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ストレートエッジコラム第十四回『生産性の高い仕事をする人と、ただ忙しいだけの人の違い6つ』

 2016年4月、KADOKAWAを退社、作家のエージェント会社『ストレートエッジ』を立ち上げた三木一馬と申します。最終職歴は電撃文庫編集部編集長です。主な担当作は、『とある魔術の禁書目録』、『ソードアート・オンライン』、『灼眼のシャナ』、『魔法科高校の劣等生』、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』などなどです。

■メディア露出のお知らせ

 その1:『日経ビジネス』さんにて、記事にしていただきました! 『(Yが)キーパーソンに聞く “空振り三振”した部下に贈る言葉』後編です。ちなみに、前編はこちら

 その2:『ダイヤモンド・オンライン』さんにて、『佐渡島庸平(コルク代表)×三木一馬(元電撃文庫編集長)対談』を記事にしていただきました!

第一回『3時間でマンガを1万冊売る方法

第二回『「才能のあるなし」はSNSに滲み出てくる

第三回『できる人のメールはテンションが高い

第四回『トップ編集者が教える「失敗から学べ」の本当の意味


■生産性の高い仕事をする人と、ただ忙しいだけの人の違い

※この記事は、東洋経済オンラインに掲載させていただいたものの再編集版です。

 以前は「良い企画書の書き方」について書かせていただきましたが、今回は、「生産性の高い人と、ただ忙しいだけの人の違い」というテーマです。

 長年、エンタメ業界に身を置いていますが、この業界は全般的に忙しく、現場で働く人のほぼ全員が、とても慌しく動き回っています。そんな彼らを見て気づいたことがあります。世の中には、「生産性の高い仕事をする人」と「ただ忙しそうに仕事をする人」の2種類が存在しています。では、いったいその違いは何なのか? それについてご紹介したいと思います。


1.「生産性の高い人」は、「ただ忙しい人」よりも数多く失敗している

 よく生産性の高い人を、「成功する仕事ばかりを運よく選べた人」と思いがちですが、実はそうではありません。生産性が高い人は、成功体験以上に数多くの失敗経験を持っています。たくさんの失敗体験に恐れをなすことなく、数を積み重ねていく中で、成功につながる「何か」を掴み出せるところに彼らの秘訣はあるのです。一方で、ただ忙しい人は、失敗を恐れるあまり、「失敗が少なく、成功や評価も小さい仕事」を無意識に優先しがちです。

 僕は現在まで、小説編集者として16年仕事をし、500冊を超える作品を担当してきました。その中には、おかげさまで大ヒットしたシリーズが何本もあるのですが、正直に告白すると、いわゆる「ヒット作を生み出す打率」は、2割にも満たないでしょう。売れた作品の陰には、売れなかった作品がその何倍、何十倍も存在するのです。しかし、売れない作品を作ることを恐れていては、成功すら望めません。何度も何度もバッターボックスに立ち続けた結果が、担当累計 6000万部という結果を生んだのだと信じています。

 成功とは、「失敗しないこと」ではありません。たとえ何十回失敗をしたとしても、1度でも「成功」を捻り出せたなら、それが成果として認められます。ずっと成功する仕事ばかりできるわけもないことを、生産性の高い人は知っています。だから、何度も何度もチャレンジをするのです。ただ忙しい人は、失敗を恐れるあまり、無難な仕事ばかりでスケジュールを埋め尽くします。そこには成功もなければ成長もないのです。


2.「生産性の高い人」は、1度決断したことをあえて忘れる!

 多忙な方は、1日に何件もの会議と打ち合わせを行います。そんなとき、ただ忙しい人は、直前の会議の議題をひきずってしまったり、打ち合わせの内容に拘泥してしまいがちです。「本当にあれでよかったのか」という不安や、「やっぱりああしておけばよかった」という後悔で、「今ここ」を全力で仕事するための気力や行動を自ら阻害してしまっているのです。

 一方、私の知る優秀な人の多くは、ひとつ前の会議や打ち合わせのことをその後、いっさい気にかけません。つねにその場の仕事にベストを尽くすことができるよう、自分のパフォーマンスをきちんとコントロールしています。もちろん、以前までの内容を忘れてしまっているわけではなく、目の前の仕事に集中するための「切り替え」がうまいのです。

 とはいえ、「それができたら苦労しない」という人も多いでしょう。僕の周りで見る生産性の高い人は、自分なりの「精神の切り替えスイッチ」を必ず持っています。

 熱々のコーヒーを一気に飲み干したり、自分の頬をパン!と勢いよく叩いたり、同僚社員が談笑する中に入り話題を率先して提供したり……。些細なことであり、ただのジンクスかもしれませんが、この「切り替えスイッチ」を自分の中で確立しているか否かで、生産性の高さに明確な違いが出ていると感じています。


