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「10年前のSoundCloud」が示した解、そして今 -貨幣経済社会とアーティストユートピアの交差点-

先日投稿した『アーティストはなぜ苦しいのか。音楽家の「レイヤー」と孤独から抜け出す4ステップ』では「みんなに気に入ってもらえる作品」よりも「自分の感性と繋がれる作品」をより重視する音楽家(ホワイトトライブ)が、その欲求を充しながら無理なく経済的充足も得るための4つのステップを紹介しました。

ステップ①「見つける」より「見つけてもらう」
ステップ② 見つけてもらいやすい場所に行く
ステップ③ トライブで固まる
ステップ④ トライブが公式に認められる

実は、この4つのステップは、HIP HOPを始めとする比較的新しい音楽ジャンル・カルチャーの進化のプロセスそのものだと考えています。直近で言えば「SoundCloud」カルチャーもそうです。

2010年代の音楽業界における最も重要な革命「SoundCloud」

2017年のグラミー賞で3部門を受賞したChance The Rapperは、受賞スピーチで自分を「SoundCloudアーティスト」と呼びました。

SoundCloudを活動の主戦場とするインディーズの音楽家が作った音楽カルチャーが、メインストリームで完全に市民権を得たのです。今、欧米のチャートを賑わせるメジャーの音楽家は、SoundCloud出身の方が多い。こんなこと、SoundCloudが台頭し始めた10年前には誰も予想していなかったでしょう。

SoundCloudの台頭は、10年前に(日本よりだいぶ先に)海外で起きた音楽のデジタル流通時代の到来と切っても切り離せません。

今、デジタル流通の波が本格的に押し寄せている日本だからこそ、SoundCloudがもたらした意義の再評価し、学びを抽出することが必要だと考えています。

SoundCloudは日本語化されなかったこともあり、日本ではあまり普及しませんでした。僕は、偶然にもアメリカで2009年からSoundCloudを使い始め、SoundCloudと二人三脚で音楽活動を展開してきました。SoundCloudアーティストが音楽業界を席巻するに至るまでを、中から見てきたのです。

僕が見てきたもの、そこから得た知見が少しばかり役に立つのではと思い、僭越ながらシェアさせていただきます。

ベッドルームミュージシャンは、MySpaceからSoundCloudへ

SoundCloudがサービスを開始した2007年以前、ベッドルームミュージシャンは、MySpaceを使い、自身の音楽をシェアしていました。

MySpaceは音楽に特化していたわけでなく、今でいうFacebookにあたるSNSで、自分の音楽をシェアして、知らない人同士でいいねやとかコメントなどのコミュニケーションが取れたのです。

しかし、SoundCloudがスタートすると、新しいもの好きな音楽家がそこに飛びつきました。音楽に特化したSNSだったからでしょう。

実は僕も、MySpace上で趣味で作った曲を公開していました。3人ぐらいでしたが、知らない人がいいねしてくれて、ブチ上がったものです。

そんな時、ある友達からSoundCloudを教えてもらい、早速使ってみました。実はほとんど言ったことないんですが、最初のころ (2009年)、僕はstarRoじゃない別名でやってました。これ見たらみんなのモチベーション上がるかもしれないので、本邦初公開でここにリンク貼ります。

Shane Mizoguchi。6年ぶりぐらいに見たけど11年経った今フォロワーは67人です(笑)!starRoは現在約66,000フォロワーなので、その1000分の1。

ということで、ここからフォロワー1,000倍のSoundCloudアーティストなるまでのプロセスを、前述の4ステップと絡めて説明します。

「音楽家はみんな音楽をお金にしたい」というのは勝手な決めつけだった

2009年当時、SoundCloudはアメリカでもまだ黎明期。ユーザーのほとんどが、僕みたいなトラックメーカーでした。CDが完全に終焉してたわけじゃなかったので、そこそこ成功してる人は、SoundCloudを使う必要がなかったでしょう。その頃のユーザーは、僕のように趣味の域をこえられない、音楽友達もそんなにいないような、孤独なベッドルームミュージシャンです。SoundCloudがなかったら、僕みたいな人間はこの世界に4人ぐらいしかいないという気さえしてました。

