変だなこれ、っていうものを受け入れた時の快感 羊のクロニクルズ インタビュー
多分、恋
八木:まずは、結成に至るまでの経緯を教えてください。
田村:静岡・浜松市の連尺町にある、たけし文化センターという施設で結成しました。僕は障がい者で、その施設の利用者。一方の曽布川さんは健常者で、施設のスタッフです。
曽布川:あまり健常じゃないですけど(笑)
田村:そこで曽布川さんにギターを教えてもらっていました。そこでは目に障がいのある友人もドラムをやりに来ていて、三人でバンドをやることになったんです。
曽布川:1年半前から僕がたけし文化センターに勤め始めて、すぐに田村さんが「何かやりましょう」と言ってくれて。僕はその言葉がずっと心に残っていて、1ヶ月後くらいには三人でバンドを組むことになったんです。
でも、ドラムの方は事情があって施設に来れなくなっちゃって。それなら二人でやろうかと。基本的なメンバーは二人なんですけど、あとは適当に、その時にその場にいる人と一緒にやればいいんじゃないっていう感じのスタイルになりました。
八木:初ライブはいつですか。
曽布川:初ライブは2020年11月だったと思います。
田村:たけし文化センターの中でイベントがあって、そこにいきなり出ました。ライブハウスではまだやったことがなくて、今のところ、たけし文化センターか街中です。ストリートでやっても、なかなか聞いてもらえないんですけど、歌というか表現が伝わっていると感じられる時もあるし、「それでもなんか出て行こう」「ストリートに行くべきだ」っていうことで、一生懸命、いろいろなところに出て行って演っています。
八木:ちなみに田村さんは最初どんな気持ちで曽布川さんを誘ったんですか。
田村:多分、恋です(笑)初めて見た時に恋してしまって。それから付きまとって、ストーカー状態になって(笑)
曽布川:僕がまだ勤め始める前、たけし文化センターで毎月開催している「玄関ライブ」というイベントの見学をしていた僕に、田村さんが声をかけてくれたんですよ。僕がもともとライブハウスで働いていたり、音楽をやっていた経歴を田村さんは知っていたみたいで。
曽布川:勤め始めてから、田村さんの弾き語りを聴いたんですよ。それが、なんて言ったらいいんですかね、普通の音楽理論とか、普通の弾き語りの枠組みでは語り尽くせないような音楽だったんですよ。すごく特殊なんだけど、田村さんのソウルみたいなものがすごく伝わってくる音楽で、これはいいなと思って。
田村:あー、じゃあ、恋ですか(笑)
曽布川:恋っていうのがどういうものなのかはちょっとわからないけど、でも田村さんの音楽がもっといろんな人に聞いてもらえるようになったら面白いのにな、と思ったのはすごくありますね。
毛根促進アクター!?
田村:羊のクロニクルズは、以前はもう少し「歌」に近い音楽をやっていて、その曲もまだ持ち歌にあるんですけど、今はそこから変わってきてます。
曽布川:もともと普通のバンドをやろうとしていたんですよ。田村さんの歌をいわゆる普通に、音楽理論的なものに当てはめてわかりやすいものにしようとしたんです。でも、そうして作ったときに、田村さんの持っている、特異な音楽性みたいなものが全然感じられなくなってしまって、何にも面白くなくて。「こんなことやっちゃダメだ」と思ったんです。なんかもう田村さんには本当に自由にやってもらおうって。
田村:その時、曽布川さんが、羊のクロニクルズでの僕の役割を「アクター」と言ってくれて。それをきっかけに僕は自分のことを「毛根促進アクター」だと思うようになったんです。
八木:毛根促進アクター!?