3.「生産性の高い人」は、多少無茶な目標を立てている

 大量のタスクを抱えたとき、ただ忙しい人は「無理しない程度に、できる範囲で」というスケジュール感覚で仕事に取りかかる傾向にあります。もちろん、「徹夜してでも仕事を終わらせる」ことが必ずしもよいことではないように、毎日のパフォーマンスを下げないよう継続的に調整を図ることは大事ではあるのですが、 すべてがそればかりではほかのライバルより一歩先を行く、というのは難しいでしょう。

 生産性の高い人は、ここぞというときに必ず「少し無理かもしれない」というスケジュール感覚・仕事量を自分に課しています。勝負のときに「できないかもしれない」という状況下で、とにかく精いっぱい頑張ってみる……。すると、最初は苦しくとも、その行為を続けることによって、自分の仕事のスピードがどんどん上がっていくことを自覚できます。そして遠からぬうち、自分が思っていた以上の仕事をこなしていたことにふと気づく瞬間を何度も体験しているのです。

 僕が上司から受け取った最も価値ある言葉は、「立場が人を育てる」でした。今、現在の役職よりも少し高いステージの業務を任され、そしてそれをやりきったとき、人は最も成長するというのです。「生産性の高い人」は、それと同じことを自らに課し、つねに仕事の質を上げようと試みているのです。


4.「生産性の高い人」は、時間を信用していない

 忙しいだけの人と生産性の高い人、二者とも「時間が足りない」ことは共通していますが、そこには大きな違いがあります。その人が、「つねに締め切りに追われて焦っている」のか、「つねに仕事を前倒しして終わらせようと急いでいる」のかという差です。

 たとえば、締め切りが随分先に設定された原稿の執筆依頼を与えられたとき、僕は、その仕事を寝かしてのんびりするようなことはしません。それは、 「残り時間」という猶予を信用していないからです。端的に言うと、だらだらと仕事をしないのです。与えられた締め切りが先だとしても、他者に与えられた制限時間で区切るのではなく、自分の仕事のタイミングで締め切りを決めています。

 つまり、「この2時間集中してこの原稿を書く」と自分が決めたら、一気に仕事をやりきってしまいます。終わらなかった場合も、できる限り短い延長時間で“必ず終わらせる”のです。仮にそうしたとして、では他者が決めた長い締め切りでの期間で書いた原稿と、自分が設定した2時間という短い締め切りでの 期間で書いた原稿、果たしてクオリティはどちらが上でしょうか? 僕の場合は、明らかに後者です。

 2時間という制限時間の中でMAXを目指し集中した原稿のほうが、「締め切りが先だから、それまでなら時間をかけてもいいか」と油断しながら書いた原稿よりも質は高いのです。

 これについては、僕だけではなく自分が担当する大ヒット作家も同様の考え方を持っている方が多くいました。ですから、生産性を高めるためにも、僕は「時間の猶予」を信用していません。


5.「生産性の高い人」は、メールの定型文を辞書登録している

 パソコンの文字入力ソフト(ジャストシステム社の「ATOK」やマイクロソフト社の「IME」など)では、辞書登録機能があり、特定の文言を任意の文字列で登録することができます。生産性の高い人は、とにかく時間効率を重視します。たとえば、「お」とタイプすると「お世話になっております。株式会社○○の××と申します」と出ます。「こ」とタイプすると変換候補に「これについては問題ありません。このまま進めてください。よろしくお願いいたします」と表示されます。

 非常に些細なことですが、塵も積もれば山となります。これらの機能でメール1本につき3秒稼げるとすると、年間5000通メールをやりとりすると したら、合計で15000秒……つまり年間250分も時間を稼げるのです。生産性の高い人は、この4時間を無駄にしません。


6.「生産性の高い人」は、成功を利用する

 どんなスポーツも、「過去の結果」を見て戦術や戦略を立てていきます。データで判断するのはビジネスでも当たり前のこと。生産性の高い人は、このデータも利用します。

 会社という組織では、成功者とそうでない人の発言力は明確に異なります。たとえば、一度仕事で成功をした人は、その過去の成績をうまく活用し、次の仕事に繋げます。そこに「生産性の高さ」があります。反面、「ただ忙しい人」は、そこに気づけずに同じ手順を踏んでしまい、時間をロスします。