ところが音楽家だけが集まるネットの交流場ができると、水を得た魚のようになった音楽家がどんどん姿を現しました。実はベッドルームに隠れていただけだったんです。

僕らは、音楽がお金になるなんてこれっぽちも思っていませんでした。

ただ音楽で誰かと繋がりたい。みんなに聴いてもらえるだけで嬉しい。承認欲求の充足はSoundCloud上の「仮想通貨」だったのです。これがまずSoundCloudがもたらした大きな意義の一つだと思います。。

つまり、音楽を作るのは好きだからであって、お金のためじゃない。そんな当たり前のことが、見える化された。しかもそのマインドを持った膨大なベッドルームミュージシャンが、史上初めて、世界的に繋がったのです。

音楽をお金にするために必要な、煩わしいプロセスや間に入るミドルマンを気にする必要はありません。好きなように作った音楽を、好きなタイミングでシェアして楽しむことが、音楽カルチャーを豊かにしました。

ホワイトトライブが孤独から抜け出すために必要な要素が、SoundCloudにはあった

前述の4つのステップにおいてSoundCloudは最適なプラットフォームでした。

今盛り上がっているSpotifyやApple, LINE MUSICなど、音楽家への収入を前提としたプラットフォームは音楽家コミュニティーに多くの恩恵をもたらしていると思います。ただ、SoundCloudとそれは全く別物なのです。

なぜなら、曲をアップロードするのにお金がかかるので、気軽に曲をあげれないから。『音楽を売るため』に、意図的にプレイリストに載るために曲をサブミットしてから数週間待ったり、プレイリストに入りそうな曲を選んだりもします。

一方、SoundCloudは音楽家にとって気軽に曲をリリースできるプラットフォーム。作りかけのような曲だってリリースできます。言わば、練習試合みたいなものです。です。本番では試す前に、練習試合で新しい技を練習したりする。あんな感じです。

人は考えて選んで発した言葉より、油断して自然に出た言葉の方が、本音だったりします。SoundCloudは個性丸出しで、音楽をありのままにリリースできる場だったのです。

音楽好きは、オススメされるより見つけたい(ステップ①&②)

ステップ①「見つける」より「見つけてもらう」ための最も有効な方法は、自分をありのまま出すこと。数ヶ月に一回しか出さない曲でその音楽家を判断することは難しいですが、曲をバンバン出していればどんな音楽家なのか見当がつきます。これが音楽家の個性を見つけてもらいやすくしたのです。

ステップ② 「見つけてもらいやすい場所に行く」も同様にSoundCloudが重要な役割を果たしていました。SoundCloudがその「場所」であったのは間違いありませんが、膨大な数の音楽家や曲の中で、さらに見つけてもらいやすい場所に行く必要がありました。

ポイントは繋がりたい人(特にリスナー)を闇雲に探すより、同じような境遇の仲間を一人でもいいからまず見つけて、そこから広げていったほうが良いということです。

何曲も気軽にリリースするうちに「自分はどういう音楽がやりたいのか」はっきりしてきます。そうすると「どういう仲間と繋がりたいか」もはっきりしてきます。

SoundCloudは、曲に直接コメントをつけたり、DMを送れたり、拡散したりできるSNS機能がありました。同じ志向の音楽家を見つけるのは比較的簡単。コメントやDMなどですぐに多くの音楽仲間と繋がるようになりました。

(当時の僕は平均的なSoundCloudユーザーより2回りぐらい年上で、移住先のLAの実世界では友達もほとんどいませんでした。ネット上の年齢も国籍も関係ないフラットな世界に助けられました)

僕もロンドンの新進気鋭のプロデューサーや、ジャマイカのまだ名も無いシンガーなど、世界中の音楽家と気軽にコラボしたり、音楽話をチャットする中で、音楽家の仲間、その仲間やリスナーに繋がり、自分の音楽が届く範囲が驚くスピードで拡大していったのです。

