ストレートエッジコラム第十三回『SAOの世界的人気の秘密』

 先月(株)KADOKAWAを退社、作家のエージェント会社『ストレートエッジ』を立ち上げた三木一馬と申します。最終職歴は電撃文庫編集部編集長です。主な担当作は、『とある魔術の禁書目録』、『ソードアート・オンライン』、『灼眼のシャナ』、『魔法科高校の劣等生』、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』などなどです。

今日、とある世界的なゲームをつくっているバンダイナムコのプロデューサー・F見さん(えふたみさん、と読みます)に「三木さんのコラム、最近再録ばかりじゃないッスか(ニヤニヤ」と言われました。……くそう! くそう!! 僕もF見(えふたみ)さんみたいにBIGになりたい!


■メディア露出のお知らせ

 その1:『毎日新聞 まんたんウェブ』さんにて、記事にしていただきました! 『ラノベ6000万部売った編集者が独立の理由語る

 その2:『日経ビジネス』さんにて、記事にしていただきました! 『(Yが)キーパーソンに聞く “空振り三振”した部下に贈る言葉

 その3:学生に向けて、業界で活躍する現役の関係者による「エンタメ業界で働く」をテーマとした講演会「W@KU WORK mini」にて、5月29日(日)に講演会を行います! 『「とある」編集の三木一馬登壇 エンタメ特化の新卒支援行うワクワーク


■SAOの世界的人気の秘密

 2016年3月末に、アメリカ、ワシントン州シアトルで毎年春に開催している『SAKURA-con』というアニメイベントにゲスト出演したときのことです。その詳しいレポートは、アニプレックスオブアメリカさんの『SAO』facebookを参照して頂くとして、このイベントで、現地のファンの想いや考え方を直接聞くことができる貴重な機会を得ました。

 SAKURA-conは有料イベントなのですが、そのイベントにより多くお金を支払った客はVIPの資格が与えられ、ゲストとの夕食会に参加できます。そのVIPのファン達と僕たちで食事をしながら、いろいろSAOについてトークを交わすという機会に恵まれました。これは日本でもなかなかない、ファンとの長時間にわたるやりとりで、とても新鮮でした。

 変わらないのは、海の向こうのファンも、日本と同じで瞳をキラキラさせながら、こちらにいろいろ質問を投げかけてきてくれることでした。僕が話をしたVIPファンの方々は、家族四人で参加しているという日本アニメオタク一家でした。アングロサクソン系のご家族で、見た感じ、よくあるアメリカの家族という印象です。お父さんが大学時代にカンフー映画にまずハマリ、いろいろ見終わって次に行き着いたのが日本のアニメだったそうです。

 僕も編集者の性(さが)として、またとない海外ファンの考えていることを聞くチャンスでしたので、様々な逆質問をしました。そこで得た情報は、今後の戦略に活かせる有益なものでした。

 そしてもうひとつ。最近、ものすごく感動するファンレターをいただきました。編集部チェックなのに、思わず身体が感動で震えるほど、渾身の気持ちがこもったファンレターです。送り主は、42歳のアメリカ在住の白人の方。何枚にもわたってかなり完璧な日本語でSAOの素晴らしさを書いてくださっていました。

 SAKURA-conのVIPファンの感想と、このファンレター、そしてfacebookに送られている海外からのメッセージを自分なりに紐解いていったところ、『SAOの世界的人気の理由』が少し分かった気がしたので、ここにご紹介します。

 

①魅力的で斬新な設定

 海外のファンに日本のアニメの魅力を聞いてみたところ、なんと言ってもその多様性に尽きるのだそう。たしかに、日本の他の映像作品(実写ドラマや実写映画など)にくらべると、日本のアニメはもうすこし自由度が高いというか、ありとあらゆるジャンルの作品と数がそろっている気がします。たとえばラブコメ、たとえばロボットもの、ファンタジーにSF、平安時代の話から遠未来のストーリーまで。その多種多様な作品群の中から、『デスゲームに囚われた少年がゲームクリアを目指す』SAOに出会い、その斬新さに魅力を感じてハマっていく方が多いようです。