 実は僕も、過去の成功した成果をポートフォリオ化し、ほかの会社へメディアミックスの企画書を持ち込むときの有効なカードとして利用していました。ビジネスとして仕事が成就するかどうかの瀬戸際では、気持ちや情熱、気合いや根性といった精神論は「あって当然」だと僕は思っています。誰だって必死に頑張っているわけですから、精神論にすがるのは自分たちだけではないでしょう。

 一方で「過去の実績」というものは、誰でも使える精神論とは異なり、誰にも真似できない自分だけのオリジナルな武器として勝負に持ち込むことができます。誇示しない程度に、自慢と感じさせない程度に、という前提が必要ですが、自分で成し遂げた結果なのですから、自分が有効利用してしかるべきなのです。

 生産性の高い人とただ忙しい人は、日常的には小さな違いしかないかもしれませんが、その結果には大きな差があります。あなたはどちらでしょうか?


■今回の質問ご回答

> h.トミオカさん

> SAOはおもしろいけど、海外でも人気ってのはうれしいですね♪

→僕もそう思います!


> いぬまたさん

> 回答ありがとうございました! アドバイス通り、編集部にフィードバックを求めてみます。本当に困っていたので助かりました!

→頑張ってください!!


> すずきさん

> SAOキャラクターの人気ベスト10のようなものを国別で知りたいです!(グッズの売れ行きなどから推定して)

→国別……なかなか難しいですが、ちょっと考えてみます!


> ドルさん@1分で読める小話職人さん

> 今年はVR元年などと言われ、僕を含め二次元が現実化することにワクワクが止まりません。SAOは正にその話で、しかも今の僕らでさえ、それは叶わないのではないかと思うほどの好奇心を秘めた作品でした。どんな時代も「そんな馬鹿な、けど欲しい」みたいな世界観に惹きつけられるんだろうなあ、とSAOを読んでいて思ったものです。いや、すいません。早朝のぼうっとした頭で思うがままに感想を書かせていただきました。今回もエッセイ面白かったです。ありがとうございました^ ^

→感想ありがとうございます! VR、僕も勉強中です。面白いことができそうで、ワクワクしますよね。


> aza/あざさん

> 返信にて、応援ありがとうございます!がんばります╭( ・ㅂ・)و ̑̑ グッ

→一足先に、この業界で待ってるぜ!


> ケイトさん

> 質問させて頂きます。小説家志望が編集者の仕事をする(アルバイトなどでも)ことに意味はあると思いますか?小説家と編集者というのは別の職業であるのは理解しておりますが、編集者の方から見た意見を聞きたいです。よろしくお願いします。

→個人的には、意味は無いと思います。が、元編集者の方が作家やクリエイターになるケースもかなりありますので(有名なところでは、樹林伸先生や中島かずき先生など)、まったくゼロではないのでしょうね。


> みらいさん

> 返信ありがとうございます。もうちょっとの段階まで来てたんですね。わくわくします。

→発表を待っていて下さい~!


> くすぐるの誰やさん

> はじめまして。SAOにはアニメ化以降ずっとハマっています。三木さんの話を読んで、改めて素晴らしい作品に出会えたんだなと思いました。勝手ではありますが、海外の方にも受け入れられているのは自分のことのように嬉しいです。プログレッシブの発売も毎年楽しみで待ち遠しくて仕方ありません。VRの世界はどんどん進んでいますし、SAOの世界が早く来ないか楽しみです。エッセイ、とても面白かったです。本当にありがとうございました。

→今年の夏発売予定の、SAOの最新第18巻も超面白いので期待していてください!!!


> 雷@螺旋卍斬花さん

> はじめまして、いつも読ませて頂いてます。Twitterでの宣伝の話題についての質問です。自分はアニメ不毛の地サイレントヒル(笑)出身で、とあるシリーズには2013年にBS11で超電磁砲Sが放送されるまで触れることすらありませんでした。今では禁書の文庫、超電磁砲と一方通行の漫画を全部買うほどになりましたが、だいぶ遅い時期に入ったファンだと思います。他のアニメもBSでの放送が進み、それに伴い毎月たくさんのラノベや漫画を買うようになりました。周りにも所謂オタク化、或いは(自称)オタクじゃないけどラノベを読む、という人が増え始めてた時期です。(自分はまだ目覚めてませんでしたが特にソードアート・オンライン1期の放送後はすごかったことを覚えています)BSによるアニメの実質全国放送化はある意味で宣伝の拡大になっているかと思いますが、実際に数的変化をもたらしたのでしょうか? またBS放送をする前と今とでは宣伝戦略に何か変化はあったのでしょうか?

