でも話題のアーティスト達を飾るクリップビデオにオファーされ、大金を稼ぎ出していた。

既に「ギャラに大金を必要とする、本物の俳優は不要」などと、映画業界を震撼させるほどに。

「このコピー、DLしていいか」
「大丈夫だけど、くれぐれも外部には出さないでくれよ」
「俺はプロだぞ。んなコトすっか」


アンソニー・J .クロウリー・デイモンが初めて、その繊細な水彩画が動くセンセーショナルなビジュアルに衝撃を受けたのは、25歳の時だ。
ハリウッド進出前、一人前のアニメーターとして名前を売り出そうと躍起になっていた彼は一日二十四時間、睡眠や食事も碌に摂らず必死で作品を描き続けていた。

2010年代の欧米でのアニメ創作は、ほぼ100%がコンピューターCGによる
作画であり、安上がりでスピーディーな3CGモーションキャプチャーを
大量生産システムで仕上げていく製法が基本だった。

デジタルペンで液晶画面に数値線画を描き込み、半自動的に選択範囲着彩をしていく基礎ベースは、かつてペン手描きでセル画を引き、その裏にアニメカラーを筆で厚くムラのないように乗せ、ワンシーンごとにカメラで撮影していくという果てのない膨大な作業時間を大幅に削減させた。

クロウリーはその昔ながらのアニメ作りに敬意は払っていたが、どうにも非効率的で生産力がどん底から上がらない。

「俺にはそこそこのデッサンやデザインを起こせても、それ以上の絵画センスや、動画モーションを生み出せる才能はない」

早くに自分の技量に見切りをつけた為に、今や子供でも簡単に使いこなせる
デジタルアニメソフトを使用できる時代に生まれた現実には、心から感謝している。

かつての「ルーカス版スターウォーズ」三部作や、スピルバーグが世界中の
幼心を魅了した「グレムリン」「グーニーズ」「E.T」など、確かに
郷愁を滲ませてくれる純粋な魂が、当時はまだ映画というジャンル全体に残っていたと思う。

「俺としては、『未知との遭遇』が、ダントツで好みなんだけどなぁ」

それがいつからだろう、「よくできているのだが、特に感動や新鮮さは感じない」「この数年たくさん見せつけられてきた、いつもの色合い強烈なペラペラCG」「配信なら、一ヶ月のサブスク代金で簡単に消費可能なアニメ」がまるで養殖魚の如く大量生産され、それらのつまみ食いされた残りがまさしく残飯のように処分されていく。

豪華な吹き替え俳優に売れ線歌手を起用した主題歌を添えても、自分達が産んだも同然の作品は話題にならない。

子供がアニメを観なくなったのか、それまで長くアニメを愛し続けてきた大人が
視聴に疲れたのか。とにかくこの十年間で、確実にアニメーションファンは世界的に激減し続けているのだ。

クロウリーの名前を世に出してくれた最初の大作が、欧米アジアでも有名なデジタルアートグランプリを受賞したのは、21歳の夏。
振り返れば、気の合う仲間とはしゃいで酒を飲み、夢を語り合いながら作った荒削りのそれは、まさに青春時代の輝ける結晶だった。

酔っ払い数人が暴れれば、床が簡単に抜けるようなボロボロのプレハブ小屋を簡易スタジオにして、地元で幼い頃から日本のアニメに心を奪われた悪友や幼馴染、大学時代のオタク仲間とエアコンも効かない真夏から冬にかけて、インスタントラーメンや青カビの生えたパン、固く乾燥して歯が欠けそうなスコーンに齧りつつ仕上げた未熟な出来上がりだが、情熱と愛は溢れる程に満ちていたものだ。

授賞式で、大尊敬するシンカイやマモル・ホソダと記念撮影をし握手を交わして、「これからも頑張って。期待していますね」と暖かく応援された日の、
あの純粋さはその後、どこへ去っていったのか。
もしかしたら、とっくに自分自身が投げ捨ててしまったのかもしれない。

次の新作こそハリウッドで凱旋させてやる、アカデミー賞のレッドカーペットを
歩くのだと野望に燃えて完成させたフル3CGアニメは、そこそこの話題にはなったが、アニメファンや評論家の意見は厳しく、クロウリーの名前はやがて忘れ去られていった。