 

②英語ネイティブの人間から見ても、ネーミングセンスが良い。

 いただいたファンレターによると、通常は、日本人が英語を作品上に登場させたとき、「うーん、なんかしっくりこないな」とネイティブの方は思うことがあるようです。たとえば、ハリウッドでも日本を題材や舞台にしている映画を日本人がみたとき、『地元』ゆえに違和感を覚える箇所があったりしますよね、それと同じなのでしょう。『SAO』の英語は、ネイティブの方から見ても「センスが良い」ようで、例に挙がっていたのは『プログレッシブ』(progressive)という『SAO』の副タイトルについてです。これは『プログレス』(progress)=進行する、という動詞に「-ive」をつけることによって、現在もその動きが続いている状態を指す形容詞となります。つまり、「進行中」ということになり、まさに『一度本伝でクリアし終わったSAOを、再び攻略している最中』という表現になるのだそうです。他にも『マザーズロザリオ』=mother's rosárioなどなど、日本人でももちろん文法的に納得出来ますが、英語ネイティブの方にも非常に「しっくり」くるワードが多く登場するのが『SAO』だそうです。(これは英語版を出してくださっているアシェットの訳者さんのおかげもあるかもしれません)


③おっさんが出てくる。

 アメリカで異様に人気があったのは(もちろんネタも含めて)、クラインとエギルです(笑)。VIPファンの家族の方全員、この二人が大好きでした。憎めない三枚目でありつつも、しっかりとキリトをサポートする男気があり、そしてなにより『おっさん』だから! いわゆる日本の萌えアニメ・マンガは、なかなかこういった大人キャラが主役級で登場することは少なく、さらに黒人男性であるエギルの存在は唯一無二といってもいいでしょう。日本のアニメで『おっさん』の活躍が観れる、他に代替品が“なかなか”存在しないコンテンツになっているところが、人気の秘密の一つというわけなのです(海外で『攻殻機動隊』や『カウボーイビバップ』が人気なのはそのせいかもしれません)。この配役を最初に決めた川原さん自身は、なにも意識せずに自然に思い付いたそうですが、もって生まれた完成なのか、極上の結果オーライパワーを持っていたのです。


④FPSチックなシリーズがある

 アメリカではとくに『GGO』が人気で、SAKURA-conでもアスナよりシノンのコスプレのほうが多かったかもしれません(一番はキリトです)。しかしそれらキャラクターの良さ、キリトのカッコ良い姿やゲーム攻略の奮闘なども、すべてが『ドラマ』と密接に絡まっているから面白いと言っていました。『GGO』が人気な理由は、他のシリーズに比べ謎解き要素が多く、より『銃』と身近なお国柄もあるかもしれません。FPSニーズも随一でしょう。


⑤キャラクターがアメコミ的スーパーヒーローではない

 『SAO』のキャラクターは、かなりエッジの効いた描写が多いです。具体的には、冒頭で何千人も死にますし、キリトはゲーム中に殺人を冒します。それが、自身の十字架としてシリーズを通したテーマとして描かれています。さらにとあるヒロインは、トラウマを抱え、我慢できずに嘔吐するシーンもありますし、またとあるヒロインは、ゲーム内で死んでしまいます。このような描写が、「主人公は必ずピンチに駆けつけて、もの凄い能力を駆使してヒロインを救う」といったアメリカンコミックヒーローものに慣れた人々からは、とても『リアル』に映ったのです。これは日本国内の、いわゆるライトノベル作品のキャラクターとしてもとても異質であると言えます。そこが成功の秘訣、だったのかもしれません。


⑥SAOには、一般的なアニメ・マンガの「お約束」の展開がない。

 ⑤とすこし関係しますが、『SAO』において、主人公であるキリトは、最初からアスナを選び、最後まで添い遂げます。これが、海外のファンがもっともこの作品を指示し、好感を持っている理由の一つなのです。どうしても、エンターテイメントとして考えれば、恋愛というのは「くっつくまでが一番面白い」と考えがちです。ですが『SAO』は、その常識をド直球で無視しました。これは想像ですが、もしかしたら当初の構想としては、ネットゲームの『結婚』演出を描くためにキリトとアスナをくっつけたのかもしれません。その演出は、結果的に異次元的な角度から、この作品に「一途で男らしい主人公像がここにある」という最強の魅力をもたらしたのです。