そうやってできた輪の中から、人気音楽ブログにピックアップされたり、みんなが憧れのレーベルに注目されたり、ちょっとずつ成果が現れ始めます。その輪の中には、Mura Masa、後にドレイクに抜擢されるSTWO、ハウスで新しい波を起こしていたKaytranada、のちにBryson Tillerに抜擢され今ではビルボードプロデューサーチャートの常連J Louis、Anderson Paakなどがいました。

起爆剤になったのは、当時注目を浴び始めていた18歳のプロデューサーFWDSLXSHとのコラボ。自分がリリースしたリミックスを彼が拡散し、僕がそれまで2年間デモを送り続けても注目してもらえなかったSoulection(当時、人気急上昇だったコレクティブ)の目に止まったわけです。

僕はステップ②に「見つけてもらう」という表現を使いました。これには理由があります。リスナーやA&Rといった音楽の受け手には「曲を聴いてください!」と直球で送るより(これももちろんやる価値はありますが)、彼らが自分で見つけた感覚になる場に音楽を置く方が、彼らとより深く本人がよりその曲と繋がるからです。

音楽は人それぞれの趣味や情緒に結びついています。個人の志向性が強い「音楽」好きは、他人からの音楽のお勧めを、素直に受け取らないこともある。これはレーベルのA&Rなどにも言えるかもしれないと思っています。つまり、誰かに教えてもらうより「自分で見つけた」いんです。

拡散されてたまたま自分のTimelineに入ってきた音楽は厳密には他人から教えてもらったわけですが、気持ちとしては「たくさんある情報の中からこの曲を見つけた」感が強いと思います。だから、見つけてもらう場所に行くのが大事なんです。

このまま、ステップ③④とSoundCloudについても語っていきましょう。

トライブで固まることでエネルギー密度を高く保つ (ステップ③)

こうしてSoundCloudアーティストはベッドルームから抜け出し、SoundCloudの中でリスペクトや音楽愛を仮想通貨にして経済圏を広げていきました。当時は、SpotifyやApple Musicが今ほど普及していません。オンラインで音楽を売りたい時はBandcampやiTunesのDL販売などを活用していました。ストリーミングに関してはSoundCloudのほぼ独壇場。SpotifyがSoundCloudの買収を試みたこともありましたね。

2016年ぐらいまでは、若いアップカミングな音楽家はほぼSoundCloudにフォーカスしていました。たとえ、それがお金にならなくても。

こういった当時の状況もあって、SoundCloudはいちプラットフォームから、一大カルチャーへと進化したのです。HIP HOPが、貧困や人種のファクターによって、他のカルチャーと一定の距離を保ちながら、強力で独自のカルチャーを形成していったのと同様です。

SoundCloudは、それまでの音楽業界とは隔離された、音楽とお金の関係性が限りなく薄いアップカミングアーティストのコミュニティー、つまり資本主義とは一線を画したアーティストユートピアをつくり、独立性を保ちながら成長していった。最終的には、音楽業界全体が無視できない存在へと、のし上がっていったのです。

従来の音楽業界がトライブをついに公式に認めた先の世界 (ステップ④)

音楽業界の新しい動きに音楽メディアも反応し始め、積極的にSoundCloudアーティストを取り上げ出しました。それによりSoundCloudアーティストという人種が世に認知されはじめました。

音楽メディアはどのように報じたかと言うと…

・EDMに変わる新しい音楽性の宝庫
・セルフプロデュース、セルフブランディングができるインディペンデント性
・すでに何万人〜何十万人のフォロアーまで抱える無名アーティストたち

こんな感じです。

ブッキング業界や、レーベルにとっては、こんなにありがたい音楽家はいませんでした。なんせ、育てなくても、すでに莫大なファンベースを築いて、そんなにディレクションしなくていいローメンテナンスな無名アーティストですから。

2014〜2015年あたりから、SoundCloudアーティストがクラブやフェスで引っ張りだこになりはじめました。リスナーも、SoundCloudでしか知らない音楽家が目の前に現れ、その音楽を体験できるクラブやフェスを楽しみにしていました。最終的には、ブッキングエージェントがSoundCloud内の数字をブッキングの指標にするようになったのです。