仲間達も結婚をして家業を継いだり、一般企業に就職して奨学金の返済に追われ、クロウリーは一人。それでもエディンバラの実家にはどうしても帰る気持ちになれず、人生の苦い敗北を認められずに、ソーホーでゲイパーティーの送迎運転手をしながら、金持ちの未亡人のツバメやホストクラブの掛け持ちをしつつ
一銭にもならないアニメ作品を作り続けたのは、胸奥に凍りついたプライドの
捨て場所を見つけられなかったからだろう。

昼間から安酒を煽り、スマホ代金の為にクレジットローンを重ねていた生活の中で、クロウリーをまだ完全に見捨てなかった創作の神は、一人の天使を彼の元へ降臨させる。

「なんだこれ……。こんなモンを描ける奴が世界にはいたのか……」

YouTubeに、まさに彗星のように現れた「神絵師」は、2015年にまだ完全手描きで一枚ずつ仕上げた、三分間のアニメーションを定期的に更新し続けていた。そのフォロワーは約八万人。

まるで東洋の水彩画を彷彿とさせる繊細な筆使い、かつての日本が得意としていた秒速割りのプロットに、エアブラシで吹き付けている透明感に満ちた背景。
細かく一時停止してセル画枚数を数えると。

「一万……八千枚……、一週間一人だけで……。全部これを描いているのか……」

何百回と繰り返し観たその三分間の物語は、毎回ほぼハッピーエンドではなく、
これでもかと絶望的な終焉にて幕を閉じてしまう。
それにも関わらずわずか一筋の希望を視聴者に託し、製作者自身の澄み切った歌声と共に深い余韻を残すエンディング手法が、絶大な人気を誇っていた。

気がつけば、一晩中それをリフレインしていたクロウリーは、電気の止められた狭い不衛生な部屋で一人、スマホを握りしめ座り込んでいた。頬から涙が溢れ、嗚咽がとめどなく闇に響く。

こいつはきっと俺と同じで一人孤独に、この三分間一万八千枚のアニメを仕上げたに違いない。どれだけの厳しい戦いだったか俺にはわかる。
利き腕と目の鈍痛に苦しみながら、寝食を削ってひたすらアニメに命を捧げて生きている。俺には痛いほどによく理解できるぜ……。

エンドロールに掘り込まれていたのは、独特の流麗な筆跡で「アンジェリック・ラフェール」の文字。

翌日から、クロウリーはタバコをやめた。酒は時々エールを飲む程度で、
以前のように泥酔して警察に厄介になる夜からはすっぱりと卒業。
ホストクラブとゲイパーティーの送迎バイトを辞め、肉体関係と引き換えに小遣いをくれていた未亡人とも、縁切りを告げた。

朝早くから、ロンドン郊外にある工事現場の日雇い労働を始め、パン屋や花屋、園芸職人のバイトで生活費を稼ぎ出す日々。
その真面目な働きぶりから、ハッピーリタイヤをした老夫婦の持つコテージにて、老人介護サポーターとして住み込みで働けたのは、まさに幸運の再スタートだった。

「お兄ちゃん、よくやってくれるからね。家賃はいらないよ。あんた夢があるんだろう。青年よ、頑張りなさい」
 

『これからも頑張って。期待していますね』

そうだ、俺はまだまだ若い。才能だってあのアンジェリック・ラフェールの足元にも及ばないが、それでも奴と全く違う方法で創作を続けることはできる。

貯金を順調に増やしたクロウリーはまずMacBookを買い直し、小さなCMビジュアルの製作から、若手演劇集団の背景動画などを担当。やがて実直な仕事振りが口コミで広がり、一人で立ち上げたアニメ製作会社が、26歳の時にアカデミー賞特殊映像グラフィック部門を受賞。

まだ存命だったエリザベス二世によりナイト位を受勲されて、28歳の現在に至る。

「まさかまた、あんたとこんな場所で再会できるとはな……」

自ら設計したデザインビルの自室にて、クロウリーはコピーしたアンジェリック・ラフェールの最新映像を眺めた。
当然、今も彼か彼女か全くわからない「謎のトップインフルエンサー」であるその人の作品はずっと、クロウリーの心と魂を魅了し続けている。

だが競争相手として間近に天使が舞い降りたのは、初めての体験だ。

「ついに、俺がまともに奴と戦える男になれたってことかな? angel?」

暮れていくロンドンの夜景を見下ろしながら、クロウリーは不思議な高揚感と感傷に浸っていた。


取り敢えず、きのうはここまで。今日はアジラフェル編に入ります。


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「天使の日」、アジラフェルとクロウリーの蛇形態。



マダム、ムッシュ、貧しい哀れなガンダムオタクにお恵みを……。