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CTO・VPoEのキャリア〜組織成長と文化の両立へ挑戦〜株式会社ヘンリー VPoE松木 雅幸氏

こんにちは、Startup Tech Live事務局です。CTO・VPoEのキャリアシリーズでは様々な企業のVPoEにインタビューを行います。
どのようなバックグラウンドがあり現在VPoEとして活躍しているのか、VPoEとして何に向き合っているのか、過去のキャリアから現在の仕事まで深くインタビューをします。
今回は"医療業界の業務改善" を実現するためにクラウド型電子カルテ・レセコンシステム「Henry」を提供する株式会社ヘンリーのVP of Engineering(VPoE)の松木雅幸氏にStartup Tech Live(以下、STL)がインタビューを行いました。ぜひご覧ください。

現在に至るまでのキャリアについて


松木さん)学生時代は慶應SFCでインターネットに初めて触れました。コンピューターを使うこともありましたが、中国語にハマってその関連の授業を多く取りました。中国語機械翻訳の研究も少ししていました。
卒業の頃は、いわゆる就職氷河期で、見事に就職活動に失敗し、卒業後は大学の先輩が中国で起業する話があり、その手伝いをすることになりました。その後、英会話の語学学校で勤務しました。社内ベンチャーをやっている担当役員の配下でオンラインレッスンや、中国語教室の新規展開など面白い経験をさせてもらいました。

なので新卒からエンジニアキャリアに進んだわけではありません。
この頃から、エンジニアとしてのスキルを磨きたい気持ちになり、転職活動を通して2009年頃SIerに転職することになりました。
当時Web系の企業もかなりの数を受けましたが経験がなかったためすべて落ちてしまいました。
2年間は、PHPでの金融系システム開発やクラサバの基幹物流システムを担当していましたが、よりWeb開発に携わりたい気持ちがずっとあり、ご縁のあったカヤック社に入社しました。当時30歳ごろですね。

カヤック社ではソーシャルゲームのリードエンジニアを3年間やり、その後はてな社に転職し、チーフエンジニアとして東京のエンジニアチームの立ち上げ、エンジニア向けのSaaSプロダクト開発に携わりました。最終的にはプロダクトマネージャーを任せてもらいました。

その後当時のCTOが海外に移住するためCTOのロールを引き継いでほしいとご縁をもらい2019年Nature社のCTOに就任しました。
カヤック時代の同僚であり、師匠として尊敬していた方の後任ということでプレッシャーもありましたが、評価してくださったという嬉しさと自分自身の経験にもなると思い決断しました。取締役CTO,そしてVPoEという様々なロールを経験させてもらいました。
だんだんとマネジメントが中心になってきたことや、英語環境で自分をさらに磨きたい気持ちがありLaunchable社にIC(Individual Contributor)として転職しました。
Globalで戦うスタートアップの不確実性を目の当たりにし、2022年12月頃に転職活動をしていたときにヘンリーと縁があって、入社することになりました。

STL)エンジニアとしても人としても様々な経験を積まれていると思います。これまでを振り返って、ご自身として努力した話や苦労された経験等あれば伺いたいです。

松木さん)そうですね。元々プログラミングの面白さに気づいたきっかけは、高校時代の課外授業です。その後大学に入って授業等で触っていました。当時周りはゲームを作っていたのですが、個人的にはあまりハマりませんでした。プログラミング自体に情熱を持てるようになるまでは時間がかかったなと思っています。
2000年代の前半にWeb2.0と言われている時代に、日本人のエンジニアがサービスを立ち上げて、ブログで発信してるのを見ている中で自分もエンジニアを目指すようになりました。遅咲きかなと思ってますね。

SIerに入社し、自分なりに学習し知識が身についてると感じる一方で、しっくりこない時期が長くありました。何らかのアウトプットや成果を出していた自負や、会社でそこそこの評価をもらってた自信もありました。ただ、その勉強会等で出会う人と比較すると圧倒的な差に直面することが多くありました。
意識的に外部の環境に触れ、さらに技術を磨いていかないと成長できないと思い、同僚と一緒にアウトプットしたり、ブログで発信したり、コミュニティで積極的に登壇する等して外部に出ていく機会を意図的に増やしました。そういった機会を重ねることで自分のスキルが飛躍的に上がったと思います。

松木さんにとっての生存戦略とは

STL)常に外部を見ながらご自身の成長を考えられている点、非常に尊敬します。
あるべき姿だと思いつつもそういったマインドセットを持つ難しさもあると思います。松木さんご自身のブログを拝見し、「日本のマーケットにおいてのスタートアップCTOとしてはワークするけれども、世界に目を向けたときは難しい」という話があったと記憶しています。

