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『枠内ゴール期待値(xGOT)』 枠内シュートとセーブの質を示す指標

この記事は、自社メディア『Opta Analyst』の記事を翻訳・編集したものです。
元記事はこちら:What Are Expected Goals on Target (xGOT)?


ゴール期待値(xG)では、シュートを放つ位置におけるチャンスの質と、そこから得点につながる確率を計ることができます。しかし、全く同じチャンスからでも、その後のプレーは選手によってバラバラです。そこで、「その後のプレー」を数値化する必要があります。

※xGについての詳細は、下記の記事をお読みください。

たとえば、xGが0.1のチャンスでは、平均的な選手が10回に1回の確率で得点するということになりますが、チャンスの活かし方は選手によって千差万別です。ゴール上部の角にシュートを放てば、ど真ん中に放つよりも得点になる確率は高くなります。Stats Performの枠内シュート期待値(xGOT)は、このような文脈を数値化するものです。

枠内シュート期待値(xGOT)とは?

xGOTとは、シュートチャンスが持つ可能性(xG)とゴールマウスでのシュートが放たれた位置情報の組み合わせから導き出せれる、「枠内シュートが得点になる確率」です。ゴール上部の角に放たれたシュートは、ど真ん中に飛んだシュートよりも高く評価されます。

xGOTは0~1の間で採点されます。0は0%、1は100%の確率で得点になるシュートを意味します。ボールが枠に飛ばなければゴールになる可能性はゼロなので、xGOTは枠内シュートのみに適応されるモデルです。

2021年1月のマンチェスター・シティ対クリスタル・パレスの試合で、ラヒーム・スターリングが放ったフリーキックを例に見てみます。シュートを放つ前は、得点になる確率が低いチャンス(xGは0.1)でしたが、xGOTではシュートが飛んだゴール内の位置も考慮して算出されます。

2021年1月 クリスタル・パレス戦
マンチェスター・シティのラヒーム・スターリングのフリーキックは0.1 xGだった

スターリングのシュートはゴール右上の角に飛んだので、クリスタル・パレスのGKビセンテ・グアイタにとっては難しいものになりました。このシュートのxGOTは0.81で、これはセーブの難易度の高さを示していると同時に、可能性の低いチャンスだったにも関わらず、シュートのクオリティが高かったということが読み取れます。

ラヒーム・スターリングの得点
クリスタル・パレス戦(プレミアリーグ2020-21シーズン)

枠内シュート期待値は、どのように計算されている?

xGOTモデルは、ロジスティック回帰モデルを使用して計算されています。これは、Optaの過去データから数十万本の枠内シュートを分析し、それらのxGとゴールマウス内のシュートが放たれた位置座標を元に算出されています。

枠内シュート期待値の活用方法

シュートの質の数値化

選手のシュートの質を数値化できるようになったので、これをチャンスの質(xG)と比較して評価することができます。もし、ある選手のxGOTがxGを上回っていれば、その選手は、与えられたチャンスから期待される得点よりも、多くの得点を生み出す質のシュートを放っていると言えます。このxGOTとxGの差を、弊社では「Shooting Goals Added(SGA)」と呼んでいます。

一方で、アタッカーの評価にxGOTを使う上で、気をつけなければならない点があります。ブロックされたシュートのxGOTは常に0になるので、この数値はディフェンダーのプレーに大きく左右されるという点です。ゴール上部の角に飛んでいくはずだったシュートも、ディフェンダーに阻止される可能性があるので、単純にシュートした選手だけを評価できるものではないのです。SGAは、便利な指標であることに違いはありませんが、選手の決定力を評価するよりも、枠内シュートの質を計る数値として使用するべきでしょう。

プレミアリーグ2019-20シーズンのシュート関連数値(PKを除く)

