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ストイカ4・5号合併号のおすすめ記事

オピニオン誌ストイカ4・5合併号がお手元に届きましたでしょうか。ずしりと重く76ページもあって、前号の36ページから一挙に40ページも増やしました。グローバリズムの転換点になると直感した2月から、オピニオン誌として新型コロナウイルス感染の特集をやりたいと虎視眈々と狙っていたのですが、第二波のピークを過ぎかけた(あるいは第三波の始まり?)いまを措いてやるタイミングはないと信じ、一気に2冊分をつくりました。

冒頭の「コロナ禍」偶然の僥倖は続かないは、バイオ医薬品規制の第一人者であり、厚労省の新型インフルエンザワクチン開発研究に係る専門会議議長を務めた、尊敬する医学研究者、早川堯夫氏に半年がかりで書いていただいた長大な論考である。知り合ったのは4年前に起きた熊本の化血研(科学及血清療法研究所)騒動の際、再建に送り込まれた理事長だったときです。当時の塩崎恭久厚労相の教条的な民営化に一歩も引かない硬骨漢ぶりに驚き、いつか論を書いてもらおうと思って、ついに宿願を果たしました。

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長文とはいえ、医療行政の表も裏も知る人の苦言ですから、腰を据えて読んでください。人類の帰趨を決めるパンデミックに対し、真の専門家が何を考えているかを、いっさいの功名心とは別に警鐘を鳴らしています。いままでの死亡率や感染率の低さは、宿主(ヒト)またはウイルス側の僥倖(幸運)にずぎず、パンデミック対策の「日本モデル」が成功したとはとても言えないこと、医療崩壊を防いだといっても、従来医療・介護では崩壊に近いしわ寄せが起きたことを自覚し、第三波に備えるべきことを13項目挙げています。菅新政権がインバウンド需要喚起のため出入国規制を大幅緩和しようとしているいま、ぜひとも政官民とも呼んでいただけたらと思います。

続く救いの「ワクチン」四大ハードルは、開発途上のコロナ・ワクチンが、今冬のインフル流行期と重なる第三波にはどうやら間に合いそうもないことを、東大農学部出身で獣医師の資格を持つ、医療ジャーナリストの星良孝さんに書いていただきました。彼が日経BPの記者・編集者時代に知り合い、独立してからの活躍に期待していたところでした。さすが専門家で、一口に副作用といっても何が起きる懸念があるのかを詳細に書いていただき、目から鱗の思いがすると思います。

pros(賛成)とcons(反対)は、河野太郎前防衛相が置き土産とした地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の計画断念の衝撃の後、日米安保同盟はどこへ向かうか、そして改憲のレガシーを残せなかった安倍首相が去ったあと、憲法の自衛権には何が必要かを論じていただきました。前者は軽々な敵地攻撃論は同盟に支障で、安倍前首相の談話や自民党政務調査会の提言などで、にわかに「敵(基)地攻撃論」または「策源地攻撃論」が賑やかになり、これに対して自衛艦隊司令官の香田洋二氏が、日米の盾と矛を分担する同盟が揺らぎかねないと警鐘を鳴らしました。

それだけではありません。河野太郎前防衛相による「英断」は、すでに1787億円の国費を投じる契約を済ませているため、その責任問題もあり、買った装置をどう再利用するか、など地上イージスの代替案が必要になります。さらにトランプの〝押し売り〟に安倍前首相が応じた側面もあっただけに、バイ・アメリカンの圧力は依然続いており、「河野太郎の置き土産」後始末に高い代償を伊藤博敏記者に書いていただきました。

また現行憲法でも「敵地攻撃」が、憲法が認める自衛権の範囲内で実施しうるというのが政府見解であり、自らが破壊されるまで自衛権を行使してはいけないとしたら、自衛権が存立しないからです。本来なら敵地攻撃能力の保有は憲法問題でないのだが、安保関連2法案を「違憲と」とした憲法学の通説が邪魔して、実際には有事が発生すると、自衛隊員一人一人の自然権的な自己保存の権利によって遂行されるにすぎなくなってしまうので、篠田英朗東京外大教授に自衛権「憲法学通説の歪み」直せを書いていただきました。

安倍「一強」政権の終わりで、「改憲」とともに「領土」のレガシーもすっかり遠のきました。ロシアは改憲してプーチン大統領の任期延長を可能にし、さらに「領土割譲禁止」の条項を盛り込みました。それはしかしプーチンの強さでなく、いったん辞める時期が決まったら国内が混乱しかねないという「内憂」を孕んだものなのです。米欧から締め出されたファーウェーはロシアに接近、米国も対ロ関係を見直して対中包囲網にひっぱりこむ綱引きが始まっています。その中で反政府指導者、ナヴァルニー氏が神経系の化学兵器ノヴィチョクで暗殺されかけました。こうした複雑な連立方程式のなかで日本の対ロ外交をどう立て直すべきか、畔蒜泰助・笹川平和財団主任研究員に辞められぬプーチンの「内憂」を書いていただきました。

故竹下登氏の「盟友」フィクサーの実母の悲劇を中心とした伝記、福本邦雄外伝が最終回を迎えました。母の情死に隠れた、獄中の別れた夫との一子争奪戦は、ついに満六歳目前の邦雄少年の誘拐に発展します。それから3カ月後、睡眠薬をあおるまでに尾崎士郎に激烈な抗議の手紙を書き、朦朧と無明の淵をさまよいながら「ピエロよ、みんな――踊ってさえいればいいのにね」と呟いて死んでいったのはなぜなのか。その謎に迫ります。

コラムは巻頭のapholistsが「源氏物語」幻の巻から「時ぞともなき思ひなりけん」。山本一生氏の流視逍遥は、私もニューヨークでオフィスを訪れたことのある調査報道のオンライン・メディア「プロパブリカ」のピューリッツァ賞受賞レポートに基づく秀作ドラマ「アンビリーバブル たった一つの真実」です。レイプという重いテーマを、少女の孤立化と刑事の追跡という二つの時間軸で描く構造を論じたものです。

石田哲大氏の風味花傳は、「慈華」(いつか)という昨年12月にオープンして、コロナの荒波に遭遇したレストラン。中華で「非日常」を追う試みを応援したい。

池田卓夫氏のBasso Continuo(通奏低音)は、深作欣二監督の息子、深作健太氏が挑んだベートーヴェンのオペラ『フィデリオ』の大胆な読み替え演出。アウシュヴィッツの標語Arbeit Macht Freiを掲げた四つの壁の物語に託された意味を探ります。

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