ストレートエッジコラム番外『デッドプール』(※ネタバレ注意!!!!)
作家のエージェント会社『ストレートエッジ』を立ち上げた三木一馬です。
いつもは創作にまつわるコラムを書いてますが、今回は番外編ッッッ……!!
本日、全国の劇場で公開した『デッドプール』の感想です!
※ネタバレあります!!!! 注意!!!!!
そもそも『デッドプール』ってなに? という方は、まずこちらのリンクをご覧ください。
引用:デッドプールの本名はウェイド・ウィルソン。初登場は1991年2月刊行の『ニューミュータンツ#98』と新しいキャラクターである。X-FORCEに再登場して以降、コミックのアベンジャーズやデアデビルなどにゲストとして登場している。
傭兵であり、金次第でヒーローにもヴィランにもなるアンチヒーロー。癌治療のために参加した実験で得たヒーリング・ファクターのせいで癌細胞が暴走し、体全体がケロイド状になっている。
それによって精神に異常をきたしており、性格が非常に不安定。『口数の多い傭兵』と呼ばれるほど口が軽いのも特徴。
――つまり、アメリカンコミックのスーパーヒーローのひとりであり、『X-MEN』のメンバーでもあります。
ここまで読んだ皆様、「ぐあー、アメコミ映画っていろいろありすぎてよくわかんねぇえええ、なんかDC?とかマーベル?とかあるんだっけ?」というくらいの知識しかお持ちじゃないと思います。
なので次はこちら。
これをみれば、「ほうほう、スパイダーマンとバットマンって別の出版社だったのか」とか「同じマーベルっていう出版社でも、映画にしてる配給会社は別なんだな」……などなど分かります。それを理解出来ると、「権利問題なるものがこの世界にもあるのね。だからあの映画にはこのキャラは出なかったのか~」とか、『大人の事情』もわかってきます。
というわけで、『デッドプール』に戻りますが、こちらのキャラはそもそも『X-MEN』から派生した、アンチヒーローでおちゃらけ上等の異質な存在です。もともと『X-MEN』はずっと20世紀FOXが映画化をしており、今回もその流れでの映画化と相成りました。
しかし、その過程は決して順調ではありませんでした。カルト的な人気はあったものの、映画会社の重役たちからは知名度の無さやそのアンチヒーローっぷりが仇になり、長年「塩漬け」状態だったのです。(20世紀FOXとしては、ウルヴァリンのスピンオフやファンタスティックフォーのリメイクなどを頑張った方が、「ヒットの計算」ができるからです)
そんなとき、なんとこの映画のパイロットフィルムが流出してしまいます(ショーケース的にわざと流した、という説もあり)。
すると、その完成度の高さ(2009年に一度だけX-MENにゲストで登場した『デッドプール』のキャラとはまったくことなり、悪ノリアリ、下品ネタアリ、暴力的な要素アリの、『原作ノリをわかってる』映像だった)から、一気にソーシャル上で話題となり皆の期待値が上がり、公開まで拍車がかかったと言われています。
これは2014年の出来事だったのですが、わかりやすく解説している当時のニュースがありますから、こちらをチェックしてみてください!
ソーシャル上で話題になって映画化決定!『デッドプール』が2016年公開
ここまで辿れば、予備知識はバッチリですよ!
というわけで、ようやく本編の感想!
