エージェント会社ストレートエッジコラム第八回『知らない人は損している、「つまらない仕事をなくす心得」五箇条』

 前職は小説の編集者をしていました、三木一馬と申します。2016年3月31日をもって、株式会社KADOKAWA アスキー・メディアワークス事業局を退社し、新たに作家のエージェント会社『ストレートエッジ』を立ち上げました。最終職歴は電撃文庫編集部編集長、電撃文庫MAGAZINE編集部編集長、主な担当作は、『とある魔術の禁書目録』、『ソードアート・オンライン』、『灼眼のシャナ』、『魔法科高校の劣等生』、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』などなどです。

※この記事は、『東洋経済オンライン』様に掲載させていただいたものの再編集版です。


 僕はもともと、小説をほとんど読んだことがありませんでした。新卒で今の会社に入ったときは、大学では理系を専攻していたせいで、「編集」という仕事がどんなものかまったく知りませんでした。基礎知識も専門的な才能もない、ただの「落ちこぼれ社員」だったのです。そんな僕が、ここまでの結果を出せたのには理由があります。

「ほんのすこし、考え方を他の人と変えること」、です。

 僕が働き始めて気づいたのは、世の中には「仕事はつまらないものである」「そんなつまらない仕事はやりたくない」と考える人がとても多いという事実です。

 そもそも仕事をつまらなくしている原因はなんでしょうか? 僕は、そう感じさせてしまう「自分自身の考え方」だと思っています。


 ここからは、編集長として職場を管理し、ベストセラー作家との打ち合わせで気づいた、僕なりの「つまらない仕事をなくす心得」5箇条をご紹介していきます。


■知らない人は損している、「つまらない仕事をなくす心得」

その1:「できません」「無理です」だけで終わらせるな

 決して『ブラック企業で従順に働くソルジャーになれ』といっているわけではありません。たとえば上司や同僚から作業カロリーの高い資料作りを依頼され、それが物理的に困難だったとき、当然「できません」「無理です」と返したくなります。

 そんなとき、僕はその言葉の後ろに、「頑張ってみます」「やってみます」というワードを必ず付け加えていました。「できないと思いますが、頑張ってみます」「これは無理そうですが、とにかくやってみます」と。

 結果は同じかもしれませんが、『トライをしたという事実』が大事なのです。万が一うまくいけば『ラッキーヒット』。うまくいかなかったときも結果は同じなのですが、少なくとも『自分の経験値』は上がっています。

 そして、できなかったときのリスクも心配ありません。なぜなら、そもそも上司は完璧な部下は求めていません。上司が部下に求めているのは、目標を目指す前向きな意志を伴う『個人の成長』と、そのための『経験』です。少なくとも、僕が在職中はそうでした。職場で部下に対して望むのはそういう『トライする精神』なのです(そして上司は、部下から「できない」と匂わされた時点で、次善策を準備してリスクヘッジをしていることでしょう)。


 仕事を「つまらない」と感じる瞬間は、「納得できない理不尽な要求を受けたとき」です。上司からの乱暴な指示や無理難題を、今までは納得できない「つまらない仕事」と考えていた人も多くいるはずです。しかし僕はそう考える前に、指示を下した上司の立場になってみて、その奥に秘められた意図を想像していました。すると、今まで「つまらない仕事」だと思っていたものが、何かしら意義があるものに感じられたのです。

 上司の立場になり指示の裏にある意図を想像してみましょう。今まで「つまらない」と思っていた仕事も、別のとらえ方ができるかもしれません。


■知らない人は損している、「つまらない仕事をなくす心得」

その2:大人数の会議で観光客になるな

 大人数での会議といえば、「つまらない仕事」の代名詞。会議とは「物事の承認のために、複数の人間の見解を合わせる」場です。リスクヘッジで多くの人を介在させるのは当たり前ですが、反面、責任も分散されてしまうため『誰もケツを持たなくていい』状態を作ります。

「つまらない仕事」とは、「自ら責任ある決断をしなくても、ほかの誰かに任せられる」という油断の延長線上にあると僕は考えています。

 会議において、そういった人々は『ツーリスト』になりがちです。『ツーリスト』とは『観光客』という意味の他に、『ひやかしの客』という意味もあります。会議になぞらえるなら、「それは悪くないですが、全体的にここが気になりましたね」という“だけ”の人間です。その発言は、意見ではあっても、『責任ある見解』ではありません。ただの『評論』です。責任無く論評を述べ、会議が終われば現場から去ってしまう……つまりツーリストなのです。

