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勝手にファンタジー小説。ハロウィン選挙④

なんだかうろうろしていたら随分と時間がたってしまったようだ。

もう日が暮れようとしている。

私は村を一通り回りながら人間観察なんかをしていた。

おっと、あそこで小さな男の子がうずくまって泣いてる。
その前に男性が2人、何かやってる。

言い争い??

A「おまえはひっこんでろ!」
B「それはこっちのセリフだ。先に見つけたのは俺だ!」



あ~、なるほど、クライアントの取り合いね…。

なんだかこの村、あまり居心地はよくない。
このような偽善の押し付け合いを、ここ数時間何個も今日見てきたので、私はもうあきれ顔である。


はぁ、仕方ない。


私は小さな木の葉を見つけ、
それを人形の形にして、
泣いてる男の子に向けてくるくる飛ばす。

実は私、風の魔法が少し使えるのです!


男性二人は男の子には目もくれず言い争いを今だに続けている。

ふと、木の葉に気づいた男の子が、ビックリして泣き止んだようだ。

そんなことにも気が付かない2人…


お疲れ様です。


私は木の葉の人形にこっちにおいでおいで~とポーズをとらせて、
きわめて静かに私のところまで男の子を運ぶことに成功したのでした。

A「お前のせいでボーズがいないじゃねーかよ。」
B「知るかよ!お前のせいだ。」


あーあ、あんなことおおやけの場でやってたら、候補者としても見てもらえないんじゃないかな?

ま、私には関係ないからいいや♪


男の子はくるくるまわる木の葉の人形に今も夢中だ。

ルナ「面白い~?
これ、お姉ちゃんの特技。」


私は男の子に話しかけてみた。

そして、話を聞くには...


どうやら、家に帰る時間がいつもより遅くなってしまい、
お母さんに怒られまいと急いで走っていたら、
そこで思いっきり転んでしまったらしい。


膝を擦りむいたと、その子は私に傷を見せてくれた。


一人で帰れるとは言っていたけれど、
もう夕日も落ちてしまったし、
なんとなく心配だし一緒に家までついていくことにした。

別に、漁夫の利を狙っているわけではない。
そう自分に言い聞かせながらw


「あっち」
と言って歩く男の子を先頭にして、私は連れられて歩いていく。
どうやらその子の家は宿をやっているらしい。

なんだ~、一石二鳥じゃん。

上手くいけば、その宿に泊めてもらおう。
流れるまま、赴くままに私は足を進めていくのであった。

男の子「お、お母さん、ただいまぁ・・・・」


男の子のさっきまでの元気はどこへやら。
わが家へ着いた男の子の声は小さい。

どうやら門限をかなりの時間すぎてしまったようだった。


ドドドドド!

母「カイト!遅い!!
もう1時間も門限過ぎてるじゃないかい!
今の時期は外は危ないからって、
あれだけ早く帰ってきなさいって言ってるのに、
あんたって子はーーー!!」

豪快な足音と共に、男の子のお母さんと思しき女性からのお説教がコンコンと始まる。

それに見かねて私は、ここぞとばかりに発言するのでした。

ルナ「あ、あのー、
おとりこみのところすみません。

こちらは宿屋だとお伺いしたのですが、しばらくの間お世話になりたいのですが、
お部屋空いていますでしょうか~…」


私の存在に全く気付いてなかったお母さんが、私の声を聴くなり向き直り

母「こ、これは、お客さんでしたね。おほほほ。
お見苦しい所をお見せして、本当に申し訳ありませんでした~。」

どうやらこれで、
私の存在に気づいてくれたようだ。

ルナ「あの、実はこの付近でお子さんと知り合って、宿を探していたので案内してもらっていまして。

道中暗くなってきたので、つい私が急がせてしまって、
お子さんが転んでしまって、

それで逆におうちにつくのが遅くなってしまいました。
本当に私のせいですみませんでした。」

わざとらしく、私は深々と頭を下げた。

そして、頭を下げたまま、カイト君の方を見てウインクを送った。

母「え?そ、それはそうと知らずに。
どうぞお顔をお上げください。
お部屋はちょうど一部屋空いておりますので、
よかったら泊まっていってくださいませ。」

おおっ!やったね。
これで今日からの宿をゲットできたわけなのです。


受付を済ませた私に、しばらくしてカイト君が駆け寄ってきた。

カイト「お、おねーちゃん、さっきはその、ありがと。
けど、怒られたのは俺が遅かったからなわけだし、
言いつけされてたこと守らなかったのは、悪かったから…だから…」

ルナ「そうだね。明日からは門限の時間に帰るんだよ!
分かった?」

私は笑顔でカイト君をたしなめた。

カイト「うん。わかった。
あ。ねえ、
お姉ちゃんは、こうほしゃって人?」


カイト君は私のワッペンをチラ見していた。

ルナ「うん、そうだよ。
やっぱここの子だからよく知ってるよね。
私はルナっていうんだ。どうぞよろしくね。」

カイト「う、うん。母さんが言ってた。
あんまりこうほしゃに近づかない方がいいって。今は危険だからって…」

ルナ「…そうだね。
ここにはいろんな人が集まってきてるみたいだから。
だからお母さんも、カイト君が心配なんだと思うよ。」

カイト「う、うん…。でも、お姉ちゃんは色々助けてくれたし、悪い人じゃないと思う。
 
だから

ありがとうって言いたかったんだ。
ただ、それだけ。」


そう言うとカイト君は、私に背を向けて去っていった。

この村にとっての候補者って、一体どんなものなんだろ?
なんだかとても複雑な気持ちになってしまう。


やれやれ。
なんだかよくわからないけれど、私は自分のなすべきことをしよう!

そう思い私は自分の部屋へ続く階段を踏みしめた。


宿屋は2階建てになっていて、全部で6室あるらしい。
今は選挙前で、この村以外からやってきている人が多く、
全室埋まっているそうだ。

そんなに派手ではない、
まさに、隠れ家的なこの宿も
選挙が近くなると満室になるんだと、先程受付の時に話を聞いた。

確かに、外から見たらここは一般家屋。

なので、普通なら宿だって気づかないかも。

カイト君に出会ってなかったら見落としていた自信だってある。
そんな誰も知らない宿屋さえ、今は満員御礼状態。

おそらくこの村は外からのお客様で満杯なのだ。


そんな宿に恵まれた奇跡に感動しつつ、
私は部屋の前で立ち止まった。


ええと、鍵、鍵~。


鍵を取り出し鍵穴にさしていると、隣の部屋の扉が開いた。

そして、出てきたのは…

なんだか見覚えあるいでたち…


え~と、あの人は…



そう、昼間に『ごいっしょ』した、

私の師匠?サントだった。


サント「な、なにやってんだ、お前。」

ルナ「いやー、サントさんではないですか!奇遇ですね。
では。」

サント「奇遇ですね。じゃないだろ、こら!」


部屋に入ろうとする私の手をつかんで離さないサント。


ルナ「ちょ、ここ、自分の宿なんですよ。
荷物とかあるんで放してください~!!」


さっきの奇跡が、今まさにちょっとだけ絶望に変わった瞬間でした。

ああ、ホントになんという奇跡…

(つづく)

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