常に生存戦略を意識されており、高みを目指しながらご自身を磨くことができる姿勢は何か原体験があられたのでしょうか。

松木さん)元々の性格が大きいと思います。割と根っこのとこで変に真面目な部分がありますね。他人と比較してコンプレックスがあるというよりは、普通のままだと立ち行かなくなるんじゃないかという感情を強く持っています。
特に変化が少ない状態では行き詰まるので、意図的に違う選択をしています。保守的で怠惰な部分があるので、逆に新しいチャレンジを意識的に自分に焚きつけていかないと、右肩下がりで停滞して、うまくいかなくなるのではないかと思っていますね。
緩い危機感を持って日々動いているので、そういったマインドが転職時に顕著にでるんだと思います。

Globalな環境に対しての興味は、子供が生まれたことが大きなきっかけです。2015年頃に生まれましたが、彼ら彼女らは人生100年時代なんで、2120年ぐらいまで生きるわけですよね。
その頃の日本はもしかしたら今のような環境ではないと思いました。子供らの世代の最悪のシナリオを考えて、子供たちが選択肢として、海外を取れるようにしておきたいと思ったので、自分としても一度はGlobalな環境で仕事をしてみようと決めたのが理由です。

もちろん自分のスキルを圧倒的に成長させるのであれば海外は避けて通れないものだと思っていたので自分自身としても興味はありました。

グローバル視点で見る日本企業の特色と課題

松木さん)一番驚いたのは、圧倒的に学生時代にコンピューターサイエンスを学んでいる人が多いことですね。特に西海岸のスタートアップでは、30歳前後のマーケティングやセールスのトップのほとんどは大学でコンピュータサイエンスを学んでいました。
日本だとコンピューターサイエンスを学んでいる人は結構な割合でエンジニアを目指すと思いますが、エンジニア以外のキャリアでも当たり前のようにコンピューターサイエンスの知見や経験がある。

スタートアップのテック企業にはこういったバックグラウンドのプレイヤーが多く存在していることに驚きましたね。

STL)今でこそプログラミングが小学校の授業で必修化となりましたが、当たり前にコンピューターサイエンスのことがわかる・日常的にプログラミングができる人材が増えるにはまだ時間がかかるんだろうなと思っています。
ビジネスサイドとエンジニアサイドの共通言語が難しいという話も聞きますが、これは日本独特とも言えますし、シリコンバレーが進んでるという言い方ができるかもしれません。

松木さん)海外では一昔前スーツとギークと言われていましたが、だいぶこのイメージも薄れてきたと思います。日本はスタートアップそのものがシリコンバレーと比較すると遅れているので、まさにバックグラウンドの違いによるコミュニケーションのしにくさは起こりやすくなっているのかもしれません。

ヘンリーVPoE松木さん

キャリアにおける役割の意味

STL)CTO、PdM、VPoE、ICなど色々な役割でキャリアを積まれてきたと思いますが、松木さんにとって役割はどういったものとして考えていますか?

松木さん)そうですね。役割に応じてやること(フォーカスすること)は当然変えた方が良いと思っています。役割としての帽子を被り変えるようには意識していますね。
今のフォーカスポイントが何なのかを定める、それにしっかりフォーカスするということは心がけたいなと思っています。

やりたいことと、求められることをどう両立させるかは、自分としては大事にしたいことです。一方で、求められることには、自分の意外な強みや、意外なチャンスがあると思っているので、予想外のオファーがきたとしても、すぐにNoと言わないようにしています。
ただ求められてることを自分のやりたいことに消化して、評価されることをイメージできないとうまく動けないと思っています。
なので最終的には自己決定感が何よりも大事だと思っています。ちゃんと自分がやりたいことをやっているんだという実感を持って行動できるかがすごく大事ですね。
もちろん求められることが変わる中で、自分の動き方を意図的に変えてきたところはあります。

Launchableの入社は自分のやりたいことを優先で考えた意思決定ですね。役割は大事だと思いますが、その役割1つのことを長く続けると、だんだん惰性で動くようになることもあると思うので、そうならないように意識しています。
あと今やってることを省力でできるようにして、余力をだす。その余力をどこに当てるかは、常に考えるようにしてます。

STL)いろんな役割をやってきてる中で、ご自身としてはあまりうまくいかなかったな。という役割や経験はありましたか。

松木さん)そうですね。細かくマネジメントすることはあまり得意ではないですね。例えば、現状のユーザーストーリーを整理して、計画的に進めていくことはあまり得意ではないです。先ほどフォーカスするのは大事と話しましたが、実は色んなことをやってしまう部分があって、そこで案外漏れが発生することも。
僕の得意なところは、雰囲気作りや、周りをモチベートしていい感じに動いてもらう状況を作り出せることだと思っています。

