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チームシェイプ分析モデル 試合中に変動する「陣形」をデータで可視化

トラッキングデータを使ったシェイプ分析モデルが、ボール保持・非保持の状況におけるチームの陣形を特定する方法を進化させます。

フォーメーションという概念は、サッカーファンに広く認知され、よく議論されるトピックでもあります。4-4-2、4-2-3-1、または、昔から人気のある、3バックの陣形などがあります。しかし、果たして、これだけでチームの布陣についての全てが理解できるでしょうか?ペップ・グアルディオラの4-3-3と、ユルゲン・クロップの4-3-3は、同じものだと言えるでしょうか?

スカイスポーツの解説者、ジェイミー・キャラガー氏は『マンデー・ナイト・フットボール』という番組で、ボール保持・非保持時、それぞれにおけるフォーメーションに注視することの必要性と、それを見分けるプロセスについて話しました。

今朝、どのようなフォーメーションでプレーしていたかを確かめるために、試合を見直しました。(マンチェスター・)シティは、ボールの保持か非保持、ピッチ上のボールの位置によって、フォーメーションを変えていました。

2020年10月19日
ジェイミー・キャラガー氏
スカイスポーツ『マンデー・ナイト・フットボール』にて

問題は、フォーメーション分析は主観的で、キャラガー氏のようなエキスパートを以ってしても半日を使って映像を見返さなくてならないほど、時間のかかることだという点です。でも、これからは違います。

Stats Performのシェイプ分析モデルを用いれば、トラッキングデータと最新の機械学習技術を活用して、ボール保持・非保持時の両方で、チームの陣形が実際にどのように変化したかを詳細に知ることができます。これにより、先発フォーメーションや平均ポジションといった、これまでの判別方法が持っていた課題を解決できます。キャラガー氏は、月曜日の朝を他のことに使えるようになります。

シェイプ分析モデルとは?

チームスポーツでは、選手たちがピッチ上を常に動き回るので、トラッキングデータはバラバラになります。Stats Performのシェイプ分析モデルは、試合中の任意の瞬間における、選手たちの相対的な位置関係を考慮することで、その動きの背景にある戦略を明らかにします。また、ボール保持と非保持を区別することで、攻撃時と守備時の陣形を判別することができます。

これらの情報を既存のフォーメーションと照合するために、2,000試合以上のトラッキングデータを分析し、階層的クラスタリングを用いて、ボール保持時の陣形17種類、および、ボール非保持の陣形13種類を特定しました。このデータ主導のアプローチにより、従来のフォーメーションに偏ることなく、チームが最もよく使用する陣形を特定することができます。

ボール保持時の陣形 17種類
ボール非保持時の陣形 13種類

1試合におけるチームの陣形(と、その変化)を特定するために、3つのステップを踏んでいます。

  • 試合をボール保持時・非保持時で明確に分割する(分割された各間隔を「インターバル」と呼ぶ)。

  • 機械学習技術を用いて、ボール保持時・非保持時に分割されたインターバルごとに、チームの陣形を特定する。

  • 最も近しい陣形(ボール保持時17種類、非保持時13種類)を、それぞれのインターバルに当てはめる。

ボール保持時のインターバルは、試合中断(交代、得点、レッドカードなど)や攻守の入れ替わりで区切られます。これらが、戦術の変更が行われるタイミングだからです。有効なデータを得るために、各インターバルは一定のインプレー時間を有している必要があります。

実践:チェルシー vs ウォルヴァーハンプトン

トーマス・トゥヘル監督体制でのプレミアリーグ初戦となった、チェルシー対ウォルヴァーハンプトン・ワンダラーズの試合を通して、従来の方法ではどのようにチーム構成を判別するのか、また、シェイプ分析モデルによって、どのようなことが分かるようになるのか、実際に見ていきましょう。

先発メンバーのグラフィック

チームの陣形を表す最も一般的なものは、先発の予想フォーメーション、または、ラインアップグラフィックで、試合後のレポートやキックオフ1時間前のチームニュースで発表されます。これらのフォーメーションは、試合を観戦している記者や分析スタッフが手作業で割り当てたり、予想したりする必要があります。監督が自ら戦術を公にしたりすることはありませんし、そのような義務もないからです。

では、トーマス・トゥヘル監督は就任初戦で、どのような布陣を敷いたのでしょうか。フランク・ランパードが好んで使っていた4バックから、コンテ時代の3バックに変更し、3-4-3のフォーメーションでスタートしました。ベン・チルウェルとカラム・ハドソンオドイをウィングバックに起用し、多くの人を驚かせました。

イングランドプレミアリーグ 2020-21シーズン第18節
チェルシー 0-0 ウォルヴァーハンプトン・ワンダラーズ
先発メンバー

このようなグラフィックは、陣形を静的に表しているに過ぎません。ここ数年のペップ・グアルディオラ監督のチームを見たことがある人なら、フォーメーションはもっと流動的であることが分かるかと思います。このようなフォーメーションは、試合中の実際の陣形が持つニュアンスまで表現することはできない上に、各選手の従来のポジションに偏って構成されます。ハドソンオドイとチルウェルは、ウィングバックとして同じような役割を担っていたでしょうか?