 

⑦まとめ

 いかがでしたでしょうか? ここまでコラムを読んで、同業者の方々なら、うすうすお気づきかもしれません。そうです、ハッキリ言いますが、この①~⑥までの項目を全部満たしてしまうと、日本の市場では売れない作品がつくられます。すくなくともラノベ市場では。一般青年マンガ市場などでは、また異なるかもしれませんが……。

 じゃあなぜ『SAO』は売れたのか? 

 個人的には、もちろん作品力、つまり『面白い』がたくさん詰まっていたから、に他なりません。日本の市場に劣勢的な要素がいくつかあっても、それをはじき返す『面白さ』が詰まっていたからなのでしょう。ですが、僕はエンタメのニーズに限らず、何事もすべては人が媒介する以上、相対的なぶり返しと揺れ動きがトレンドを決めると考えています。つまり、ハーレム展開をずっとやり続けた市場が画一的に凝り固まったタイミングで『SAO』が出てきたから、という相対的タイミングもあったと考えています。ですが日本も既に今は『ハーレムは飽き飽きだよ』という風習がありますし、もっと時間が経てば、今度は『異世界転生はもうお腹いっぱいだよ』という逆ムーブメントが起こるかもしれません。

 僕は先ほど、『海外で売れるニーズを盛り込むと日本では売れない』、と書きましたが、きちんと誤解なきようお伝えします。そもそもトレンドは脊椎反射的な二元論では語れず、移り変わりが激しいものです。ですから、一概に決めつけられないのです。だからこそ、これからも僕はずっと悩み続け、『面白い』とはなにか、『人がより多く指示する』とはなにを、常に考え続けていくと思います。

 結論が曖昧ですが、今日はこのへんで。


■今回の質問ご回答

> みらいさん

> 三木さんが新会社を立ち上げたと聞いてから三木さんの新しい企画を楽しみにしてます。

→もうちょっとしたら新展開発表するよ!


> こづゆさん

> お返事ありがとうございました。タイトルにインパクトを持たせようとしたあまり、編集者の方や本に関わる人がどう思うかまで気付きませんでした。これからは気を付けていきます。本当に、お返事ありがとうございました。

→なんどでもキミの挑戦を待つ!m9っ`・ω・´)シャキーン


> いぬまたさん

> 質問です。現在、素人三人集められて本を書けと言われ、

・好きに書いていいけど筋は通して、

・新書で売りたい。

・私が読みたい文章を書け

・あとは任せる

と放り投げられたのですが、このような編集者は三木さんから見たらどうなのでしょう。個人的にはもっと方向性を明らかに示して欲しいのですが、実際こんなものなんでしょうか。宜しくお願いします。

→情報が少ないので難しいのですが、僕はこれを読んで、お互いのコミュニケーションが足りてないことから、いぬまたさんが企画に対して不安を覚えていることだけは分かりました。その気持ちをもう一度編集者さんに正直に伝えてみても良いかもしれません。不安がもたげている現状で書いた文章が、良い結果を出す可能性は、ノリノリで書いたときより低いはずですから。


> room1977さん

> お返事ありがとうございます! シャンプーとコンディショナー、Amazonで売ってました。ネーミングの素晴らしさ、ココロに響く。今回の投稿の冒頭大事論参考になりました。仕事で早速使います!

→まだ売ってたのか! リーブさんすげえ!


> kt012さん

> はじめまして。私は末端ですがエンタメ系の広告宣伝をしています。書き方5に凄く共感しました。その作品(商品)が読む人に何を与えるのかまで明確であれば、制作も供給も色々掘り下げられるのになあと思っています。儲けることはすごく大事だけど、買い手の益よりもそっち寄りの話で終始することが多いのでモヤモヤします。

→ありがとうございます! ビジョンはどんな仕事にも大事ですよね!


