エージェント会社ストレートエッジコラム第四回『僕がエージェント会社を立ち上げた理由(わけ)』その3

前職は小説の編集者をしていました、三木一馬と申します。2016年3月31日をもって、株式会社KADOKAWA アスキー・メディアワークス事業局を退社し、新たに作家のエージェント会社『ストレートエッジ』を立ち上げました。最終職歴は電撃文庫編集部編集長、電撃文庫MAGAZINE編集部編集長、主な担当作は、『とある魔術の禁書目録』、『ソードアート・オンライン』、『灼眼のシャナ』、『魔法科高校の劣等生』、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』などなどです。


エージェント会社ストレートエッジコラム第四回『僕がエージェント会社を立ち上げた理由(わけ)』その2からのつづきです。


前回、僕が考えるエージェント会社とは、「出版社から観たフリー(外部)編集者の理想」+「欧米式の作家が執筆に専念できる環境提供」のハイブリッドであるとお伝えしました。


つまり、エージェントとは、作家、出版社双方に利益をもたらす存在であるということです。

しかしながら、エージェントと聞くと、いわゆるプロスポーツ選手の代理人的なイメージを想像しがちで、そこには「球団から大金をせしめる」印象であったり、「選手がゴネる手助けをして、円滑な関係を阻害させている」といった想像をしてしまう方もいるかもしれません(実際のプロスポーツ界のエージェントもそうではないはずですが、あくまで印象論として)。

そのイメージは間違いです。というのも、僕の会社や、今後生まれるかもしれないエージェント会社は、そもそもプラットフォームを持ち合わせていないことがほとんどです(作家さんの公式サイトなどは除く)。エージェントには「発表するための強力な媒体」をもった企業、パートナーが必要なのです。

エージェント会社はパートナーがいないと生きていけず、そことの仲を壊すような行いは、自らの首を絞めるだけの愚考です。既存の出版社とも、共同歩調をとっていかなければすぐに倒産してしまうはずです。


そして、パートナーシップの重要性だけでなく、エージェント会社にはもっともっと大きな課題があります。

それは「新規IPの創出」です。

これはコンテンツ企業全社がそうなのかもしれませんが、とくにエージェント会社はより顕著であると考えます。これは先達のコルクさんですら試行錯誤のさなかであると感じています。今までは出版社の強力な組織力、媒体力を中から利用できていたところから一転、在野でどのように次のヒット作を生み出していくかを考えねばなりません。そして、失敗すれば契約している作家は離れていくでしょう。

ここがもっともシビアな戦場であるとともに、編集者の腕の見せ所でもあると僕は考えています。そして、今現在の市場トレンドにおいては、「面白い物語」(=著作物)の最初の出口が小説というパッケージでなくともよく、ゲームやオリジナルアニメ、あるいはウェブマンガとしてスピード感をもって展開する、というように、様々な展開の仕方もあります。

僕の武器のひとつである『メディアミックス』を、ここで駆使していかなければ、勝機はないでしょう。もちろん今も僕の主戦場は小説本で、それが物語を伝えるための最適な媒体に違いはないのですが、これからは様々なメディアも利用して、作家が生み出したプロパティ(原作)を広げていくことも考えていかないと、周りのコンテンツに負けてしまうと思っています。

僕は、未来の編集者は「媒体を編集する」と考えています。

『編集者不要論』が叫ばれていますが、僕はそれに抗いたい。なによりも一緒にやったほうが面白いものが作れると信じています。そして、作家は面白い物語づくりに専念し、僕たち編集者はメディアミックスを通じて、(ドラえもんの秘密道具の)『ガリバートンネル』の役割を担う。そんなパートナーシップを築ければ理想です。


今まで、作家は編集者を選べませんでした。しかし、もしエージェント的なポジションの人間が増えてきたら、これからは、そうではなくなる時代が来るかもしれません。

作家もエージェントも、互いのパートナーをマッチングしていく時代が来るのです。それが市場原理であると思っています。

僕は作家さん達とは1年ごと更新の契約を結びます。

利益が上がらなかったり、「この編集者はちょっとダメだな」と思ったら、プロスポーツ選手のエージェントと同じく、バンバン契約を解除できる、そういう機能がなければ、フェア(対等)ではないと思ったからです。

大手出版社の定期的サラリーと身分保障という後ろ盾がなくなった今、僕はそれくらいの緊張感を持ってやっていくつもりです。


長い内容を、ここまで読んでくださってありがとうございました。


■今日のストレートフォト

2016年3月に、アメリカのシアトルで行われたアニメイベント『SAKURA-con』に、『ソードアート・オンライン』チームで参加したときイラストレーターのabecさんが描いた色紙です。クラインがアメリカで人気らしい……。



■『ストレートニュース』

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