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第44話「Wカップ仏大会のドタバタ」

ノーザンブリア大学のPost graduate diploma コースは、1997年9月から翌年の5月末で約9か月間で終了した。この間、前期と後期で2度期末試験があり、苦手だったTourism statisticsで、40点以下の赤点を出したが、他は何とかクリアした。又、後期末のプロジェクトはサッカープレミアリーグのニューカッスル・ユナイテッドとそのチームがもたらす地域経済効果をTourismの観点でレポートにまとめた。スコアは52点だったが、無事にポスト・グラデュエイト・ディプロマを授与された。

カツヒロはこの間、ロンドン・エアライン会で仲良くなった川島さとみと週に3~4回もメール交換をするようになっていた。ロンドン・エアライン会はその後、3回実施され、現役BA(英国航空)の地上職の男性、元CX(キャセイパシフィック航空)のCAだった女性、CA志望者の女性2名が新たに参加した。川島さとみは、そのうち2回に参加し、カツヒロとはすっかり仲良くなっていた。

特に1997年9月頃にスタートしたCrew-netと言うサイトから得た情報を元にCA受験に関する情報交換をするようになった。このCrew-netは、元VS(ヴァージン・アトランティック航空)の男性CAの方が始めたもので、今ではCA志願者や転職希望者にとってもっとも多くの情報を得られるサイトに成長している。カツヒロは、この元VSの男性クルーの方とも連絡を取るようになり、スチュワードの先輩として非常に多くのアドバイスをもらうことができた。

川島さとみは、1997年10月末に日本に帰国し、一足先にエアライン就職活動を開始していた。それと同時に、オックスフォード留学時代に付き合っていた男性に振られてしまった事を、カツヒロに相談するようになっていた。

・・・。

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日本がサッカーワールドカップに初出場したのは、1998年6月のフランスワールドカップ大会だが、カツヒロはロンドンの旅行会社経由で日本戦のチケットを15枚オーダーしていた。

よっし、これは絶対にプラチナチケットになるから、これをオークションサイトに載せて転売すれば、かなりの利益が見込めるぞ。

1998年3月までに全額入金して、後はチケットの到着を待つだけだったのだが、どうやら多くの旅行会社がチケットブローカーに騙されてしまったようだ。特に日本の旅行会社は、サッカーw杯を目玉商品にしようと、競ってツアーを組み、販売も好調だったけにチケットが手に入らない事が大きな社会問題まで発展した。

一方、カツヒロはロンドンの旅行会社に依頼していたのだが、状況は同じでチケットが全く手に入らない。

どうしよう。既にチケットは自分で観戦する分を除いた13枚が完売してしまっている。その中には、半年前から会社に根回しして、やっとの思いで有給休暇を取得した購入者や今回ハネムーンでサッカー観戦予定の人もいる。

ちょっと、困りますよ。私もチケットを日本のサポーターに転売しているので、手配してもらえないと。」                   

カツヒロは、手配元のGKトラベルに電話をして文句を言った。

「はい、本当にすみません。状況が変わり次第、誠意を持って対応させて頂きますので。」

電話口から焦りを感じる。恐らく、旅行会社も被害者で、今、その対応で相当てんやわんやの状況のようだ。

「もし、チケットが手に入らなかったら、チケット代金返金以外に、慰謝料は頂けるのですか?」

「えっと、チケット代金は、全額返金させて頂きます。ですが、慰謝料というのは、申し訳ありません。弊社も被害者でして、何卒ご理解を頂きたいと存じます。」

「そうですか。まあ、状況次第ですけど、私も購入者から訴えられる可能性があるから、その場合は御社を訴えさせて頂きますので、そのつもりでいて下さい。」

カツヒロは電話を切ると、一言「まじかよ。俺、下手したら切腹しないとダメかも知れない。」と小声でつぶやき、頭を抱えた。

そう言えば、旅行会社時代に先輩に言われた格言を思い出した。「カツヒロ、どんなにクレームになっても、大丈夫、殺されはしないから。」   その先輩は、某広域暴力団の組長家族のハワイ旅行で、その組長だけが前科があった為入国出来なかった事でクレームになった。ハワイであればビザなしで入国出来ると過信してしまった事が原因で、きちんとビザを申請しておけばこのような事態にならずに済んだので、その責任を鋭く請求された時に、組事務所に呼び出しされた。