メジャーレーベルも徐々にフィーチャリングやオフィシャルリミックスなどでSoundCloudアーティストにアプローチしだします。今では、SoundCloudアーティストの多くがメジャーデビューしています。

つまり、SoundCloudではお金にはならなくても、そこで創ったブランド価値、コンテンツ価値がレバレッジとなって、SoundCloudの外の世界で貨幣的価値を生んだというわけです。

SoundCloudが示した貨幣主義社会とアーティストユートピアの融合の可能性

僕は比較的古い世代の人間なので、音楽はメジャー契約してビジネスになるように自分を調整しながら活動するか、地元の仲間でやりたい音楽を粛々とやるみたいな両極端な構図しか知りませんでした。どちらにしても、最終的にお金になるかならないかみたいな軸で世の中を見ていることになります。

しかし、アートというのはもともと経済的価値なんてあってないようなもの。さらに言えばアートにまつわる全てのカルチャーは、お金と切り離して、アートそのものを昇華させるところからスタートしていると考えています。もしお金になってなんぼだったら、カルチャーは生まれないでしょう。

SoundCloudが示したのは、「お金を稼がないといけない」という貨幣主義社会の原理原則から生まれるプレッシャーと恐怖があっても、トライブを組んでみんなで動けば、自身のアートを貫けるということ。

それは「アーティストユートピア」とも呼べるものでした。

無理に貨幣主義社会に寄せていかなくても、純度を保って活動していけば、最終的にそれが貨幣主義社会の中で自然と価値として認知される可能性もあるということです。

しかし、残念ながら、SoundCloudはあのChance The Rapperのスピーチ以来、全盛期の面影を失っていきました。その原因の詳細はここでは割愛しますが、簡単にいうとSoundCloud自体が旧来の業界の構図に吸い込まれてしまったのです。

SoundCloudはただのストリーミングプラットフォームではありませんでした。カルチャーそのものだったのです。そしてそのカルチャーは純度を失うと求心力を一気に失うのです。

破壊と創造という言葉の通り、SoundCloudはCD時代が崩壊とともに創造された音楽家の新しい価値観であり、音楽性であり、カルチャーだったわけです。

しかし、SoundCloudが当時の価値を失った現代日本の音楽業界において、10年前のアメリカで得られた体験をどうやって再現すればいいでしょうか。

その一つの答えになりうると今思うのは、ネクストSoundCloudを目指し、去年アメリカで立ち上がった「Audius Music」です。

ブロックチェーン技術を使ってるので「新しい感じ」だけが注目されたりしてます。しかし、ポイントはそこではないと考えています。

・SoundCloudの失敗から学んだ上で、2010年代のSoundCloud的世界を作ろうとしているところ

・あくまでアップカミングアーティストのためのプラットフォームと言い切っているところ (SpotifyやApple Music, Line Musicなどとは競合しないニッチ)

・現状は収益は得られない (これが逆にいいと思ってます)

そして何より日本のアップカミングアーティストにとって重要な点は

・立ち上がったばかりのプラットフォームなので、コミュニティーはまだ大きくない。つまり、特に海外のアーティストやリスナーに見つけてもらいやすい

・今、参加しているアーティストはSoundCloudで名を挙げた第一線アーティストも多いので、そういう人たちの目にとまりやすい。

日本のプラットフォームでは、SoundCloud的な機能を作りやすいという点で巨大コミュニケーションのインフラLINEを持っている「LINE MUSIC」の今後の拡張性などにも期待してます。

Audius Musicのようなものを活用して、まず音楽を気軽に作ってシェアする。海外とも繋がりながら、これぞという音源は、Spotify, Apple Music, LINE Musicなどのプラットフォームに出すというやり方が、今日本で可能な最もエキサイティングな活動方法の一つだと僕は思ってます。

それではよい音楽ライフを!

原文:starRo

編集:葛原信太郎 
Twitter https://twitter.com/Shintaro_Kuzu
Note https://note.com/shintaro_kuzu/n/n4f5e86fc3fc2


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