STL)Natureで取締役CTOを経験されたと思いますが、経営に携わるようになり、カヤック社やはてな社の在籍時と比較したときにどのような変化がありましたか。

松木さん)そうですね。変化は大きかったです。VCの方や出資者の方とお話させてもらうことも増えましたし、スタートアップは普通のWebベンチャーや老舗ベンチャーと、力学が違うと感じました。かなり出資者頼りなところがありますし、関係性みたいなのもすごい大事だなと感じましたね。

起業家の危機感や、すごい大変な思いをしながら取り組んでいることを目の当たりにできた経験は、非常に貴重でした。
Nature は、僕が入ったときは10人未満くらいで、人事担当者も不在で採用フローも決まってなかったので、新規プロダクトを開発をしつつ、人事的な立ち回りも行いました。
スタートアップ初期の何もないところから、自分で何でも作り上げてみるという経験ができたのはよかったですね。

エンジニア採用自体は、はてな時代からもう10年近くやっているので、自分の中で型みたいなノウハウはできました。現場においての採用ではかなり活かせていると思ってますね。ただノウハウの発信はしてこなかったので、今後は自分の言葉でまとめて、アウトプットすることにチャレンジできればと思います。

ヘンリー参画の決断


STL)採用に強い方がジョインすると会社の採用力自体も大きく変わると私も実感しています。現にヘンリーもその1社だと思っています。ヘンリーに参画を決めた理由があれば教えてください。

松木さん)正直ヘンリーかなというのは、今回の転職活動の早い段階から思っていました。もう1社有力な会社があり2社で悩んでいたという感じです。
ヘンリーは短期間で色んな人とのコミュニケーション機会を提供してくれましたね。エンジニアの人だけではなく、カスタマーサクセスの人や導入担当の人も。もちろん代表の逆瀬川さんと林さんも。
会社の解像度が非常に早く上がったのは非常に良かったです。

最終的に悩んだ2社はどちらも自分を必要としてくれる会社でした。ヘンリーは当時30人で、会社のサイズとしては小さめ。もう1社は、100人を超えたタイミング。
自分の中でちょうど組織づくりに興味を持っていたタイミングということもあり、これから文化作りをしていける、ビジネス的にも社会意義があって、合理性かつ勝ち筋があるなと思い決めました。僕にとってちょうどいいフェーズ・サイズでした。
条件面においても最初の方からすり合わせした上で選考を進められたので大きなズレもなく進むことができてよかったです。

STL)松木さんの意思決定の面においても、採用の側面としてもすごい良いエッセンスが入ってるお話だと思いました。
きっかけはすでにヘンリーにいたエンジニアの方からのリファラルでしたよね。フェーズや組織規模に関係なく、将来松木さんと働きたいというのがずっとあったから、早いタイミングでの声掛け・アプローチがあったのではないかなと思っています。

松木さん)純粋に嬉しいですよね。誘って頂いた縣さんと私もいつか働きたいと思っていたので、そこは良かったです。転職先を選ぶ上で、自分より年下で自分より優秀なエンジニアがいるっていうのも意識していたポイントでしたね。
自分がワントップのようなポジションに入ることには興味がありませんでした。ヘンリーは縣さんのような若くて優秀な人がいるからということと、入ってみたら他にもそういう優秀なエンジニアがたくさんいたのはよかったなって思ってます。

STL)今まで色々と経験されているので、単純にワントップCTOのほうがやりやすさがあるのかなと思っていました。

松木さん)そうですね。僕自身まだまだエンジニアとして成長したいというのが大きな理由ですね。現場の人含めて、一緒に切磋琢磨できるような感じがいいなとずっと思っています。
組織って上手くやらないと、トップの能力に律速されてしまう。そこが上限値になってしまう。なのでワントップCTOとしてうまくやるのも難しそうだなと感じていました。

それこそ次やるなら、起業するのは選択肢としてあるかもしれませんがどこかに招聘されてCTOになるみたいなのは、自分にとってはあまりイメージが沸かなかったですね。

ヘンリーのVPoE
(左)張さん・(右)松木さん

志:組織成長と文化の両立へ挑戦

STL)ご自身の強み×マーケット×メンバーで、勝てる確率が高いと思い意思決定を決められたのかなと感じています。これから組織を強くしていくにあたり、大事にされてる考え方や志はありますか。