田村:以前、後頭部を怪我した時に、二箇所ぐらい傷跡ができたんです。その後10年ぐらい経って、その怪我がハゲになっていると気付いたんです。10年気付かなかったのもすごいんですけど(笑) でもその後、ハゲが急に治って。それには血や血液動脈が関係していて、「毛根」や「血行」って面白いなと思うようになって。そういうものを表現できたら良いなと思っているんです。
曽布川:毛って面白いんですよ。人間の精神状態や生活習慣が毛と関係している。僕は音楽って、もともと血行から来ていると思っていて。リズムは心臓の心拍から来ていると思っているので、「毛根」と「血行」って音楽をやる上で根源的なテーマだなぁと。
田村:今、時代のブームは血液よりもリンパの方らしいんですけど、実は血液が大事だと思うんです。
曽布川:もともと田村さんはポエマーだと思うんですよ。その田村さんが音楽をやっていく中で、自分はミュージシャンなのか、ポエマーなのかと揺れて、どっちつかずな時期があったんです。では何がしっくりくるんだろうと思って、田村さんに「アクターはどうですか」と言ったときに、田村さんの中で何かが繋がったらしくて。
田村:でも僕は、ひょっとしたら曽布川さんがアクターなんじゃないかと思っています。僕は結構同じ音で歌っているけど、曽布川さんはそれに合わせてギターを変えているような気もするので。
ゆで卵、ゆで忘れた
八木:動画サイトに上がっている映像を拝見しましたが、同じ曲でもギターの演奏が全く違いますよね。即興で演奏されているのでしょうか。
曽布川:即興と言えば即興なんですけど、いわゆる即興演奏ではないと思います。敢えてリズムを規定したり、フレーズを繰り返したりして、完全なフリー演奏ではないので。それに、田村さんの歌には歌詞があり、そこに即興性はないですし。
田村さんが気付いているかはわからないですけど、田村さんと一緒に演奏する前に僕、軽くワンフレーズを弾いて、そこでルールを決めるんです。なので、そのワンフレーズは即興と言えるのかもしれません。
田村:そうなんだ。それは知らなかった。
曽布川:演奏中は、僕のやっていることと、田村さんのやっていることが、接近する時と離れる時があるんです。田村さんの方から「今、離れて行ったな」と感じる時もあれば、逆に「すごく近づいて来ているな」と感じる時もある。田村さんが近づいている時には僕の方から離れることもあります。
でも、お客さんから評判がいいのは、事前の打ち合わせも何もしていないのに、二人の演奏が沿っていたときなんですよ。でも、その“好評”をやろうとは思えなくて。好評じゃなくてもいいじゃん、誰も褒めてくれなくてもいいじゃん、みたいな感じがあるんです。
田村:曽布川さんはへそ曲がりなんですよ。僕は褒められたいです。僕はいくらでも女の子が寄ってきてほしいです。
曽布川:(笑)そうなったらいいですよね。
八木:田村さんの言葉も面白いですよね。「ゆで卵、ゆで忘れた」とか、哲学的でさえあります(笑)。ゆで卵をゆで忘れたら、それはゆで卵ではないよな…みたいな。無茶苦茶深いですよね。
田村:「ゆで卵、ゆで忘れた」って急に思いついて、面白いから使っちゃおうと、ただそれだけだったんですけど。自分でも面白いフレーズだと思いました。
曽布川:素敵な歌詞が多いんですよね。僕、田村さんの音楽を聴いたとき、音楽性もいいなと思ったし、それに乗っている歌詞もすごくいいなって思ったんですよ。
変だなこれ、っていうものを受け入れた時の快感
八木:先ほど、二人が沿っているときの演奏は評判がいいけど、曽布川さんはそれを狙って演奏しようとは思えない、という話がありました。では、お客さんが、自分たちの音楽をどう聴いてくれると嬉しいですか。
曽布川:お客さんがノってくれるのは素直に嬉しいです。
田村:僕もノってくれるのは嬉しいです。
曽布川:ノってくれないですけどね、なかなか。
田村:コロナ禍っていうのもあるし。
曽布川:ノリにくい音楽でもありますしね。
田村:リズム隊もいないし。
曽布川:例えば、二十歳くらいの若者が好きなバンドを聞かれて、「俺、羊のクロニクルズだよ」って言ったら、すげぇな!最高に楽しいな!とは思ったりするんです。例えば、40代、50代の人が我々の音楽を良いと言ってくれる場合、そこには理念的な要素が含まれていると思うんです。でも、二十歳くらいの子が「羊のクロニクルズ、俺、最高に好きなんだよね」と、ただ自分の感覚だけで言ってくれたらいいなと。そんな世の中がやってきたらいいなって思ったりします。
八木:例えば、このミュージシャンを好きなら俺たちの音楽を気に入ると思うぜ、っていうミュージシャンっていますか。
田村:ザ・クロマニヨンズの熱烈なファンなので、彼らみたいな音楽とか表現ができたらなって思っています。どうですか、曽布川さんは。
曽布川:僕はいわゆる音楽マニアだったせいか、変なら変なほど良いってぐらいに変な音楽が好きで。例えば、ヘイゼル・アドキンスという、ロカビリーの走りみたいに言われるミュージシャンがいるんです。聴くと「もう何これ、ロカビリーかこれ」みたいな。これでよくレコードを発売したな、というような変な音楽で。
田村:シャッグスみたいな感じですか。
曽布川:シャッグスとはまたちょっと違うんですが「変だなこれ」っていうものを受け入れた時の快感ってすごいんですよ。田村さんの弾き語りにも、ヘイゼル・アドキンスを聴くときに似たものを感じて。
