ウィーンへ行きました。③

婚活、わたしはムリだ

 原田とは、付き合い始めて二年近くになる。お互い三〇代に突入しているし、結婚を意識した付き合い方をしていた。
 自分の家族の状況について早い時点で告白した。こういうことが、結婚においてネックになることは過去の経験から学習済みだった。
「オレ、複雑な家族背景はムリ」と、断られたことがある。「親を切るのはやっぱりよくないよ」と、逆に責められたこともある。父のような人は金を渡したらすぐにまた投資という名の賭けごとにつぎ込むだけだというのに、だ。「今すぐ結婚してくれたら、オレ、弁済してあげるよ」と金で釣るようなことをいう人もいた。
 原田は違った。父親のことを告白した時、原田は「つらい思いをしたんだね」と抱きしめてくれた。そんな原田に、自分を丸ごと受け止めてくれる人にやっと出会えた、と思ったと、安堵感で一杯だった。
 それが、少しずつ疑問を感じるようになった。彼のちょっとした発言だったり、ある瞬間の目つきだったり、ベッドでの執拗さだったり。些細なことだ、と気にしないようにしていた。
 そして、今、原田のことを過去形で考えている自分に驚いている。そういうことなのだろうか。もう別れるのだろうか。
 いや、それはできない。まだ好きだと思う。好きでないのなら、こんなに涙は湧いてこないはずだ。ああ、でも。時折、自分がわからなくなる。今、一人に戻るのは無理だ。それは知っている。次の出会いを待っているような余裕はないのだ。三十の大台に入ると結婚市場はがくっと狭くなる。それを現実のものとして体感していた。先輩主宰の合コンに行けば、指輪の跡を隠そうともしない不倫狙いの男が混じっている。最近婚活サイトのアカウントを復活させたが、送られてくるのは、再婚者や何らかの条件付きの人ばかり。そういうことなのだ。
 いや、問題はそこではない。わたしは、こういう出会いには向かない人間なのだ。分かっているのに何をやっている。婚活で散々時間を無駄にしてきたというのに、何故また振り出しに戻ろうとしているのだ。わたしは、結婚というものを割り切れていない。今まで紹介所や出会いサイトもトライし、何人もの候補者と会ったが、どうしても気持ちがついていかなかった。運命の出会いを夢みていた。自然に出会って、気づくと引かれ合っていて、という。「女ばかりの職場にいるのに何が自然な出会いだ。夢みるのもほどほどにしろ」、と自分でも呆れていた。そんな或る日、原田に出会った。気づくと恋に落ちていて、結婚を夢に見た。それなのに、今、自らそれを捨てようとしている。
 この先ずっと独りだったらどうなるのだろう。それでも生きていくだろうか、それとも・・・・・・。
 
 ベッドに埋もれながら鬱々と考えていると、ラインの通知音が鳴った。
美樹らが買い物から戻ったので夕食に行こうという。疲れていたが、このまま部屋に閉じこもっていたら、気がおかしくなりそうだ。
「了解、ロビー集合ね」

←前へ

つづきへ→

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?