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【昭和の思い出セレクション】クリエイティブの真髄、ノッポさんとゴン太くんの『できるかな』

『できるかな』は、NHK教育テレビで1970年(昭和45年)から1990年(平成2年)に放送されていた工作番組だ。
 登場するのは、すらりとした長身でチューリップハットがトレードマークの「ノッポさん」、モフモフの着ぐるみ「ゴン太くん」、そして姿が見えない天の声のナレーターのみ。
 ノッポさんは言葉を一切話さずにジェスチャーのみで工作をレクチャーする。器用に画用紙を折ったり、切ったり、セロテープで貼り合わせたり、クレヨンで絵を描いたりしてなんでも作っちゃう。一方のゴン太くんは不器用で、「バホッバホッ」という鳴き声しか発しない。
 番組の前半で小物を作り、後半は段ボールでジオラマのようなセットを作り上げて、前半で作った小物を使って遊ぶというのがお決まりのパターンだった。

ゴン太くんとノッポさん

無から有を生み出す創造主

 我が家では、なぜかこの番組が推奨されていた。とはいえ「そろそろ始まるわよ」とか「見ようね」と言われたわけではなく、なんとなくチャンネルが合っていたので自然と見るという感じだった。
 私がこの番組を好きだったのは、毎回必ず何かしら衝撃を受けるからだ。例えば、今でも忘れられない「お弁当」を作る回。A4くらいの画用紙を二つ折りにして外側にお弁当箱の蓋を描いて、その蓋を開けた中にはご飯やタコのウインナー、卵焼きの絵を描けば、あっという間にお弁当の出来上がりだ。極めて単純な仕掛けなのに、パカっと蓋が開く「お弁当」が作れることに驚いた。
 おままごとセットが欲しいと思ったら、買ってもらうのではなく、自分で作ればいい。その考え方は、幼稚園か、小学校に入ったばかりの私にとってはコペルニクス的発想の転換だった。
 クリエーター(creator)は、クリイティブな仕事をしている人を指すが、そもそもの意味は造物主だ。無から有を作れるノッポさんとゴン太くんは、私にとって創造主であった。
 

ノッポさんがもたらしたもの

 番組の後半では、段ボールに描いた線路をスタジオいっぱいに敷いて、段ボールに描いた木々や草花が並ぶ場所に出かけてお弁当を食べたりする。それはまさに天地創造だ。
 そんな驚きが毎回あって、私は小学校高学年になっても好んでこの番組を見ていたし、とにかく年がら年中、手を動かして何かを描いたり作ったりしていることが好きだった。
「ノッポさん」を演じた高見映さんは、現在、高見ノッポという芸名で活動している。今回調べて知ったのだが、1934年(昭和9年)生まれの88歳だそうだ。インタビュー記事などで拝見する限り、今もスリムな体型を維持されている。おそらく、テレビを見ていた子どもたちが抱いていたイメージを保ってくれているのだろう。 
 何でも作れるのだと教えてくれたノッポさんとゴン太くん。今でも私は仕事の合間や休日に手を動かして何かを作ることが好きだし、その時間が自分を救ってくれるような気がしている。ノッポさんに感謝しているし、一度お礼を伝えたいと心の底からそう思う。
 AIが台頭位して人間が物を作ったり、絵を描いたりする意味がなくなったとしても、私は手を動かしてものを作り続けているだろう。

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