ストレンジなものだったのが、自分にとってスタンダードなものとして受け入れることができた時の気持ちよさってすごいですよね。そういう表現が好きな人には、我々の音楽を受け入れてもらえるんじゃないかなと思います。
一応ありがたいことに、我々のインスタアカウントは500人位のフォロワーがいるんですが、大半が海外の人で。多分ドイツの人が多いと思います。ドイツではメジャーなポップミュージックですら結構前衛的だったりするので、僕らのような音楽を受け入れてもらいやすい土壌があるのかなって思ったりしますね。
八木:ドイツといえば、僕、羊のクロニクルズを聴いて、Phewさんの1stアルバム『Phew』を思い出したんです。あのアルバムもドイツで制作されてますよね。そして、Phewさんやシャッグスの音楽にも共通することかと思いますが、最初に羊のクロニクルズを聴いたときに、すんなりとは受け止め難い異物感を感じたんです。でも、繰り返して聴いているうちに、何だかすごくポップな音楽に感じられてきて。
曽布川:ありがとうございます。そんな風に言っていただいて。
田村:Phewに例えてもらったのは初めてです。これも恋ですかね。
壊しても壊しきれない町
八木:三日間、毎日公演がありますが、それぞれ違うパフォーマンスになりますか。
曽布川:そうですね。たけし文化センターの他のメンバーやスタッフも何人か連れて行きたいと思っていて。毎日同じメンバーでもない感じにもなるので、その度にちょっと違った感じになるんじゃないかなと思います。
八木:他のメンバーの方はどんなパフォーマンスをされるんですか。
曽布川:パフォーマンス意識がどれくらいあるのかって、なかなかちょっと測りがたい所があるんですけど、一緒に音を出すっていう感じですね。
八木:今回、児童公園のステージですが、遊具を使用することもあるんでしょうか。
曽布川:全く考えてなかったですが、使える感じだったら使うかもしれないですね。
田村:この間、夜中に公園に行ったら、高校生ぐらいの男子がブランコしながら思い切り大きな声を出して歌っていて。僕もブランコで歌いたくなったんですが、その人が上手かったので気後れしちゃって歌えなくて。
曽布川:状況によって可能だったらブランコに乗って歌ってもいいかもしれないですね。
あ、なんか今日思いついて、田村さんに話したかったんだけど。投げ銭用に金ダライみたいなのを持って行って、投げ銭の音をパーカッションとしてお客さんに鳴らしてもらうのはどうかな。
八木:金ダライにあたる音をリズムにするっていうことですか(笑)
曽布川:ちょっとやらしいけど(笑)
田村:いや、面白いよ(笑) そんなのよく思いついたね。
曽布川:500円玉とか、いい音鳴るんじゃないかって思って。
八木:1円、1円、500円みたいな。
曽布川:三拍子とかで(笑) そういうのもいいかもしれないですね。観客の方も参加できるような感じになって。実際、我々としても、今までで一番お客さんがいるであろう場所だから楽しみです。これまで最大15人くらいだったので。
田村:僕もものすごい楽しみで、楽しみすぎて危ないです。
曽布川:それが一番心配ですね。
田村:新幹線より速く走っちゃうんじゃないかって。
曽布川:それは意味が分からないですね(笑)
ハボ:田村さんが「ストリートに行くべきだ」って、言っていましたね。その思いって何がきっかけだったんでしょうか。
田村:毎日暮らしていると、当たり前じゃないことも起きることがありますが、たいていは当たり前のことの方が多いと思うんです。みんながそうかはわからないですが、ストリートに出て歌うと、当たり前じゃないことが起こる可能性がすごく広がると思うんです。僕は、明日は今日とは違う日にしたいし、その次の日はもっと別の日にしたい。自分も新しくなりたいし、起こる出来事も新しくしたいと思うので。
事務局:これまでいろんな場所で演奏されてきて、お客さんのリアクションがいい演奏に繋がるようなことってありましたか?
曽布川:たけし文化センターのメンバーがいる場所で演奏していると、パーカッションでずっと音を出してる男の子がいたり、シャウトする人もいたりして。演奏しながら「今のシャウト、めっちゃよかったな」とかそういう瞬間はあります。
田村:ストリートで演奏しているとき、気にも留めずに通り過ぎる人を見て、届いてないんだなと思うけど、届いてないなりに表現ができているはずだ、っていう自分なりの自信のようなものは持っています。
曽布川:少なくとも耳には届いてるはずですもんね。
やまだ:最後に質問させてください。今日のインタビューは、お二人の掛け合いがすごく面白かったのですが、お互いのことを一言で表現するとしたらなんですか。
田村・曽布川:一言…。
田村:曽布川さんは、ウルトラマンか、怪獣かどっちかかな。…最初、怪獣だと思ったんですけど、怒るかもしれないからウルトラマンも候補に入れてみました(笑)
曽布川:難しいですね。田村さんは、関係の中に生きている田村さんという場、と言うか。いろんな線で結んだ一つの場みたいなものが、田村さん。
田村:曽布川さんは怪獣ってことでいいですか。
曽布川:じゃあ、田村さんは怪獣が壊す「町」で。
田村:俺が「町」?
曽布川:壊しても壊しきれない町。
わたげ隊:ありがとうございました。
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