プレミアリーグ2019-20シーズンで、特筆すべきSGAを記録したのは、トッテナムのハリー・ケインです。彼は、10.9 xGの得点チャンスから、16得点を挙げました。xGOTを参照することで、ケインのシュートの質の高さが見て取れます(14.5 xGOT)。ケインのシュートが、ゴール期待値に3.5点分を加算したことになります。これは、同シーズンのリーグ最高値です。これは、与えられたチャンスの多くでケインのシュートは枠を捉え、さらに、得点になりやすい位置に飛ばしていたということを示しています。

xGOTを使用したゴールキーパーの評価

ゴールキーパーのパフォーマンスを、クリーンシートやセーブ率など、従来の指標で評価するのには限界があります。これらの数値は、チームの強さや守備力に大きく影響を受けるからです。世界最高の守備陣を持つチームのキーパーであれば、自身の能力に関係なく、これらの数値は高くなります。

xGOTは枠内シュートが得点になる確率を表した数値なので、これを阻止できるのは(ほとんどの場合で)ゴールキーパーのみです。xGOTが0.3のシュートは、得点になる確率が30%であると同時に、キーパーが阻止する確率が70%だということになります。

つまり、この数値を使えば、一人のゴールキーパーが直面したシュートのクオリティから、合計で何失点する可能性があったかを導き出せます。チームの守備力に関係なく、ゴールキーパーのセービング能力を計ることができるのです。

プレミアリーグ2019-20シーズン、シェフィールド・ユナイテッドのディーン・ヘンダーソンの活躍は突出していました。ヘンダーソンが放たれたシュートは、平均的なキーパーが合計39失点するくらいのクオリティ(39.4 xGOT)でした。彼が実際に喫したのは32失点(PKとオウンゴールを除く)だったことから、ヘンダーソンは7失点を阻止したと言えます。これは、このシーズンで4番目に高い数値でした。

ディーン・ヘンダーソンが放たれた枠内シュートの分布
プレミアリーグ2019-20シーズン

従来の指標を参照すると、ヘンダーソンは親クラブのマンチェスター・ユナイテッド(シェフィールド・ユナイテッドはレンタル先)で守護神を務める、ダビド・デヘアと似たようなシーズンを送ったことになります。クリーンシート13回と32失点は全くの同数で、被シュート数はデヘアが128本に対して、ヘンダーソンは2本だけ少ない126本でした。注目すべきは、被シュートのクオリティが、ヘンダーソンは39.4 xGOT、デヘアが33.0 xGOTだったという点です。つまり、ヘンダーソンが阻止したゴールは7.4で、デヘアの1.0よりも多かったことになります。

ゴール阻止数 プレミアリーグ2019-20シーズン

ゴール阻止数は、キーパーのパフォーマンス評価指標として分かりやすい一方、被シュートが多いキーパーの方が、より多くの阻止する機会が与えられるという点で公平ではありません。対策として、ゴール阻止率を使用することで、被シュート数を標準化することができます。ゴール阻止率は、被xGOTの合計を、実際の失点数で割った数値です。つまり、1失点あたりの、「取られるはずだったゴール数」になります。

たとえば、シェフィールド・ユナイテッドのディーン・ヘンダーソンとクリスタル・パレスのビセンテ・グアイタは、2019-20シーズンのゴール阻止率が、どちらも1.23でした。阻止したゴール数では、9.4を記録したグアイタの方が多かったのですが、シュート数を標準化することによって、どちらのキーパーも、1失点あたり1.23失点が「期待されていた」ということになります。

シュートの枠内位置と阻止を評価

Stats PerformのxGとxGOTモデルを活用することで、より詳細にシュートを分析することができるようになりました。xGで、チームの作り出すチャンスの質を評価すると同時に、xGOTで、そのチャンスをどれだけ活かすことができたかを確認することができます。どちらのモデルもチャンスの質を示す指標ですが、xGではシュートの前までしか考慮できなかったものを、xGOTでは「その後」のプレーを評価できるようになりました。

xGOTを使うことで、従来の指標ではできなかった方法で、ゴールキーパーのパフォーマンスを単独で評価することができるようになりました。これにより、アナリストや解説者は、質の高いセーブをしているキーパーと、阻止が簡単な質の低いシュートのセーブで数を稼いでいるキーパーを区別することができます。放たれるシュートの質と頻度は、チームメートによって変わってしまいますが、失点を防ぐのに最も効果的なキーパーは誰なのかという点は、この指標で表すことができるのです。


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