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経済産業省『「未来の教室」とEDTech研究会 第1次提言』の内容から見る「日本の社会や教育の現状課題」

先月、経産省から『「未来の教室」とEDTech研究会 第1次提言』が出されました。わたしがPLTSc for kidsプロジェクトを始めたきっかけや、思いと重なる部分も多く、ぜひ多くの親御さん、子どもに関わる方々に読んで欲しいと思いました。

今日のブログでは、21ページに渡る経産省の提言内容ををわたしなりに噛み砕き、個人的な考えや思いもふまえて、書き留めておきます。まずは「日本の社会や教育の現状課題」について。

日本の社会や教育の現状課題

未来社会は予測不可能性が加速度的に高まり、少なくとも現在の延長線上にはありません。にもかかわらず、そうした未来社会で生きていくのに必要な力を育む教育が現在の日本では十分になされていないのです。

"予測不可能性が高まる未来社会で生きていくのに必要な力"とは?

過去の成功パターンを頼りにできない環境でも、課題の本質を見極め、様々な分野の個人・組織の力を集めて試行錯誤を繰り返し、状況を変化させる力です。提言の中で、そういう力を持つ人のことを「チェンジ・メイカー」と呼んでいます。

しかし、日本社会がこのままの教育を続けていくと、日本はチェンジ・メイカー不足に陥ります。具体的に現状の日本教育のヤバイ点はどこにあるのでしょうか。

○現状の日本公教育は「学びの生産性」が低すぎる

「学びの生産性 = 学習者が得る能力の価値 / 学校や塾に費やす時間の総計」です。現状の日本公教育は「教科主義」「画一型・一斉型」の授業がメインにあり、生徒1人1人の興味関心・理解度・学習スタイルの多様性は重視されていません。すると、現場はどうなるのか?

「吹きこぼれ=先に進みたくてもペースを落とさざる追えない子」と「落ちこぼれ=理解が十分でないのに、先の内容に進んでしまい着いていけない子」が出てきます。

学校によっては、例えば数学の時間だけ子ども達の理解度別でクラスを分け、それぞれのクラスのレベルに合わせた授業を行うなどの取り組みも行われていますが、十分とは言えません。

「学びの生産性」という観点では、「学習者が手にする能力の価値」を最大化し、「学習者が費やす時間と労力」を最小化すべきなのです。

○目的意識を育む習慣がない

小学生になると「何のために学ぶか」「どう生きたいか」を得心しないまま突如勉強がはじまります。「いつかどこかで役に立つ」と言われながら、教科書を読み進め「浅く広く基礎を固めていく」のが、現状の学校のスタイルです。

わたしの原体験として、幼少期から海外に強い憧れがあり、海外留学制度のある高校への進学を希望しました。しかし、15歳当時のわたしには、具体的に示せるほどの目的意識はなく、ただ漠然と海外に行きたいという思いだけで、親からも先生からも反対をくらいました。その時大人たちに言われた意見は、進学校に行った方が人生の選択肢が増える、というものです。なんとなく、ふ〜ん、そうなんだ…と、大人たちの意見に従いましたが、当時の自分に「学ぶことは、いつか役に立つかもしれないから行う準備」ではなく「学ぶことは、自分の未来を創る≒働く≒生きる」という意識があったら、海外に行きたい理由を明確に説明でき、きっと違う結果になっていたと思います。

○批判的思考の訓練が欠けている

教育の世界では「21世紀のスキル」として、「4C」という考え方が広まっています。4Cは、次の四つの単語の頭文字に由来しています。

1)クリエーティビティー
2)クリティカル・シンキング
3)コミュニケーション
4)コラボレーション

これらは、AIやロボットが進化していく中で、人間に求められる力のことだと考えられ、この2つ目にもあるのが「批判的思考」です。具体的には「知識や常識、問いそのものを疑う思考」のことです。

一般的に日本では、集団の秩序や社会の常識に対して「疑問に感じて、変えにいく」ことではなく「自分を秩序に合わせること」が重視される教育が行われがちです。疑えばいいというわけではありませんが「何でも言われたことを鵜呑みにせずに、常識を疑って自分の頭で考え知恵を絞る」という発想も必要です。

