金田信一郎サイト2

Voice of Soulsをあなたにも

ストイカとほぼ時期を同じくして10月1日、私の知っている記者が個人で会員誌サイトを立ち上げた。今春、日経BP社を辞めた金田信一郎君である。タイトルはご覧のようにVoice of Soulsとカッコいい。その心意気と壮図に拍手を送るとともに、ストイカも緩やかに組んで応援することにした。

創刊号#01の記事は2本。彼に会って「君の得意分野は何?」と聞くと、「人物ものかな」と答えたが、創刊記事のメーンはその人物ものである。

北海道日高振興局管内にある浦河町では、精神障碍者100人以上が町中で暮らしているが、その活動の中心である「ペテルの家」の精神科医、川村敏明氏のストーリーだった。その川村氏が障碍者たち10人余を連れて上京、象牙の塔の東京大学で彼らが教壇に立ち、明治以来100年にわたって障碍者を隔離し、薬と注射漬けで黙らせてきた官学の面々が生徒になって、奔放な彼らの話に笑い転げるという「倒錯の構図」を書いたルポである。

私が浪人か大学時代に見たピーター・ブルックの映画『マラー/サド』を思いだした。原作はペーター・ヴァイスだった。正式のタイトルは「マルキ・ド・サドの演出のもとにシャラントン精神病院患者たちによって演じられたジャン=ポール・マラーの迫害と暗殺」と長たらしい。フランス革命のさなか、シャラントン精神病院に収容されていたサド侯爵が、患者を使って少女シャルロット・コンデに浴槽で殺された革命家マラーの暗殺劇を演じさせるという内容で、最後は患者たちがナポレオンを称えて狂乱状態に陥る結末だったと記憶している。いわばそれがこの「倒錯劇」のカタルシスで、私とあまり年齢の違わない川村先生もあれを見たのではないかと思った。

とにかく金田君のルポでは、東京帝大教授だった呉秀三の「二重の不幸」という発言が引用されている。

「ガン患者は周囲から優しい言葉をかけられる。だが、精神病患者は厳しく責められ、壁の中に押し込められてしまう」

なるほど、私には耳に痛い。現在、精神病院に入院させられている患者は30万人、彼らに比べればガンとの闘病など楽なのか。隔離の精神科治療に凝り固まった官学の総本山に乗り込んで、川村氏は「東大を救いにきた」と豪語する。患者を切り捨てて隔離し、黙らせているだけでは何も解決しない。要は患者にも表現させろ、そうすれば緊張も緩和するというのだ。

金田自身、1年前の日経ビジネスでJR東海のリニア新幹線計画を批判する特集を掲載、葛西敬之名誉会長を激怒させ、恐れをなした日経本社の圧力で口を封じられて退社にいたった経緯がある。幽閉され、沈黙させられる精神障害者の解放とは、一直線に自らの体験とつながっている。骨のある彼がこの記事で語ることはそのまま、川村氏の挑戦とシンクロしている。

いいルポだから、ぜひ読んでごらんなさい。入会は個人なら一人月500円とワンコインだそうだ。

もうひとつの記事は、「BIGの終焉」と題して自ら書いた東電首脳の一審無罪判決への批判である。オピニオンだが、ミシェル・フーコーの『監獄の誕生 監視と処罰』の引用から始まる。

「権力に有益な知であれ不服従な知であれ一つの知を生み出すと考えられるのは、認識主体の活動ではない。それは権力=知であり、それを横切り、それを構成し、ありうべき認識形態と認識領域を規定する過程であり闘争である」

ああ、パノプチコンの本ですね。なるほど精神科医の話と地続きになっているわけか。健常者の「強固な世界」のほうが、確かによほど狂っている。ほとんど裁判の使命を放棄したかに見えるほどやる気のない東京地裁判決文と、元副社長の武藤栄被告の「外部機関に長期評価の信頼性を検討してもらおう」という他人任せ、中越地震の後始末に追われていた同じく元副社長の武黒一郎被告も「今度は津波か」と面倒くさそうに言うだけの無気力とが重なっている。それを金田君は、権力と知が一体になった「病」と見ている。

こういう試みをストイカは全面的に応援しよう。彼なら世を震撼させるネタも書いてくれそうだから、私では手に負えないものも提供しよう。そして彼に続いて、大手メディアを飛び出した志のある記者と連合軍を組もう。これ以上、刀折れ矢尽きた記者のなれの果てをみたくないから。

とにかく彼のサイトの動画はスタイリッシュで、見とれてしまうのでぜひご覧になってください。サイトは、

https://shinichiro-kaneda.com/


金田信一郎サイト


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