> aza/あざさん

> 初めまして。コラム、いつも読ませていただいています。特に今回はとても参考になりました。と言うのも、以前編集さんとお会いする交流会が在って、ちゃんとしたものではないのですが“こう言う作品を書いています”的な企画書擬きを作ったことが在ったのです。急拵えでテーマとコンセプトと粗筋のものだったのですが、やっぱりもっとしっかり作れば良かったと後悔したので。今度また機会が在ればこのコラムを参考に、もっと詳細でしっかりしたものを作りたいと思います。長文失礼致しました。

→頑張ってください! 成功を祈ってます!!



■『ストレートニュース』

すみません! これを読んでいただいている皆様にご相談です。ブログ書き続けていると絶対にネタが枯渇するので、心優しい閲覧者の皆様、質問とかいろいろ送ってください。それに答える形で記事を書いていきたいと思ってまして……!! 罵倒・糾弾・誹謗中傷も大歓迎です!! ヘイトを浴びるとなんか気持ちいいよね。よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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三木一馬

エージェント会社ストレートエッジのマガジン

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コメント12件

初めまして、覚えておられるか分かりませんが、以前Twitterの方で禁書3期について質問させていただいた者です。

 お聞きしたいことがあります。

 自分は第23回の電撃大賞様に(今の僕の全てを盛り込んだ渾身の作品を)初めて応募をさせていただいたのですが、実は目標が「とにかく一次突破! そして何より最終選考で待っている三木さんに読んでもらいたい!」でした。なので三木さんがこの前編集長を辞め、会社を立ち上げられたことを知った時は、すごい! と応援したく思った反面、うっそー!!?? と膝から倒れ込みもしました(笑)。だからと言ってもう応募しない、というわけでは全然ないのですが、教えてもらえるのであれば聞いておきたいな……ということで質問させていただきます。

 これからも電撃文庫に携わっていくというのは存じておりますが、今後電撃大賞に関わる、たとえば選考に協力するようなことはないのでしょうか?

 どこかで既にこのことについて話したことがあるのでしたら、本当にすいません。自分の検索不足です、、
前回はご返答ありがとうございました。今回はインタビュー等を読んで気になったことを質問させて頂きたいと思います。大勢の大御所作家を抱えられている三木さんですが、見たところ新人を発掘する気はバリバリにあるように感じられます。しかし、これは別の方の質問のときの話ですが「自分で新しいラノベレーベルを作るつもりはない」と三木さんは仰られていました。なのでお聞きしたいのですが、仮に三木さんの目にとまった新人が作家デビューをするとなったとき、その人の小説はいったいどのような形で世に送り出されるのでしょうか? やはり、従来通り、電撃ブランドからのデビューとなるのでしょうか? それとも「独立したからには他のレーベルとも仕事するぜ! その作家の適性に合ったレーベルからデビューさせるぜ!」だったり「皆が思いつかないような時代の最先端を行く画期的な方法で世に送り出すぜ!」という計画があったりするのでしょうか? ・・・・・・例によって「現段階ではお答えするのが難しい」感じの質問なのですが、業務に差し支えない範囲でお教え頂ければ幸いです。それでは、失礼しました。
回答、コラムに書かせていただきました、ありがとうございました!
はじめまして、大変興味深くコラムを読ませていただいています。
こちらのコラムを読ませていただいて、海外でのアニメイベントについて初めて知る機会となりました。
その中でVIPファンがスタッフと長時間の交流をできる。というのはとても興味深く魅力的に感じます、裏山けしからんです!
同様のイベントを日本で行うことは無いのでしょうか(すでに各所で開催されていましたら無知なコメント失礼いたしました)
コラムを読ませていただいた限りですとスタッフの方、少なくとも編集者様には何かしら得る経験があったように感じました。
ともかく三木様の目指す編集者に繋がるか分かりませんが、スタッフとファンの長時間の交流というものにとても可能性を感じたのでコメント残させて頂きます。
今後ともご活躍期待しております。
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