 僕は朝から真夜中まで、何時間にも及ぶ打ち合わせを小説家さんといくつもこなしています。発売前の原稿を今よりさらに面白くするにはどうすればいいかを考える、非常に神経をすり減らす作業なのですが、ここでの禁句はまさに『ツーリスト的な発言』なのです。作家は論評を欲しいわけではありません。その意見をどう作品に活かせばいいのか、論評からさらに一歩踏み込んだ建設的なビジョンや方向性を求めているのです。


 バックネット裏でビール飲みながら選手に向かって「なにやってるんだよ、そこは三振とれよ!」というヤジは誰でも言えます。しかし、ピッチャーがいるマウンドに駆け寄ってどうやって三振を奪うかを一緒に考えられる人間はなかなかいないでしょう。それが編集者の仕事だと思っています。

 作家は、作品に生かすための、論評からさらに一歩踏み込んだ建設的な方向性を求めています。そして、それに応えるのが編集者の仕事です。

 僕の経験則から断言しますが、ヤジしか言えないツーリストの周りには、自然と「つまらない仕事」が集まってきます。責任を意識できない人間は、「やりがい」も意識できないため、結果的に「つまらない仕事」を量産します。自分の周りに「つまらない仕事」を呼び寄せないためにも、『ツーリスト』にならないことを心がけましょう。


■知らない人は損している、「つまらない仕事をなくす心得」

その3:軽く請け負ったことは、“すぐ”守るべし

「考えておきます」「あとでやります」「追って連絡します」……仕事ではよくこれらの言葉を耳にします。期限が切られてないのでプレッシャーを感じることなく軽く返せますし、「その場をやりすごす」のに最適ですから、つい口から出てしまいます。


 しかし、これらの言葉を安易に使うと危険です。なぜなら、これらの言葉を仕事を使ったとき、言った側の人間は軽く考えていても、言われた側の人間は意外としっかり覚えているからです。

 僕も小説やアニメを複数のプロジェクトで回しているとき、この手の言葉ではぐらかすことがありました。「今さえしのげればどうにかなる」という甘い考えからですが、案の定、僕はそのあと自分で請け負ったことを忘れてしまいました。しかし、言われた側は「どうなっているのかな」とずっと返答を待ちわびていたのです。後日、「前に言った資料の件、どうなりましたか?」と小説家から質問されるも、完全に内容を失念していたせいで大きなトラブルに発展してしまいました。安請け合いをした結果、重大な過失として返ってきたのです。

 もともとはたいしたことのない案件だったにもかかわらず、軽い気持ちで返したことによって大問題になる……これは非常に「つまらない仕事」です。

 猛省した僕はそれ以降、「考えておきます」「あとでやります」「追って連絡します」と言ったときは、忘れずに必ず実行する――だけでなく、“すぐに”やることを自分に課しました。

 たとえば職場の上司や先輩から「もし準備出来そうならこの資料作っておいてくれない?」とお願いされ、僕が「わかりました、あとでやります」と答えたとします。答えた僕は「いつでもいいや」と思う一方、上司や先輩は「いつやってくれるのかな」とつねに気にしているでしょう。

 ですから僕は、これを逆手にとりました。「あとでやります」と言って、必ず“すぐに”やるのです。そうすれば、意外性を伴って「なかなか仕事ができるやつだな」という好印象を与えられるからです。「あいつけっこう使えるやつだ」と思ってくれたならしめたものです。

 もしかしたら、「あいつけっこう便利なやつだぜ」というの評価の先に、「こいつとなんか面白いこと一緒にできないかな」とか「大事なプロジェクトだから彼をチームに加えよう」といった大きな展開が待っているかもしれません。こういった小さな積み重ねが、「つまらない仕事」を潰していってくれるのでは、と僕は考えています。


■知らない人は損している、「つまらない仕事をなくす心得」

その4:社内で『苦手なヤツ』をつくるな

 僕は20代中盤の頃から十社を超えるメーカーと委員会を作り、そのリーダーとなってアニメプロジェクトをいくつも進めてきました。うまくいかないプロジェクトは「つまらない仕事」のひとつですが、なればこそ、そのチームの中に「苦手なヤツ」をつくらないようにすることが大事です。

 これは僕がまだ新人編集者だった頃のエピソードです。

 ある小説家の原稿が遅れに遅れ、締め切りまでの時間がいまだかつてない程ギリギリだったときです。印刷所から追い立てられ、編集長からも叱責される苦しい日々が続きました。しかしこの本だけは最後までやりきると決心し、とにかく各方面、あらゆるところに頭を下げ、どうにか完成させることができました。ようやく一息ついた僕は、当時の編集長に愚痴を言いました。

