さらば人類

「ご臨終です。」
 医者の乾いた言葉が響いた。私の人生が終わった。長かったような短かったような、つらかったけれど、自分なりにがんばった人生。妹とその家族が、悲しそうに私を見守っていた。
 これからどこに行くのだろう。私は自分の肉体から離れ、上に昇り始めた。昔、夢で見たあの感覚、幽体離脱というやつだ。病院の壁を突き抜け、空へ向かっていた。透き通ったような青空を抜け、日本列島を見下ろし、やがて青い地球が遠ざかっていく。暗黒の世界の中、太陽系の惑星を横目に見ながら、私はものすごいスピードで進んでいた。
 太陽系を過ぎ去り、ある小惑星群の中で、私は急に立ち止まった。ヘリコプターのホバリングのように、私はゆらゆらとそこに佇んでいる。
 その時、どこからともなく声が聞こえてきた。
「あなたはここで小惑星の一つを選び、地球に向けなければなりません。」
なんと?!小惑星を地球に向ける?そんなことをしたら、小惑星が地球にぶつかり、ヘタをしたら人類が滅亡してしまうではないか。
「心配いりません、ここに惑星は無数にあり、どの惑星を選んでもよいのです。地球に向けると言ってもほんのわずかです。すぐに地球に当たることはありません。」
確かにこんな世の中、滅びてしまえと思ったこともあった。しかし、地球滅亡のお先棒を担ぐようなこともしたくない。
「でないと、あなたは永遠にこの宇宙空間で漂うことになりますよ。」

 私は葛藤した。そして拒否した。気がつくと私のまわりには、おびただしい霊が、宇宙空間をさまよっていた。

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