とにかく出だしから最高でした。オープニングシーンはどこか密閉空間の内部でカメラがシームレスに移動するところから始まり、スタッフロールの演出が入ります。これはデヴィット・フィンチャーの『ファイトクラブ』のオープニングを彷彿とさせるカッコ良さ。それだけでなくデップ―要素(おふさげ)も満載で、主演のライアン・レイノルズが表紙になった雑誌や、彼が主演して大コケしたアメコミ映画『グリーン・ランタン』のアイテムも見え隠れ(余談ですが本編でも「緑のユニフォームだけはやめてくれよ」というセリフあります。どんだけ嫌いなんだよw。そして赤のユニフォームはいいのか)。
ロールで流れるクレジットもおちゃやけていて、大抵はスタッフを馬鹿にするふざけた内容でした。なのですが、ここで一箇所だけ、「脚本家たち」だけには敬意を払う文言が。これはやっぱり、「低予算」と噂されたデッドプールのシナリオを105分という、ハリウッド映画ではもの凄く短い分数にきっちりとまとめきった彼らへの最大級の感謝のしるしなのでしょう。
しかしあえて言わせてもらうなら、だからなのか、やはり短いシナリオはちょっと昨今のハリウッド映画としては物足りなかったと感じました。もちろんそれでもとても面白かったのですが。
スーパーヒーローもので必要最低条件のど派手なVFXも、どこが低予算やねん、という印象を抱くほど、迫力があって素晴らしかったです。
このVFXをつくったスタジオは、監督がトップで所属する「ブラー・スタジオ」。ハイクオリティな映像を映画やゲームに供給している、映像会社です。どれくらい凄いかというと、ブラー・スタジオのプロモムービーをご覧ください。
どうですか! 流れるように映像が繋げられていますが、これ、実写の映画と完全CGのゲームムービーが混在しているんです。どれが実写で、どれがCGなのか、わからないほど、クオリティが高い。
デッドプールの象徴である「おちゃらけ」「悪ノリ」「シュールなシーンで皮肉が利いたジョーク」を織り交ぜつつ、このレベルのVFX映像を組み合わせているのが、本作なのです。
次にシナリオについては、クレジットで監督から敬意を表されていましたが、先ほど書いたように、若干、練り込み不足だったかもなと……。ただ、それは非常に贅沢な悩みであって、「R指定」作品として史上最高の世界興行収入を記録したり、すでに速攻で第二作目が決まっているこの映画だからこそ、あえて苦言を呈しているということでご容赦ください。
いくつか言及しますと、デップ―がガンを克服するかわりに、ミュータント遺伝子を受け入れて、ひどい外見になってしまってからのシナリオ。彼はあまりに醜くなってしまった自分の顔を自覚し、死に別れせずによくなったのに、恋人のヴェネッサとはもう会えない、と考えてしまいます。
ですがこの「顔がひどいことになっているから」という理由。正直、同じアメコミであるトッド・マクファーレンの『SPAWN』と被ってるし、こっちのほうが『ハンバーガーヘッド』と言われるくらいのひどい顔をしているのです。リンクは、サントラの音楽ですが映像がわかりやすいので。
なので、デップ―さんのミュータント化したあとの顔を見ても、「その顔でも、絶対にヴェネッサなら愛してくれるよ!」と普通に考えてしまいました。つまり、デップ―さんの気持ちに共感はできなかったのです。そもそも、このコロッサスさん(全身金属)のほうが可哀相では……?
というわけで、勝手なことを言いますが、いちおう物語に携わる編集者のはしくれとして、ずうずうしくもこのくだりをより強化させるなら、
デップ―が会いにいく(様子を見にいく) → 実はデップ―と別れる前に妊娠してたヴェネッサが、彼の子どもを産んでいた → 様々な想いが去来しながら二人につい近づくデップ―(醜い顔) → 子どもが気づいて、その「化け物」の顔を見て大泣きされる → 周りからも偏見と罵倒を浴びせられる → 走り去るデップ―……
みたいな感じでどうでしょうか。こういった強制力があるとよかったな~と(偉そうにすみません)。
それと、実はラスボスのくだりもちょっとイマイチで、「ベタなハリウッド」すぎるというか、ラスボスが「脚本の都合上」、デップ―に有利に動かされすぎだったんですよね。
ヴェネッサを人質にとるまでは良いんですが、そこからの彼女の扱いがお間抜けすぎて……ラスボスは研究所の所長という立ち位置なので、結構頭はいいはずで、しかも長年拷問をしてきた、いわばプロフェッショナルなのです。そんな彼が、あんな簡単に人質をデップ―に譲ってしまうのはちょっと納得がいきませんでした。
こういった感想が出てくるのも、実は面白い映画だったからこそ、だと思っています。いろいろ語りたくなったり、「俺だったらこうするな~」みたいな悦に入りたくなったり、こうやってすぐにnoteにドヤ顔でコラムを書きたくなったりする(汗)のが、良い映画の証左だと思うのです。
というわけで、皆様も是非! お暇があれば映画館に観に行ってみてください!
最後に、この映画はパイロットフィルムが事前に流出してしまったという話をしましたが、その映像がこちら。
本編でもこのシーンは存在するのですが、僕個人的な意見としては、このプロモ映像の流れのほうが面白かったな。とくに車が横転してスローモーションになったときに、「この人知らない?」と聞くところ。このシーンがシュールすぎて面白かったです(このくだりは、本編ではカットされてるんですよ!)。
というわけで、世の中に辟易したアナーキーなみんなにおすすめ! それが『デッドプール』です! デートムービー……には向いてないかも!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?