「本当に大変でした。各方面にも謝りっぱなしで、もう二度とやりたくありません……」

 するとその編集長は、こう返しました。

「なんで? 本はちゃんと出るし、そもそも結果としても、君の思い描いたとおりになってるのに」

 確かに、自分がやりたかったことは、きちんとその成果物に表現されていました。

 そしてこの成果の陰には、僕がとことん苦手としていたデザイナーの尽力がありました。必死な状況下で、「とにかく力を貸してほしい」と頼み込んだ結果、そのデザイナーは何よりも優先して僕の仕事を手伝ってくれました。もっと前から相談しておけばこんなトラブルにならなかったのに……と悔やむと同時に、「苦手だからと後回しにしている」自分がとても「つまらない仕事」をしていたことに気づいたのです。

「共演NG」のメンバーの存在は、その人の可能性だけでなく、自分の可能性も潰してしまいます。だからこそ僕は、「苦手なヤツ」を作りません。結果が出る確率は、そのほうが絶対に高いからです。


■知らない人は損している、「つまらない仕事をなくす心得」

その5:仕事を『仕事』と考えない

 五箇条目は、禅問答のようになってしまいした……。お伝えしたいのは、『「仕事」という言葉の持つイメージ力は強大である』ということです。仕事という言葉には、『言霊』が宿っています。「おい、最後はオカルトかよ」と思われたかもしれませんが、まあ聞いて下さい。

 現代のビジネスシーンにおいても、未だにその大部分は人の手によって成立しています。たとえば、絶対に納期に間に合わないはずの状況、しかしそれでもどうにか終わらせるために部署一丸となって不眠不休の精神論で乗り切る……というケースは、本来避けたい出来事ですが実情としてよくあることだと考えています。

 これは僕個人的な意見ですが、『仕事』という言葉には、「ミスは許されない」「ふざけてはいけない」「なるべく余計な手間をかけずに済ませたい」といったイメージが詰まっていると思っています。

 さらに付け加えると、幼少期には親から「仕事で遅くなるから一緒にご飯は食べられない」「仕事があるから遊びにはいけない」「仕事だから仕方ないだろう」……などと言われた記憶があったりして、僕たちは生まれたときからずっと「仕事」という言葉にネガティブなイメージを植え付けられてきました。

『仕事=つまらない』というマインドは、ここから来ているのではないでしょうか。大多数の人間はそのネガティブなイメージを払拭しきれないマインドを持ったまま社会人となっているのだと思うのです。

 だからこそ僕は、仕事を『仕事』と思わないことにしています。

 どんな「つまらない仕事」も、たとえば新しいことに打ち込む趣味、目標がある部活動のような気持ちで挑んでいます。退屈な会議だって、普段出会えない人たちとの新鮮な交流の場ですし、作家やイラストレーターとのシビアな打ち合わせは、“強豪校との公式試合”に見立ててチャレンジ精神を鼓舞しています。

 もちろん、ただの「思い込み」でしかありません。ですが、仕事を面白くするかつまらなくするかは、自分の考え方で決められるのです。少なくとも僕はその考え方で、担当累計部数6000万部という結果を出すことができたのです。

 次回の記事では、「何人ものベストセラー作家に触れて気づいた共通点」についてお伝えします。


■今日のストレートフォト

 2016年3月に、アメリカのシアトルで行われたアニメイベント『SAKURA-con』に、『ソードアート・オンライン』チームで参加したときイラストレーターのabecさんが描いた色紙です。アスナさんです。そして、次回が色紙シリーズ最終回、あの待望のキャラクターが登場する……!!


■『ストレートニュース』

 すみません! これを読んでいただいている皆様にご相談です。ブログ書き続けていると絶対にネタが枯渇するので、心優しい閲覧者の皆様、質問とかいろいろ送ってください。それに答える形で記事を書いていきたいと思ってまして……!! 罵倒・糾弾・誹謗中傷も大歓迎です!! ヘイトを浴びるとなんか気持ちいいよね。よろしくお願いいたしますm(_ _)m


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三木一馬

エージェント会社ストレートエッジのマガジン

コメント3件

質問です!電撃文庫様の作品にはKindleに対応している作品としていない作品がありますよね?Kindleに対応したほうがより沢山の人の目に触れる機会が多くなると自分は思っているのですが、これは一体何故なのでしょうか?宜しくお願いしますm(__)m
素朴な疑問なのですが、今現在ストレートエッジ所属の編集者は三木一馬さんの他にはいらっしゃるのですか?
回答、コラムに書かせていただきました、ありがとうございました!
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