松木さん)過去所属した組織は、入社時に100人以下で、そこから100人を超え、IPOをしました。すごくいい会社ではあるものの成長するにあたって、全体の熱量が薄れてきている(個人によってばらつきがある)ことは感じていました。
創業当初からいる人からすると堅苦しくなった気がする、後から入ってくる人と創業メンバーの意識の差や、情報格差が原因で熱量が落ちてると感じた経験がありました。
自分としては、今後はそういうフェーズにおいてももっと主体的にトライをしてみたいですね。
当時はメンバーに近い立場で、会社の組織、文化を作る立場ではなかったので会社の変化を見ていただけでしたが、今は主体的に動ける位置にいると思っています。
組織が大きくなる中で、文化が壊れないようにしつつ、成長速度と、人が増える速度を平行線にできるか、同じペースで伸ばしていけるか、すごく興味があります。これはヘンリーという組織でどのくらいうまく実現できるのかやってみたいですね。

仕組み化も大事ですが、みんなが自分の頭で考えて行動できる行動のベクトルが揃ってるという感じになると良いなと思っています。そういう文化があってこそ良い組織になると思っています。

それと同時に、エンジニア採用を長く経験してきた中で、採用のハードルを絶対下げないことは意識してやってきました。結果非常に優秀な方にジョインしてもらうことができました。
ただ採用のアクセルをさらに踏んで、組織と事業ともに爆発的に加速させる、拡大に伴い発生するであろう痛みを最少に抑える、かつ一定の痛みに耐えるみたいなことはまだ未経験なのでヘンリーが成長する中で経験したいところですね。
その中で文化や組織作りもあわせてちゃんとやりたいなと思ってます。

STL)松木さんご自身のご経験と今後経験したいミッションを重ね合わせたときにヘンリーであれば、拡大しても揺るぎが少なく、成長の痛みに耐えれる組織をつくれると可能性を感じて参画したと感じました。
最後に松木さんが感じられたヘンリー全体のカルチャーについて教えてください。

松木さん)みんな協調性が高いですね。あと、フラットに情報共有をして、それぞれが意思決定をして進めていこうという意識は高いと思います。
そのあたりは、トップの性格が良い影響を与えていると思います。代表の2人は人としては魅力的な2人です。

2名代表制を取ってる中で、通常は複数代表がいる会社は結局どちらかが会社のトップというイメージが強くなると思いますが、ヘンリーの場合は2人とも会社のトップだよねとみんな見ていると思います。
そこは、すごく魅力的だし、面白いです。
まずトップ同士が協調できてる、基本的にはお互いリスペクトし合っていて、お互いの言うことに目線のずれがないんだろうと感じています。
だからこそトップダウンでやっていくよりも、協調性とリーダーシップを持って進めていくカルチャーなんだと思います。
トップの能力に律速されずに、さらに大きいことが実現できる可能性があるなと思っています。
トップがすごかったから成功したスタートアップはたくさんあると思っています。でも意外にそういう会社でも日本だけに留まってしまっている会社も実際あると思います。

さらに大きいことを実現するためにも、ミドルマネジメントのミドルアップダウン的なアプローチがうまくいくような会社としてベストプラクティスを生み出せたらいいなと思っています。
ヘンリーはその可能性があるし、カルチャー・そういう思考を持った人たちが集まってるなと思ってます。

STL)ヘンリーの特徴の1つに、カルチャー全体としてトップダウンではないと感じることが多かったですね。一方で不思議だなと思ったのが、ボトムアップの方が意思決定のスピード感が落ちるイメージがあり、でもヘンリーはボトムアップの中でもしっかりスピード感を担保できている
松木さんから見てボトムアップだけどスピード感をもって意思決定できているポイントはありますか。

松木さん)誰がドライバー・リーダーになるかはフラットな組織だからこそ意識した方がいいと思っています。
私が見てきた経験として、自分も含めてトップに意思決定が詰まりすぎて、結果意思決定する時間が遅くなることは大いにしてあると思います。
だからみんながそれぞれ意思決定できるような体制・状況をつくるほうが大事だと思います。
各自がそれぞれの領域でリーダーシップをもって意思決定できるのが理想的だと思いますね。
トップの人たちはミッション、ビジョンみたいな会社の軸をしっかり浸透させ、各自の判断が間違わないようにできたらすごく良いと思います。
それがヘンリーとしてもあるべき姿であり目指すべき状態なのかなと思っています。


ー編集後記ー
スタートアップに向き合うためのあるべきマインド面を改めて考えさせられました。適切な危機感を持ちながら、スタートアップの不確実性さを経験してきた松木さんがどう組織に向き合い、志しているのか。
スタートアップという組織フェーズで、自分たちの理想がどこまでベストプラクティスとして実現できるか。未来はわかりませんが、様々な経験をしてきた松木さんが勝算があると感じたヘンリー社であれば実現できると思ったインタビューでした。



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