エージェント会社ストレートエッジコラム第十回『何人ものベストセラー作家に触れて気づいた共通点7つ』

 2016年3月31日をもって、(株)KADOKAWAを退社、新たに作家のエージェント会社『ストレートエッジ』を立ち上げた三木一馬と申します。最終職歴は電撃文庫編集部編集長です。主な担当作は、『とある魔術の禁書目録』、『ソードアート・オンライン』、『灼眼のシャナ』、『魔法科高校の劣等生』、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』などなどです。

※この記事は、東洋経済オンラインに掲載させていただいたものの再編集版です。


 前々回は、今年で編集職15年目を迎える僕が常々感じていたことである、「つまらない仕事をなくす心得」5箇条を書かせていただきました。

 今回は、500冊の本を編集し、のべ100人以上の作家と打ち合わせをした自分の経験に基づく「ベストセラー作家の共通点」――つまり、「成功する人間に共通する7つのこと」をご紹介していきます。


1、売れる作家ほど成功を威張らない

 結果を出す作家ほど、驚くほど謙虚です。社会人なら身に覚えがあるかもしれませんが、自分が仕事で結果を出したとき、思わずそれを誇示したくなるものです。しかし、僕の周りにいる成功者は違いました。どなたも、その成功を威張ろうとしていません。

 これは5~6年前、『ソードアート・オンライン』の著者、川原礫さんとのエピソードです。原稿の最後に残った修正箇所を電話で確認したくて、川原さんの携帯電話に「突然ですが今から1時間後に打ち合わせしたいのですが、お時間大丈夫ですか?」とメールを入れたところ、「OKです!」とすぐに返事がきました。

 1時間経ち、そろそろ電話しようかなと思っていると……。突然、編集部の扉が開き、見るとそこにはドタバタと慌てる川原さんの姿が。ぜいぜいと肩で息をしながら、「すみません! 遅れました! 今から打ち合わせをよろしくお願いします!」と僕に腰を90度曲げて言うのです。

 僕は混乱しました。対面の打ち合わせを1時間前に要請する編集者がどこにいるでしょうか。しかしこのときようやく、自分の過失――「電話で」という一文を添えなかったこと――に気づいたのです。

 すぐさま謝罪をして事情を説明すると、「え、そうなんですか、よかったです……」と体の芯が抜けたように脱力し、「じゃあ、(お忙しいと思うので)帰ります。あとは電話で打ち合わせしましょう」と踵を返すのです。いやいや、もう今ここでやればいいじゃないですか……。

 僕が誤解させるメールを送ったことが原因にもかかわらず、川原さんは一切、僕を罵倒したり、叱責しようとはしませんでした。自分が看板作家(成功者)であることなど毛頭考えていません。

 他にも、僕たちが飲食店に入るとき、川原さんは必ずドアボーイのごとく、自らドアを開けて同伴者を尊重しようとします(恐縮すぎるのでやめてほしいです)。どんな些細な用件ひとつとっても、「こういう相談があるのですが、三木さんは問題ないでしょうか?」と確認をとってくるのです。

 その理由を聞くと、「自分ひとりの力で為し得たわけではないから」だと川原さんはおっしゃいました。小説は、ひとりで創り上げられるものではありません。イラストレーター、デザイナー、印刷所、編集者などなど……成功者だからこそ、彼らが欠けたら何もできないことを理解しているのです。

 横暴な振る舞いは、かならず悪評となって返ってきます。そして、善意でその愚行を諫めてくれる人間はどんどん減っていきます。多くの成功者は、そんな愚行を犯さないものなのです。


2、自分だけの『聖典』 を持っている

 オリジナリティを求められる作家は、必ず自分だけの「武器」を持っています。

 たとえば、僕が担当する、とても知識豊富なある作家の武器は「百科事典」です。彼の作品では、自然科学や最新テクノロジー、異端宗教や魔術系オカルト神話などなど、あらゆる分野に食指を伸ばしてネタを練っておかねばなりません。

 なにか新しいネタを模索するときに大切なのは、まずは頼ってみるもの、参照する聖典のような存在を自分の中でキープしておくことです。これは本に限らず、演劇や公演だったりニュース系ウェブサイトだったり、自分の感性と合うものならなんでも構いません。

 成功している作家は全員、仮に同じシナリオで同じことを書いたとしても、数行読めば誰が書いたかすぐに分かります。それほど、彼らの文体には「個性」が宿っているのです。そして「個性」は彼らに武器を与え、その武器を研ぎ澄ますのが「聖典」をもとにした作家独自のアイデアであり、文章語彙力であると僕は考えています。


3、背伸びせず、自分のプレイスタイルに徹する

 成功者は「自分にできること」と「自分にできないこと」を知っています。実は小説の中身も同じで、たとえば大ヒット作家でもあらゆるジャンルの小説を自在に書けるわけではありません。恋愛小説が得意な方もいれば、ミステリーだけは書けない方、逆にSFしか書けません、という人だっているでしょう。

