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ポイントは何故タダで貰える❓【現在価値という概念からポイント発行企業の収益を考察】

当記事は、統計解析レポートの一部を抜粋したものです。
内容が気になった方はホームページより全文をご覧ください。
https://www.statsokinawa.com/report3

2022年現在、日本経済において、ポイントサービスは生活に浸透しきったサービスだと言えます。
TSUTAYAのTポイントカードの普及に始まり、docomoの提供するdポイントやローソンのPontaポイント、ソフトバンクグループのPayPayなど、自社サービスを拡充する戦略の一つとして、ポイントサービスの導入は当たり前のスタイルとなりました。

では何故タダで、あるいはタダに近いようなポイント10倍、20倍キャンペーンなどを題して、ポイントを付与出来るのでしょうか?ポイント発行企業は損しないのでしょうか?

本記事では現在価値の観点からポイント発行企業の収益構造を考察します。


ポイント発行企業の利益

楽天などの大手ポイント発行企業がどのようにして利益を獲得しているか考察する。

一般的に考えられる収益化戦略は以下のようなものである。

①大手プラットフォーム企業としての立場を活用し、システム利用料や加盟店手数料で収益化を図る。
②同様に、ECサイトからコンビニ、ガソリンスタンドまで利用可能である規模の経済を利用し、収益化を図る。
③PayPayの様に、莫大な資金力を活かした還元キャンペーンなどの「バラマキ」を行い、⾧い年数をかけて収益化を図る。
④ポイントそのもので収益化を図るのではなく、利用者から集積されたビックデータを解析することで、マーケティング戦略に取り込み、全社的な意味で収益化する。

しかし、これだけではポイントサービスの導入が、確実に収益化する理由としては弱く、各社がこぞって取り入れるマーケティング戦略とは考えづらい。
そこで役立つのが【現在価値】という概念である。


【現在価値】とは?


現在価値とは現在の手持ち資金に利息を付けたり、割り引いたりする『お金の時間的価値』を表す。
まず、一般的な金利(将来価値:Future Value)について考える。


今現在の100円が5年後どのくらいの価値になるのかを見てみる。(金利は5%と仮定)

100円  ×(1+0.05)^5 ≒ 127.62円

つまり、今日100円だったお金は、5年後に128円になっている。
これが将来価値だ。
金利分お金が増えるという当然の考え方である。

次に、一般的な金利の逆バージョン(現在価値:Present Value)について考える。

5年後の100円を同じ金利で現在まで割引いてみると、どのくらいの価値になるのかを見てみる。(金利は5%と仮定)

100円  ÷(1+0.05)^5 ≒ 78.35円

つまり、5年後の100円は、今貰うと、79円の価値しかない。
これが現在価値だ。
金利分お金が目減りするという将来価値の逆バージョンの考え方である。

この【現在価値】という概念を応用して、楽天などの大手プラットフォーマーが何故タダでポイントを付与できるのか❓またはタダに近いようなポイント10倍、20倍キャンペーンを行っても損失が出ないのか❓を考察する。


通常、利用者に付与したポイントは時間をかけて回収する(利用してもらう)。利用者のスマホにあるポイントが即座に使われるとは限らないからである。

例として本日、楽天はあなたに対して、大型キャンペーンと題して50,000円分のポイント(50,000P)を付与したとしよう。※1P=1円

仮にこれを5年かけて回収するとする。
当然回収時のポイント価値には、【現在価値】と【将来価値】の概念を当てはめて計算する。


図で示した通り、この差額分(50,000-43,295=6,705円)は、ポイント発行企業にとって、初期投資>回収額となるので、損失となるはずだ。
※NPV(Net Present Value:正味現在価値)は現在価値の合計である。


大手企業のポイントサービスのカラクリ

しかし、大手企業が損失覚悟で顧客拡大の為に【バラマキ】を行っているわけではない。

これには二つのカラクリがあると考えられる。
①付与したポイント(50,000P) + 通常の消費(利用者の現金)で初期投資を回収出来る。
②付与したポイントは、全額回収できた場合(すべて利用してもらえる)付与した以上の金額になって戻ってくる。