→これは言い質問ですね。BS放送(アニメですとBS11が多い)は、やはり地方にいらっしゃる、(少数かもしれないけど)ファンの方々をカバー出来たのはとても大きいです。というのも、放送局を一局増やすだけでもお金がかかるので、なかなか全国をU局でカバーするのは難しいのです。加え、コスト的な意味でも、例えば徳島県の人口は80万人弱ですが(自分の故郷なのであえてサンプルとして……)、これは練馬区よりちょっと多いくらいの人口です。だとすると、同じU局だとしても23区をカバーするTOKYO-MXのほうが、四国放送を取るよりも、費用対効果的に有利です。そういう意味では、東名阪はカバーして、あとは予算次第……というケースも出てきてしまうのが現状です。ですが、BS放送でしたら、デジタル放送になり全国どこでも観れるようになりましたから、これは確実に地方のファンもフォロー出来ているはずですし、その実感はあります。たとえば、「自分の地域でも放送して欲しい!」というような要望も無くなりました。


> 目高足正さん

> 初めまして、覚えておられるか分かりませんが、以前Twitterの方で禁書3期について質問させていただいた者です。お聞きしたいことがあります。自分は第23回の電撃大賞様に(今の僕の全てを盛り込んだ渾身の作品を)初めて応募をさせていただいたのですが、実は目標が「とにかく一次突破! そして何より最終選考で待っている三木さんに読んでもらいたい!」でした。なので三木さんがこの前編集長を辞め、会社を立ち上げられたことを知った時は、すごい! と応援したく思った反面、うっそー!!?? と膝から倒れ込みもしました(笑)。だからと言ってもう応募しない、というわけでは全然ないのですが、教えてもらえるのであれば聞いておきたいな……ということで質問させていただきます。これからも電撃文庫に携わっていくというのは存じておりますが、今後電撃大賞に関わる、たとえば選考に協力するようなことはないのでしょうか? どこかで既にこのことについて話したことがあるのでしたら、本当にすいません。自分の検索不足です、、

→キミのせいでめっちゃリツイート&ニュースになったじゃないか(笑)!! それはさておき、まだ公式としては発表(もしないとおもいますが。汗)電撃小説大賞はかかわらせていただく予定です。なので、今回も、そして今回駄目でもこれからも電撃小説大賞に是非応募をよろしくお願いいたします!!


> 埴 裕史さん

> 前回はご返答ありがとうございました。今回はインタビュー等を読んで気になったことを質問させて頂きたいと思います。大勢の大御所作家を抱えられている三木さんですが、見たところ新人を発掘する気はバリバリにあるように感じられます。しかし、これは別の方の質問のときの話ですが「自分で新しいラノベレーベルを作るつもりはない」と三木さんは仰られていました。なのでお聞きしたいのですが、仮に三木さんの目にとまった新人が作家デビューをするとなったとき、その人の小説はいったいどのような形で世に送り出されるのでしょうか? やはり、従来通り、電撃ブランドからのデビューとなるのでしょうか? それとも「独立したからには他のレーベルとも仕事するぜ! その作家の適性に合ったレーベルからデビューさせるぜ!」だったり「皆が思いつかないような時代の最先端を行く画期的な方法で世に送り出すぜ!」という計画があったりするのでしょうか? ・・・・・・例によって「現段階ではお答えするのが難しい」感じの質問なのですが、業務に差し支えない範囲でお教え頂ければ幸いです。それでは、失礼しました。

→これも良い質問ですね。はい、仰るように新人さんを発掘したい!と常々思っております。ただ、現状、大変お恥ずかしながら、キャパシティ的にどうしてもそこまで手が回っておらず……いまはそういう意気込みがある、というだけで具体的行動に出られていない、というのが正直なところです。これからは、仕事に慣れていけば、良い意味で「力の抜きどころ」が分かってきて自由に使える時間がどんどん出来てくると思いますので、それからチャレンジするつもりです。新人デビューの場は、もちろん電撃文庫やMW文庫かな、と思っています。なぜなら、もっとも売れている、一番強力なレーベルであり、自分もプロモーションのやり方を熟知している、「地の利」がある場所だからです。


■『ストレートニュース』

すみません! これを読んでいただいている皆様にご相談です。ブログ書き続けていると絶対にネタが枯渇するので、心優しい閲覧者の皆様、質問とかいろいろ送ってください。それに答える形で記事を書いていきたいと思ってまして……!! 罵倒・糾弾・誹謗中傷も大歓迎です!! ヘイトを浴びるとなんか気持ちいいよね。よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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