 僕の担当作家の入間人間さんは、「恋愛や独特な世界観を描くことは出来るけど、戦闘描写や深い考証を踏まえたサイエンスフィクションは自分には向いていないことを分かっている」とおっしゃっています。

 これは敗北宣言でもなんでもありません。たとえばプロ野球選手なら、常にホームランを狙っていく長距離バッタータイプか、単打を量産する打率指向タイプかを自己分析した上で、そのプレイスタイルに特化した練習を自分に課しています。小説家も同じで、成功する作家は自分の得意な分野を理解しています。実力不足なのに見栄を張ったりせず、自分のプレイスタイルに徹することが、もっとも良い作品を書ける手段なのだと知っているのです。

 一方、「何を書いたらいいかわかりません」という作家は危険です。プレイスタイル(作風)を持っていないだけでなく、作品の根本に流れるテーマや思想(エンターテイメントに必要不可欠なそれを、僕は「作家の性癖」と表現しています)が欠落しているわけですから、人を感動させるものを作れるわけがありません。「自分はこれがやりたいんだ!」という強い信念がなければ、成功は遠のいていきます。


4、自分が書いたキャラクターが、作者の意志を超えて動いている

 作家が物語を創り上げていくうえで、もっとも大切にしているものは、「編集者の顔色」……ではもちろんありません。「自分自身のこだわり」、でもありません。だとしたら、「読者の意向(ニーズ)」でしょうか? 実は、そうでもないのです。もっとも大切にしているもの、それは自分が生み出した「キャラクターの気持ち」です。

 僕が作家と打ち合わせをしているとき、物語の展開として○○か××、どちらを採るか二者択一の決断をしなければならないことがよく起こります。その最終的な判断は、編集者の知識に基づくアドバイスでも、作家による鶴の一声でもありません。作中に登場するキャラクターが本当にそういう行動をとるかどうか、それがキャラクターにとって違和感のない行動かどうか、で決まるのです。そして、その判断指針に基づけば、作家自身のやりたいことすら出来ません。

 「私はこういう展開にしたいんですけど、キャラがそう動いてくれないんです」といった会話が、僕の打ち合わせではよく出てきます。自分が創造したコンテンツであるにもかかわらず、作中の物語が「勝手に」動き出していて、ベストセラー作家ですらそれを制御することができない……それくらいのパワフルさがあるかどうかが、ヒットするひとつの要因になっていると考えています。


5、お金の使いどころを知っている

 僕が知る成功者は、お金をまったく使っていません。決してケチだからではなく、収入に対する浪費があまりに少ないだけなのです。購入するものは、マンガや小説、ゲームソフトにアニメのブルーレイディスクなどの少額の娯楽費用くらいで、「創作」という仕事に日々邁進している方がほとんどです。僕の担当作家のひとりは、収入に対する経費があまりに少なすぎて、税務署の職員から「こんなに少ない経費で本当によろしいのでしょうか?」と窓口担当から心配されたほどでした。

 その一方で、自分の職場環境には徹底的にこわだっています。長時間、ずっと座ったまま仕事を続けるため、作業机やノートパソコン、椅子といった「自分の理想的な仕事環境」を探るため、お金の出し惜しみは一切していないようです。

 自分の身体と脳が商売道具ですから、ここに手を抜く作家は大成しない、と言っても過言ではないのかもしれません。


6、幸せをみんなと共有する

 アニメが成功したり、作品が様々な場所で展開したり、コミカライズが重版したり……ありとあらゆるメディアミックスを体験してきた作家さんは特に、その媒体で頑張っている方々への感謝の気持ちを絶対に忘れず、むしろリスペクトした態度で接しています。

 自分自身がクリエイターとして「小説が武器である」という、自分にしかない専売特許を知っているからです。それは裏を返せば、「小説しか書けない」とも言えるのです(多芸な方は別ですが)。つまり、声優さんであったり、マンガ家さんであったり、脚本家さん、アニメ監督さん、様々なプロに対して、自分がそのポジションで優れた仕事をできないことを理解した上で、感謝の気持ちをしっかりと表現したい、という考え方なのです。

 この気持ちはとても大事で、メディアミックスというのは、ようは「大人数のクリエイターによって自作が造り替えられる」作業なのです。自分の作品は、まさに産んだ子どものごとく可愛いものですが、どうしても他メディア展開するときは、他人に預けなければなりません。そのときに、不審感と共に譲っていくか、もしくはきちんと適材適所、互いの戦場を理解してリスペクトした上で託すかというマインドの形の違いは、目に見えなくとも将来的に必ず結果として現れてきます。

多くのヒット作家は、自分だけを信じるわけで無く、必ずパートナーを信頼した上で、自分の愛娘(作品)を託しているケースがほとんどでした。


7、今まで書かれてきた共通点6つをまったく守ろうとしない

 ここまで僕が書いてきた自分のロジックを完全否定する結論なのですが、これが真実です。

 共通点2「自分だけの『聖典』を持っている」と共通点3「背伸びせず、自分のプレイスタイルに徹する」のようなマインド(自分の信念)をしっかり持っている作家が成功しやすいのだとすれば、そもそもここに挙げられているような「他人が決めた成功の秘訣」など、まったく気にしないはずなのです。