平均ポジション

上記の問題を解決するのが、平均ポジションです。データによって自動で出力される平均ポジションは、試合の中継などで使用されており、フォーメーションの中での各選手のポジションについて、補足情報を与えてくれます。ウルブズ戦でのチェルシーの平均ポジションを見ると、ハドソンオドイは攻撃的なウイングバックだったこと、また、オリヴィエ・ジルーの両脇にいるフォワードの選手は、二人とも中に絞ってプレーしていたことが読み取れます。

チェルシーの平均ポジション(0~76分)

多くの人が誤認していることですが、平均ポジションは、選手が動いた場所の平均地点ではなく、選手がボールに関与したプレーの平均地点を表しています。もちろん、トラッキングデータが使用できる場合は、より正確な、移動した場所の平均地点を導き出せますが、それでも、以下に示すように、表現できることには限界があります。

  • ボール保持・非保持時のポジションを、どのように判別するのか。

  • 試合中に選手がポジションを変更した場合は、どうなるのか(例えば、両ウイングが左右を交換した場合)。

  • 試合中にチームがフォーメーション変更した場合は、どうなるのか。

  • 試合終盤から交代出場した選手のポジションは、正確に表すことができるのか。

トラッキングデータを使うことで、ボール保持・非保持時の問題は軽減されるかもしれませんが、ウルブズの平均ポジションを見れば、それだけでは上記の問題の解決にはならないことが分かるでしょう。

ウォルヴァーハンプトン・ワンダラーズの平均ポジション(トラッキングデータ)
左:ボール非保持時、右:ボール保持時

このグラフィックでは、フォーメーションは先発メンバーのもの(3-4-1-2)と近似していることが分かりますが、フォワード3選手の平均ポジションが、特にボール非保持時に、ほとんど同じ場所になっています。

チームシェイプ分析モデル

このチェルシー対ウルブズの試合でシェイプ分析モデルを使用すると、ボール保持・非保持時において、それぞれのチームが最も頻繁に採用していた陣形を特定することができます。

チェルシーが最も頻繁に使用した陣形

チェルシーはボール保持時、ウイングバックが大きく前進し、両サイドのフォワードが中に絞っていることが分かります。

ウォルヴァーハンプトン・ワンダラーズが最も頻繁に使用した陣形

ウルブズのシェイプ分析から読み取れることは、平均ポジションで得られた洞察と似たものでしたが、陣形のテンプレートに各選手の位置情報を当てはめることにより、フォワード3選手については、より正確な位置関係が分かりました。

ウォルヴァーハンプトン・ワンダラーズが最も頻繁に使用した、ボール非保持時の陣形
(ボール非保持時の88%で使用)

シェイプ分析モデルを使用したことで、平均ポジションではウォルバーハンプトンのフォワード3選手の関係について、誤認が生じてしまうということが分かります。なぜなら、この3選手は試合中にローテーションしていたからです。主観的に見れば明らかなことですが、シェイプ分析を使えば、これを数値化することができます。上記の陣形において、3フォワードの真ん中はダニエル・ポデンセが56%の割合で担いましたが、ペドロ・ネトとアダマ・トラオレも、それぞれ16%、13%の割合で真ん中にポジションを取りました。

シェイプ分析モデルは、交代選手も考慮します。72分から途中出場したウィリアン・ジョゼが真ん中でプレーした時間は、全体の11%でした。

下の試合キャプチャーを見れば、試合開始5分の時点では、先発メンバーのグラフィックと同じポジションにいたウルブズのフォワード陣が、15分後にはポジション変更していることが分かります。試合中、このようなローテーションは何度も行われました。

5分、ウルブズのフォワード陣は、予想フォーメーション通りのポジションにいる
20分、ウルブズのフォワード陣はポジションをローテーションしたが、チームの陣形は変わっていない

最も頻繁に使用された陣形を特定できることに加え、各インターバルにシェイプ分析モデルを適応することで、試合の中でチームがいつ陣形を変更したかを識別できます。この作業には、現在は分析スタッフによるマニュアルの工程が必要ですが、試合分析においては重要な戦術的変更です。

シェイプ分析モデルの拡張

シェイプ分析モデルを活用した、このデータ主導のアプローチをとれば、チームのアナリストにとっては大きな時間削減になり、ファンに伝えられるストーリーの幅も広がります。

  • トーマス・トゥヘル監督のチェルシーは、最初の10試合でどのような陣形を採用したのか。

  • ブレンダン・ロジャーズ監督は、リヴァプールに勝利した試合で、レスターの陣形にどのような変更を加えたのか。

  • アーセナルのブカヨ・サカは、1試合に何度ポジションを変更しているのか。

  • ペップ・グアルディオラ監督のマンチェスター・シティは、ボール保持・非保持時で、どのような陣形を採用しているか。

  • マンチェスター・ユナイテッドが最も多く得点を挙げているのは、どの陣形のときか。

シェイプ分析モデルは、1試合におけるチームの陣形(と、その変化)を自動的に特定します。また、それを複数の試合に渡って行うことで、意思決定に役立つ洞察を提供します。フォーメーションは基礎となる材料ですが、陣形の特定により、より詳細に文脈を読み取ることができるのです。


この記事は、Opta Analystに掲載されたものの翻訳記事です。
元記事はこちら:Shape Analysis: Automatically Detecting Formations

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