以前、孫泰蔵さんの「孫家の教え」という記事の中で、泰蔵さんが父親に「学校の先生は、時々うそを教えるぞ。先生の言うこと聞くなよ」と言われショックを受けたというエピソードを読んだことがあります。当時小学生だった泰蔵少年にとっては衝撃的な父の言葉だったと言いますが、40歳を過ぎた頃になって「皆が当たり前に言うことを、本当かなと疑ってかかる力」、まさに、批判的思考のことを父は教えたかったんだな、と心に響いてきたと言います。

身近に、そういった気づきを与えてくれる人がいるというのは子どもに大きな影響を及ぼすはずです。

「受験産業」と「公教育の補完機能」を越えられない民間教育の現場

大都市を中心に探求学習やSTEM/STEAM、プログラミングの塾やフリースクールといったサービスも続々と生み出されていますが、「能力開発産業」への脱皮はまだまだです。

そこに立ちはだかるのは「親の意識」ではないか、とわたしは考えています。周囲を見ると「親の意識」はまだまだ成績&学歴重視にあります。これからの時代が「創造的な課題発見・解決力」の有無を問うような時代になっていくことを真剣に考え、そこに向けて動いている親はごく一部です。となると、民間教育現場は経営を成り立たせるためにも、現状の顧客(成績&学歴重視)のニーズに応えたサービス提供をせざるを得ないという状況です。

いくつかの先進的な民間教育現場の方に伺うと、こんな声も聞こえてきました。「創造的な課題発見・解決力」を重要と考える親御さんもたくさんいますが、いざお子さんの受験が迫ってくると、やはり成績UP重視の塾を選ぶ方が圧倒的に多く、中学入学と同時に多くの生徒が辞めて行くそうだ。

○入試、就職試験、働き方改革の曖昧さ

先に述べた親の意識に深く関わってくるのが、従来から続く入試や就職試験、働き方だと思います。教育界隈では高大接続改革の話が盛り上がっていたり、個々人の能力を生かした働き方も少しずつ評価されるようになってきましたが、実際にその変化を感じている親はほんの一部です。

どの親だって、自分の子どもが自由に幸せに生きてくれることを願っていると思いますが、多くの親は、「今」の教育、受験、就活を前提に子どもの将来を考えているため、まだ成績・点数重視の考えから抜け出せないのではないでしょうか。

考えていたとしても、どのくらいのスピードで改革が進められ、自分の子どもに影響が出てくるのか、確信を持って判断ができる段階にないため、新しい動きに前のめりになるのは怖さがあるのだと思います。

親の教育情報力の乏しさ

これは、提言の中に書いてあるわけではありませんが、わたし自身が日々感じていることです。

現状は、メディアが大きく発表したり騒いだりする表面的なキーワードだけが親の間で広まっています。例えば2020年から始まるとされる小学校のプログラミング教育。多くの親御さんは、パソコンやipadを活用した本格的なプログラミングのことを考えています。しかし、実際はコーディングそのものを学ぶのではなく、プログラミングの体験を通じて、プログラミング的思考を育むものとされ、アンプラグドな学習がほとんどになります。

こうした例でも見られるように、事実情報と親の情報認識には差があったり、誤りがあることも多いのです。

子どもが小さい時ほど、どうしても親の持つ情報力が子どもの発育、教育環境に大きく影響してきます。だからこそ、教育は学校任せ、ではなく、親自身が教育情報にアンテナを張り、正しい情報を汲み取って、家庭でもできること、社会と協力すればできることに積極的になるべきだと感じています。

*教育情報をまとめていくFacebookグループを作りました。自由参加ですので、ご興味ある方はどうぞ。迷惑行為を行う方は運営側で弾きます。

親のための教育情報まとめグループ

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今回は、経産省から出された『「未来の教室」とEDTech研究会 第1次提言』をもとに、「日本の社会や教育の現状課題」について書きました。

次回は、同じ第1次提言にまとめられた、『「今」を前提としない「未来の教室」の可能性』について書いていきたいと思います。




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