 ただ、こうも考えられます。これらを読んで、「こんな『秘訣』なんて必要なかったな」と感じたり、もしくは明確に反論できるほど「自分の信念」が心の中にあることを確認できたなら、それは成功者への第一歩かもしれません。この記事を読んでくださっている皆様のリトマス試験紙として考えてもらえたなら幸いです(唯一、共通点6「幸せをみんなと共有する」は守ってくれた方が編集者としては嬉しいのですが……)。

 いかにもうさん臭そうな人間(僕のことです)が偉そうにnoteに書いた「○○な共通点7つ」を盲信し、それを生真面目に守ろうとしてしまう人間は、「信念無く他人に流されている」のかもしれません。これはある種、「成功しない人の共通点」のひとつ……なのかもしれません。つまりは、「自分が利用出来るところは参考にして、あとは無視する」という形が理想のアンサーなのです。

 さて、あなたは、どうでしょうか?

 次回の記事では「よい企画書を書くコツ」についてお伝えします。


■ご質問への回答

■埴 裕史さん

> 初めまして。いつも記事など楽しく読ませて頂いております。前々から気になっていた三木一馬さんに直接、質問をできる機会など「すげえ時代だなぁオイ・・・・・・」の一言しかありません! というわけで早速、質問なのですが、「せっかく独立したので、まずは手始めに『コレ』に着手したい!」というものがあれば(語れる範囲で)お教え頂ければ幸いです。ご返事お待ちしております!

→実は、たっっっくさんあって、今はそれの仕込み真っ最中です。できれば近いうちにいくつかは発表したいのですが、パートナー企業さんの思惑や、見切り発車で発表してポシャる……となっては怖いので、もうすこしだけお待ちくだされば嬉しいです! 曖昧な返事ですみません。必ずこのnoteにて発表しますので。


■落合マハルさん

> 大変勉強になります。こういうオススメ作品の紹介など映画いがいにも本や演劇などなんでもいいので紹介する回があると嬉しく思います。今後の作品作りのための勉強に活かしたいと思います。

→おお! そうですか、ただの自己満メモだったので、ドキドキしていました。あれらの作品は映画ビギナー用だったので、もっとマニア向けもたくさんありますw それと「創作に役立つマンガ」編もメチャクチャあるので、後日書かせていただきますね。ありがとうございました。


■ドルさん@1分で読める小話職人さん

 > はじめまして! とても勉強になる話ばかりで、いつも楽しく読ませて頂いております。こんな風にコメント、質問できる機会があってとても嬉しいです。早速ですが、質問です! 小説の新人賞について、応募する作品はある程度話の幅が広がりそうな、つまりシリーズ化できそうなものの方が良いのでしょうか? というのも、現在、僕はとある賞に応募するための長編小説を書いているのですが、執筆の途中で「シリーズ化を考えないと選考に漏れるのでは?」と不安になることが多々あるのです。もし、記事のネタになるようでしたら、質問のご回答、もしくは新人賞全般のことについてお教えください。よろしくお願い致します。

→少なくとも、僕が以前携わっていた電撃小説大賞では、一切そんなことは気にしなくてもいいです。これは作家さんには聞いておりませんが、今回の大賞作「ただ、それだけでよかったんです」も、そんなことは考えないで書かれている作品だと考えています。デビュー後の相談は、是非編集者としてください。彼らはきっと、貴方の心強い味方となって、不安を払拭してくれるはずです。そういった悩みも、忌憚なくぶつけてくれたほうが、僕が担当だったら、「OK、じゃあその前提で相談していこう!」と話し合いがスタート出来るので、そのほうが嬉しいです。


■フォルトさん

> ゼログラビティ(GRAVITY)の邦題が失敗しているというのは、言われると確かに納得です。

→僕は試写会のラストで「おい!」と突っ込みましたw


■今日のストレートフォト

 2016年3月に、アメリカのシアトルで行われたアニメイベント『SAKURA-con』に、『ソードアート・オンライン』チームで参加したときイラストレーターのabecさんが描いた色紙です。最後はやっぱり超人気キャラのこの人ですよね! これらの色紙は、電撃文庫のイベントなどで活用出来ればと思っております、abecさん、ありがとうございました!! ……嘘です、あともう一枚あるので、みんな怒らないで!


■『ストレートニュース』

すみません! これを読んでいただいている皆様にご相談です。ブログ書き続けていると絶対にネタが枯渇するので、心優しい閲覧者の皆様、質問とかいろいろ送ってください。それに答える形で記事を書いていきたいと思ってまして……!! 罵倒・糾弾・誹謗中傷も大歓迎です!! ヘイトを浴びるとなんか気持ちいいよね。よろしくお願いいたしますm(_ _)m


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三木一馬

エージェント会社ストレートエッジのマガジン

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