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旅行業界の未来は?

コロナウィルスの感染拡大により、色々な業種が大なり小なり影響を受けましたが、その中でも旅行業界は、最も酷い影響を受けた業種の一つと言えるかもしれません。世界中の多くの旅行会社で大量の解雇者を出しましたし、早期退職者を募るところも出ています。私の友人や元同僚など、旅行会社で勤めていた人たちは、新たな職を求めて就職活動をしています。

しかし当然と言えば当然です。なにしろ、不要不急の外出を控えろと言われているのですから、旅行へ行きたくても行けません。無理にでも出かけようものなら、たちまち非難の嵐になります。GOTOキャンペーンも不発に終わりました。

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そんな旅行会社、皆さんはどのようなイメージを持っていますか?

これまで、旅行業界というのはとても華やかなイメージがあったと思います。勤めている人たちの多くは、当然ながら旅が好きな人ばかりで、その自分が大好きな旅を商品として売るという職業なのですから、ある意味とても夢のある仕事でした。人気業種の一つでもあったと思います。

私も、約20年間旅行業界に勤めました。就職氷河期で、新卒で入った会社は自分の希望の職種ではありませんでしたが、このままでは終われないと思い、就職して2年目の春に一念発起し、たまたま募集していた旅行会社の門を叩きました。

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新しい職場は、想像通り華やかな感じでした。前職は現場作業で、女性と言えばパートばかり、自分の母親と同年代の人たちばかりの職場でしたが、セールス以外は男性社員が圧倒的に少なく、若い女性ばかりでした。英語を使って現地とやり取りしたり、パソコンを使って予約確認したりと、如何にもオフィスという雰囲気が漂っていました。

しかし意外だったのは、とにかく人の出入りが多かった、ということです。外回りの外出が多い、という意味ではありません。辞める人が多く、また新たに入ってくる人も多いという意味です。私も中途でしたが、入って早々、わずか1週間で近くに座っていた男性が辞めていきました。そのあとも、何度か人の出入りがあり、大丈夫かなと思ったのですが、同僚に聞いたら「この業界では普通」ということでした。実際、約20年勤めてみて、業界内で移動することはかなりあって、同業他社からの引き抜きも多かったのです。

しかもさらに面白かったのは、意外と出戻りが多いことです。いったん辞めて他社で働いたけど、やはりこっちが良かったと、もう一度前職へ戻ることです。普通、気まずいと思うのではないかと思いますが、そういうことはあまりなく、「やあ、戻ってきたの」くらいの感じで、皆普通に受け入れていました。ある種の特殊業務ですので、業務知識があれば即戦力になるという意味では、理に適っているとも言えます。

それどころか、同業他社との吸収や合併、統合なども多くあり、昨日までライバルだった会社が、本日から同じ仲間です、ということもありました。十数年後、前述した1週間で辞めていった男性と、再び同じ職場で働くことになるとは夢にも思っていませんでした。辞めた後に入った会社と、私たちの会社が同じ会社になったのです。

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さて、そんな業界に慣れてきたとき、世界を揺るがす大きな事件が起きました。9.11のアメリカでのテロ事件です。ニューヨークのツインタワーの崩落を、なんだか現実のことじゃないように思いながら、他人事のようにボーっとテレビを眺めていました。

しかし待ち受けていたのは、非情な現実でした。テロ発生と同時に、旅行の予約キャンセルが相次いだのです。もちろん、アメリカだけではありません。私たちが主に扱っていたヨーロッパも、ほとんどの予約がキャンセルされてしまいました。それからしばらくは自粛ムードで、新規の予約もありません。その後、社長が全社員を集めて、給料を大幅にカットしなければならないと説明しました。もちろんボーナスも0です。当然と言えば当然ですが、入社してわずか半年で、いきなり給料カットになるとは思いませんでした。私は車を手放し、同僚はマンションのローンを払えずに、実家に金策の相談をしていました。

後になって気付いたのですが、旅行業界はあらゆる天変地異や事件、災害、疫病に対して非常に脆弱で大きな影響を受ける業種なのでした。業務渡航以外の単なる観光である場合は、何か問題が発生すれば真っ先に自粛、中止の対象となりますし、その影響は回復するまでかなりの時間を要します。私の勤めた20年の間に、テロ、地震、噴火と、実にいろいろなことが発生しました。私は勤めていませんでしたが、湾岸戦争の時も大きな影響があったと言います。単発的で小規模なテロでも、首都でもない田舎の町で事件があっても、日本で大きく報道されれば、すぐにツアーは中止になります。そのたびに昇給もボーナスもなくなります。

旅行業界は、一部の重役クラスを除いて、給料水準が高くないと言われています。正直に言えば、私は約20年間働いて、世間一般で言われるようなボーナスというものを一度ももらったことがありませんでした。元々年収制だったというのはありますが、「今年のボーナスは月給の何か月分」とかいうニュースは、私にとっては異世界の話みたいなものでした。天変地異が何も発生しなかった年で、一桁万円のお小遣いをもらったことはあります。そういう世界なのです。

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年月が流れ2020年、コロナが止めを刺しました。テロや地震などの災害は、時が経てば回復の兆しがあり、実際、これまでも徐々に元通りとなりました。しかし疫病は、1年以上経った今現在も、いつまで続くか分からない状況のままです。日本の旅行会社は、辛うじて国内旅行で持ちこたえていましたが、GOTOキャンペーンが不発に終わり、いよいよ厳しくなってきました。持ちこたえられたとしても、海外旅行は当面、再開するのは難しいでしょう。

EUは、今年の夏休みにワクチンを打つことを条件として、域外からの観光客の受け入れを検討していると発表しました。ワクチンを打つことができれば、海外旅行も可能というところまで来ましたが、もちろん、日本国内でも全員分が確保されているわけではないので、医療従事者やお年寄りが優先となるでしょう。仮に、このワクチンのお陰で感染者数を抑えられることが証明されたとしても、その効果が認められるには、やはり今年中には無理ではないかと考えております。

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旅行業界は今、岐路に立たされていると思います。過去数年は、団塊の世代が定年を迎え、ちょっとした特需に沸いていました。しかし、いつまでも頼っているわけにはいきませんし、実際コロナの影響でその勢いは止まってしまい、高齢化によって再び同世代が旅に戻ってくる可能性は低いと言えるかもしれません。

その一方で、若い世代の旅行離れが深刻になり、先細りが心配されています。実際、私が働いていた間でさえ、卒業旅行は年々、減少傾向にありました。インターネットを筆頭として、多様な趣味を持つようになったことで、旅に興味を持たない若者が多くなったのです。

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こうして考えると、例えコロナがあってもなくても、いずれ業界が先細りになることは十分に予想されたことで、根本から変えて行かない限り、この業界の未来は決して明るくないと言えます。特に今後、これまで業界を支えてきた10~40人で団体行動をするパッケージツアーは、縮小していくことになると予想されます。こうしたパッケージツアーの主要顧客は、リタイアした夫婦が圧倒的に多かったのですから、今後その世代が減っていくとなると、先細りは避けられません。

と悲観的なことばかりを話してしまいましたが、約20年間この業界で勤めたわけですから、やはり愛着があります。それに鉄道や鉄道の旅を題材にして仕事をしている以上、このまま業界が衰退していくのを黙って見過ごすことはできません。どうしたら生き残っていけるのか、この先、業界のためにどんなサポートができるのか、私自身も色々と考えていこうと思います。

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