付与したポイント + 通常の消費(利用者の現金)で初期投資を回収

一つ目のカラクリである①は想像しやすい。
キャンペーンで付与したポイント以外に、利用者の現金消費を合計した額を回収する、という考え方である。
下図の場合、5年間の合計は54,938円となり、ポイント発行企業は4,938円の利益を獲得できる計算となる。

※ポイント50,000 + 利用者の現金消費12,500円=合計62,500円を現在価値で割引いた金額が54,938円



付与したポイントを現在価値に割引き、ポイント回収時の差額で初期投資を回収


②が【現在価値】と【将来価値】の概念を当てはめた考え方だ。
付与されたポイントの時間的価値が重要となる。

まず、本日50,000Pあなたに付与する。
付与されたポイントはあなたにとっては何時までも50,000Pの価値がある。利用する時は、ちゃんと50,000P分利用できるからだ。

しかし、ポイント発行企業の立場から現在価値に換算して見てみると、あなたがスマホに保有しているポイントは、1年後には目減りしている。2年後、3年後はもっとその価値は目減りする。
これは、5年後の50,000Pを今現在の価値に換算した数値と一致する。つまり『楽天はポイントを付与した時点で、現在価値に割引いて計算している(43,295P分の価値しかない)』とも考えられる。

一方、あなたから回収するポイントは、あなたに預けていたものと考えると、金利分増加して帰ってくることになる。
この差額がポイント発行企業の利益になると考えられる。

これを図示するとこうなる。

5年目の回収額は、
10,000P + 回収時と付与時のポイント差額14,725P = 24,725P
となり、初期投資額を上回って、4,832円分の収益が生まれるという考え方だ。これが二つ目のカラクリである。


大手企業がポイント発行後に損失を被るケース


勿論、この考え方には落とし穴もある。
ⅰ.利用者がポイントを使用せずに、回収出来なかった場合。
ⅱ.低金利の場合、これ程顕著に利益は出ない。
ⅲ.実際には、利息を含めたポイントが回収できるわけではない。
※あくまでも理論上の収益であることに留意。受取利息を考慮しない場合、NPVは48,548円となり、△1,452円の損失となる。
ⅰおよびⅱの場合、ポイント発行企業は損失を被ることになる。


ⅰ.利用者がポイントを使用せずに、回収出来なかった場合


これは、利用者がポイントの存在を失念していたり、他社サービスに乗り換えていた場合などが想定される。
下記の例では、5年目に10,000P回収できなかっただけで、△13,004円の損失が発生する。


ⅱ.低金利の場合、これ程顕著に利益は出ない


これまで金利5%で計算していたが、実際の楽天グループの有価証券報告書では、割引率は0.57%を使用している。
この金利を使用した場合、利益は微少となる(814円の利益)。


ⅲ.実際には、利息を含めたポイントが回収できるわけではない

※あくまでも理論上の収益であることに留意。受取利息を考慮しない場合、NPVは48,548円となり、△1,452円の損失となる。
つまり、回収時のポイントは利用者が使用した通り10,000Pと見る。この場合でも付与時の現在価値と比較して△1,452円しか損しない。

まとめ


この様に、現在価値を加味しても多少のリスクは存在する。企業活動においてポイントサービスは一つのマーケティングツールであって、ポイントで事業を成立させているわけでは無いからだ。

しかし、ポイント発行企業がタダでポイントを付与したとしても、大した損失が出ないことは、上述した二つのカラクリから理解できるはずである。

更に、大手プラットフォーマーはパートナー企業から、システム利用料や出店手数料、加盟店手数料を徴収することにより、ポイント経済圏を拡大しながら安定的に収益が得られる構造を構築している。こちらの収益は莫大なので、ポイントが回収不能となった場合でも補填可能となる。

以上がプラットフォーマーであるポイント発行企業の収益構造の考察である。


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