ありがとう車掌さん

 駅の待合室の自販機で暖かいコーヒーを買った。座っていた木製のベンチを離れたのがよくなかったのか、列車を待つ時間が長すぎたのか。列車に乗り、目的地の駅に降りた途端に、気がついた。バッグを忘れた!ホームから列車の窓に手をかけ、窓越しに自分のいた席を覗き込む。座席にはない。では、駅の待合室に違いない。なぜ忘れてしまったのか。後悔の念が、心を揺さぶる。貴重品は手元にある。バッグや中の書類もどうでもいい。が、中にあったiPad は痛い。次の上りの列車に乗り、元の駅に戻ろう。
 30分ほどで上りの列車はやってきた。夕方、帰宅の時間のせいか、車内は混んでいる。空いている席を見つけ、相席の乗客に軽く会釈をして座った。まもなく女性の車掌がやってきた。予定外の乗車のため、切符を買わなければならない。また、忘れ物の手続方法や連絡先の駅の確認もしたい。その女性車掌に事情を説明すると、上りの運賃はなしにしてくれるという。ありがたや。
 元の駅に着いた。ホームに降り、改札口に向かう。自分の生涯で、この時ほど神仏に祈ったことはなかったろう。果たして、、、。あった!自分の座っていた木製のベンチに自分のバッグを見つけた。中の書類も、そしてiPadも無事である。良かった、田舎の駅で良かった。そうだ、それからJRの女性車掌さん、ありがとう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?