その際に先輩がずっと心の支えにしていた言葉が「どんなにクレームになっても、大丈夫、殺されはしないから。」と格言だ。たまたま運が良かったのか、組事務所へ謝罪に出向いた際、相手側の機嫌が良かったので事なきを得た。他にも、手配ミスで航空券が取れていなくて、成田空港で土下座したと言う話も聞かされていたが、正直なところ、今のカツヒロにとってはわずかな気休めにしかならい。

かつひろは決心をした。もう、こうなったら仕方ない。日本国内でもチケット詐欺のニュースは大きく報道されているから、きちんと事情を説明して、購入を諦めてもらい、その人達には代金を速やかに返金しよう。それでも、諦めずに日本からトゥールーズまで来る人には、現地で直接会って、必要枚数をダフ屋からチケットを購入して、可能なだけ対応しよう。

カツヒロはトゥールーズのホテルを手配し、その住所と電話番号を日本のチケット購入者に知らせた。何とか、説得した甲斐があり13枚の必要だったチケットが6枚にまで減ってくれた。

「6枚なら、仮に1枚10万円でダフ屋からチケットを買い取るとして、60万円用意しておけば、何とかなるだろう。」カツヒロは実家に電話して、母親に事情を説明して、City Bankの口座に至急60万円振り込んでもらうように頼んだが、返ってきた言葉は。

バカ。大馬鹿者。何をしてくれたの。そんなお金はないよ。自分で何とかしなさい。」母親のマキは、カツヒロを容赦なく叱責した。

「言っていることは分かるけど、チケットが用意出来なかったら、相手から損害賠償を請求されるかもしれない。そうなったら、余分にお金もかかると思う。だから、助けて欲しい。」

「バカ。あなたが自分で蒔いたタネでしょ。最後まで、誠心誠意、心を込めて、相手方に謝りなさい。今は直ぐにお金を送ることはできないから、全てが終わってから、もう一度電話して。」

カツヒロは、あてが外れて、がっかりした。ふう~と体の力が抜け。半分投げやりで「わかったよ。もう、頼まないから。」とだけ伝えて電話を切った。

バレーボール部の山本君に頼み込んで、ホテル代と航空券代をカツヒロが出して、一緒にトゥールーズまで来てもらうことにした。それと、ノーザンブリア大学の友人関係を辺り、フランス人の友人、フジアンにもトゥールーズでチケット手配を手伝ってもらうことに。

やっぱり、日本人同士でフランス人ダフ屋相手に交渉するより、間にフランス人友人が入ってくれた方がボッタくりされるリスクも低くなる。

・・・。

6月14日、日本代表対アルゼンチン代表選の当日。試合開始は午後5時だったが、その3時間前にGKトラベルの現地連絡先から連絡が入り、直ぐに彼らの指定したレストランに向かった。

すると、GKトラベルが全力でチケットを買い集め、15枚を確保してくれた。彼らも必死でフランス人脈を屈指して、スポンサー枠や一般人から買い集めた集大成だ。

やったー。本当にギリギリまで粘った甲斐があったよ。

早速、レストランの外で待つ6名に約束のチケットを渡し、残り1枚を山下君に、1枚を自分用に。それから、4枚を日本の旅行会社に1枚5万円ずつで売った。彼らもVIPのお客様に何とかプラチナチケットを用意したかったから、値段は関係なかった。そして、最後の3枚はフジアンに渡して会場の近くで日本人サポーターに転売してもらった。

その結果、山下君の飛行機代やホテル代などの経費も引いて、5万円程の利益が残った。試合の結果は、残念ながら1-0でアルゼンチンに負けてしまったけど、カツヒロ達はその夜、余った5万円で盛大に打ち上げを行った。


つづく。

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