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「アンカリング効果の活用は、戦術というよりUX戦略の話である」と思っている

この記事の位置づけ

個人的に「アンカリング」はUX戦略を検討する上で超重要な概念と捉えています。が、世にあるアンカリングの話は「戦術」レベルにしか昇華していないイメージもあるので、私なりの考えを一旦整理しておきます。

※ そもそも「アンカリング効果」を正しく理解しているのかも分かっていないのでトンチンカンなこと言っていたらごめんなさい。
打ち手部分まで含めるとリフレーミングとかも概念としては近いかもです。

一般的な(戦術としての)アンカリングとは

アンカリング効果とは、印象的な情報や数値が基準となって、その後の行動に影響を与える効果のこと、という意味らしい。(参照: https://brave-answer.jp/5418/)

アンカリングは「アンカー(=いかり、錨)」が語源となっている言葉です。
船がその場にとどまるために錨を下ろすように、特定の情報をアンカーとして判断に影響を与えるのがアンカリング効果です。

下記などはおそらくアンカリング効果のイメージ付きやすい例です。

A.あんな不良だったのに、今では学校もきちんと行けて偉いね
B. このお皿、1000円のところ90%オフの100円!

上の例でアンカー(いかり)は、A. 「不良だった過去」、B. 「1000円という元値」です。本来「学校に行ける人」も「100円のお皿」もふつーなのにも関わらず、ちょっと偉い気もするしちょっと安い気もする。それだけでアンカリングの威力のイメージがつくと思います。

これだけでも十分面白いんですけどね。UX戦略まで踏み込むと、もう一歩面白い世界が待ってます。少し長いですがお付き合いください。

UX戦略としてのアンカリング1: 捉える市場の変化

例. Fintech系、投資系サービス

(実際には制約とかいろいろある領域ですが、概念のイメージが付きやすいよう好き勝手言わせて下さい)

ウェルスナビ、Folio、One tap buyなど、「手軽に投資できる」というサービスって最近流行っていますよね。これまで専門家しか投資できなかった世界から、今後はより身近になっていくと思っています。

超雑ですが、今回は「アンカリング」という観点に立ってこれらのマーケティング方針を見返してみます。

ウェルスナビ・Folioを例に取ると、マーケティングの方針は、「かんたんに投資できる」「全自動で投資できる」という概念ですよね。この際、アンカリングはあくまで「投資」です。

ただ個人的には彼らは「投資」を「貯金」の位置付けに近づけているプレイヤーだとも思っています。
そこで、例えば「貯金」にアンカリングするとどうなるでしょう?

多少のリスクと引き換えに多めにリターンを期待できる貯金」とか「投資風の貯金」とかそんな感じになるんですかよね。(キャッチコピーセンスなさすぎてごめんなさい)

個人的には、「貯金」と言われる方がぐっと親近感が湧くのですがどうでしょう? ※気のせいだったらごめんなさい

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上図のように、見方を変えるとこれは、ターゲットの定義やバリュープロポジションの話になります。

■ アンカリングを「投資」に置く場合
ターゲットは「投資に興味あるけど、できていない層」。投資を始められないハードルは概ね煩雑性や貯金額なので、手軽に投資を始められることが価値となる。

■ アンカリングを「貯金」に置く場合
(仮説ですが)ターゲットは「貯金の利子では物足りなさを感じる層」。「リターンが多く望めること」が価値になりうる。(のではないか)

要は、「投資を検討している人」ではなく「貯金している人(or 利子に物足りなさを感じる人)」が市場になり、マーケットは圧倒的に大きくなるですよね。

市場が違えば、打ち出すべき価値も違う。アンカリングをどこに設定するかで市場規模も、バリュープロポジションも、マーケティングメッセージもすべて変わっていくのって、面白いですよね。

ちなみにUSなどではロボアドバイザーなどとても流行っている領域ですが、日本ではまだまだ感ありますよね。個人的にはアンカリングされている「投資」の概念自体がUSと日本で少しだけ異なり、USでは既に「貯金」的な位置づけのイメージがなされているからなのではと勘ぐっています。(立証できておらず、、、あくまでイメージでごめんなさい)

「投資」の位置づけ(勝手なイメージですが…)
US: 長期的、徐々に育てる(貯金的)
JP: 短期的、変動が激しく機を逃さないべき(デイトレーダー的)

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このように、どの市場に、どのような切り口で入り込むかを検討する上でもアンカリングは重要なんですよね。特に新しい概念を提唱するサービスは結局の所既存行動の代替なので、「どこに軸(アンカー)を置くか」が非常に重要になってくると言えます。

UX戦略としてのアンカリング2: 利用方法/機能開発への影響

前の例をそのまま引っ張りますが、投資サービスはアンカリングを「貯金」にするだけで、サービスの利用の仕方も少し変わりそうなのは個人的にとてもおもしろいです。
アンカリングを「貯金」とすることで、「日々損をしないように気をつけないと」という投資的なイメージよりは、「ちょっと長期的に寝かしておくもの、長期的にリターンが多くなるもの」というより貯金に近い位置づけになります。

こんな形で、アンカリングはサービス利用の仕方にも影響を与えうるんですよね。

ニアリーイコールで、機能開発の優先順位も変わってきます。「手軽な貯金」だと「500円で取引できる!」などの手軽さを示す機能が重要になりますが、「貯金」と捉えるともしかするともう少しバンキングっぽい機能が必要になる可能性があります。

サービス利用に関してもうすこしイメージつけやすいところで言うと、IDEOが子供向けに行ったMRI室のデザイン、などですかね。(ちょっと無理やりかもしれないですが)

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無機質だったMRIの部屋全体を装飾し海賊船に見立てた、という話です。子供にとってMRIは非常に怖いもので、8割以上の子供が麻酔を必要としていたところ、この工夫により麻酔の利用は1割くらいになったとか。(「明日も来たい」という子供が出てくるほど…笑)

これも、アンカリングを「MRI/病院(→優しい先生のいる病院)」から「海賊船(→知らないうちに検査されている遊び場・海賊船)」に変えた例として挙げられるかもしれません。

看護師も「これから海賊船に乗るからね。海賊に見つからないよう、静かにじっとしていてね。」と伝えるなど、すべてのタッチポイントで世界観が統一されているのは素敵ですよね。

UX戦略としてのアンカリング3: 価格帯への影響

最後に、「価格帯への影響」も面白いところだなと思っています。入り込む市場が違えば、もちろん周りの値段も変わってくるので1個目の派生のようなものですが。

以前コンサルティングをしている中で、「教育アプリ」と捉えたら300円くらいしか払えないけど、「(由緒正しき)教材」と捉えたら1500円/月くらい払える、という教育系サービスの話を聞いて面白いなぁと感じました。

新聞のアプリとかもそうですよね。「良質なニュース記事がアプリで4000円で読める(アンカリング: WEBニュース)」と聞くとうげっとなりますが、「新聞がアプリでも読める(アンカリング: 新聞)」と聞くと納得感はあります。(だからこそ体験の中で、新聞のコンテンツを見ているのである、と感じさせるUX設計が必要になって来ますね)

さいごに

このように、特に新しい概念を市場に提唱していくにあたり、「アンカリング」は非常に大事になってきます。

結局は「どの市場からパイを取るか」と仮説立てをしながら考えることなので、広義のマーケティング思考を考える人は自然にやっていそうですけどね。
※ 私はこの概念を「アンカリング」と呼んでしまうのですが、なんか正しいマーケティング用語などありそうな気がしています。

備忘的に。



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