書を捨てよと今のおれは言えるのだろうか

17歳くらいで川蝉やクリープハイプと出会って、両方のライヴを見に行っていたが、川蝉は惜しくも解散することになった。この2つのバンドは将来大物になる、というのが当時のぼくの未来予想図だったが、今でも、川蝉というのはぼくにとって記憶の中の宝物ではあるが、蝉という言霊がたたったのか、と書いてしまうと無責任で失礼だけれども、名が世を渡る前に解散した。きっと本人たちは、有名になることがすべてではないとか今は今で当時よりも確固としたものを持っているとか、いやそれ以上に深い考えを持っているのだろうけれど、一ファンであったぼくとしては矢張り「惜しくも」という言葉が付随してしまうのだった。川蝉というバンドにポップという言葉はそわないが、ある種ポップスとしての正義というのをぼくは信じている。

クリープハイプはそれからしばらくしてメジャーデビューすることになった。メジャーデビューしたのはぼくがマヘルに傾倒して、飯場に入った後だけれども、なぜクリープハイプと疎遠になったかというとぼくがぼく自信の音楽をやるようになったし、誰かのファンであることをやめようと思っていたからだった。だから、クリープハイプがメジャーデビューしたのも、メジャーデビューして少し経ってから知った。
ので、メジャーデビューする直前の彼等がどんなだったかぼくは知らない。
ただ、ぼくの中でのクリープハイプ史に、分節点はあった。
インディーズ時代後期に尾崎さんがツアーに同行させてくれることがあったのだった。静岡だったと思う。その頃、イタイイタイという曲が好きだった。ライヴでも歌っていて、その録音はCDにもなった。その時のライヴの曲間で尾崎さんがマイクを持って歩きながら酔っ払った青年みたいに(ほんとに酔っ払ってたのかもしれないが)「もっとポップなのがやりたいんだよ!」と声を荒らげて言っていたのだった。
その日を境に客がどんどん増えていったような気がする。今や数千人動員できるクリープハイプだが、当時は50人来たら多いほうで、20人以下の日もざらにあった。
それでそれからしばらくして2回くらい、尾崎さんが一緒に映画を観ようと誘ってくれたことがあったのだけれどそのうちのどちらかで緊張して上手く喋れないぼくが震えた声で「前のライヴで、もっとポップなのがやりたいって、言ってましたよね。あれってどういう意味なんですか」ときいたところ「そんなこと言ったっけ?」という答えが返ってきた。
らしいと言えばらしい。

あんまり関係無い話だが板橋区の成増に住んでいた頃、そう、いろんな環境の変化でトラウマを心の奥底に閉じ込めていたのが徐々に布に水彩絵の具が染みるように皮膚にトラウマの染みが現れたのか、とても夕日が綺麗な日におもむろに、死にたい、と思って、自転車を漕ぎながら車道に身を捨てようと思ったのだけれど思いとどまって、歩道橋の下にうずくまりながら尾崎さんにメールしたのだった。
〈死にたいと思っているんですがどうしたらいいと思いますか〉
〈寝たらいいと思うよ!〉
物語依存症であるぼくは最初ショックを受けたのだけれどその文字列を見ているうちに心がすっと軽くなったのだった。
メジャーデビューしてからのクリープハイプファンを貶める気も見下す気もまったく無いし、メジャーデビューしてからの尾崎さんとはほんの少しメールでやり取りしただけなので今をどう生きているのか、全然知らない。お前らの知らない尾崎さんを知っているんだぞと言う気も無い。ただこの当時の尾崎さんの歌はカマキリの鎌のように残酷で、痛々しくて、血の色をしていることが多かった。だから〈寝たらいいと思うよ!〉という言葉はあまりに意外だったのだった。しかし今思うとそっちのほうが等身大だったのかもしれない。
とにかくぼくはそのときのその言葉で、死ななくて済んだのだった。
川蝉のワガユージさんはぼくが嫌いなぼくを殺してくれて、クリープハイプの尾崎さんはぼくが好きなぼくを生かしてくれた。

2人の歌うたいの歌に酔って、2人のブログを読んでいたときにワガさんが〈尾崎から教えてもらった寺山修司という人の本を読んでみた〉というブログを書いていて、ぼくはそれで初めて、本というものを読んだのだった。初めての書物体験が寺山修司だった。『書を捨てよ、街へ出よう』からぼくの書物体験は始まった。
ちなみに次のワガさんのブログで〈尾崎に本の感想を伝えたら「おれ寺山修司は本じゃなくて映画が好きなんだよー」と言われた〉と書いてあった。

ぼくは留置場に入り少年鑑別所に入り留置場に入り拘置所に入ったが、それでも、死にたいと思ってから10年以上、よく死んでよく生きることができた。生きていてよかったと思う。
川蝉が死んで、クリープハイプから離れて、ぼくは飛ぶ茶瓶で、〈生きていてよかったね〉と歌ったのだった。

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男の虚船アルファ版

末素生児 19880620 自分の死体を風葬する。 stentoridae@gmail.com
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