最大酸素摂取量の向上という視点からウエイトトレーニングの必要性を考える!

長距離走競技パフォーマンスを決定する要因について、古くから最大酸素摂取量に代表される最大能力に着目したものや乳酸性作業閾値(LT)に代表される最大下能力に着目したものを中心に数多くの検討が行われていますが、長距離走競技においてはそのエネルギー供給が主に有気的に行なわれるために,最大酸素摂取量が競技成績を決定する重要な要因の一つであることが報告されています(SjodinとSvedenhag,1985)。

先行研究では、一流ランナーの最大酸素摂取量は70~85 ml/kg/minにも達することが報告されており(Boileauら,1982)、最大酸素摂取量は長距離走競技パフォーマンスと密接な関係にあるといえますが、最大酸素摂取量を測定するために用いられる漸増負荷走運動テストにおいて疲労困憊に至った時点の走速度、すなわち最高走速度が最大酸素摂取量よりも長距離走競技パフォーマンスと密接な関係にあることも報告されています(Noakesら,1990)。

また、最高走速度などを用いた高強度ランニングにおいて疲労困憊に至るまでの時間(Time to exhaustion)が長距離走競技パフォーマンスを評価する方法として用いられることもあります(Billatら,1994)。

これらを踏まえて考えれば、長距離走競技パフォーマンスを向上させるためには、まず競技者自身の最大(有気的)能力を高める必要性があるといえますが、最近では最大酸素摂取量に代表される最大能力の向上よりも乳酸作業性閾値に代表される最大下能力の向上やランニング効率の改善・向上に注目が集まり、特に市民ランナーは最大能力の代表的指標である最大酸素摂取量の向上を目的としたトレーニングが圧倒的に不足しているといえます。

もちろん、市民ランナーにおいても乳酸性作業閾値の向上、ランニング効率の向上を目指すことは非常に重要であるといえますが、まずは何より最大酸素摂取量の向上を目的としたトレーニングを行う必要があるといっても過言ではありません。

なぜなら、持久系競技は(基本的に)最大下強度で行われるため最大酸素摂取量が高ければ、それだけ余裕を持って競技を行える(競技中により速いランニングスピードを維持出来る)、すなわち競技成績に直結し易いといえるからです。

図:最大酸素摂取量を向上させることで相対的に最大下能力も向上する例。

従って、まずは何より最大酸素摂取量を向上させた上で、それを更に活かすべく乳酸性作業閾値の向上、ランニング効率の向上を目指すべきだといえるでしょう。

●最大酸素摂取量の向上を目的としたトレーニングで骨格筋のミトコンドリア容量を増やす

ランナーが最大酸素摂取量の向上を目的としたトレーニングを重視すべき理由の一つとして、TypeⅠ線維(遅筋線維)とTypeⅡa線維(速筋線維のサブタイプの1つ)のミトコンドリア容量を増やすこと可能であることが挙げられます。

ミトコンドリアは、いわゆる有酸素性エネルギー代謝におけるエネルギー産生工場としてしられていることから、骨格筋のミトコンドリア容量が増えれば持久力が向上し持久系競技力の向上に結び付くことは容易に理解出来るかと思います。

骨格筋のミトコンドリア容量を増やすためには比較的強度の低い有酸素運動が効果的であると考える人も多いのではないかと推察されますが、実は骨格筋のミトコンドリア容量を増やすために最も効率的な運動強度は100%VO2max程度となり、高強度持久的運動が最も効果的であることが明らかにされています。

最大酸素摂取量は「心拍出量(1回拍出量x心拍数)x動静脈酸素較差」という式で表されますが、動静脈酸素格差は骨格筋等の組織が酸素を取り込んだ量であり組織が酸素を取り込む上でミトコンドリアは重要な役割を担っていることから最大酸素摂取量が出現するような高強度持久的運動時には骨格筋におけるミトコンドリアの働きが強く要求されるため骨格筋のミトコンドリア容量を増やす上で高強度持久的運動が最も効果的であるといえる訳です。

(最大酸素摂取量に関しては以下の記事も参照下さい。)

そして、100%VO2max程度の運動強度で15分間程度の運動が最も効率的にミトコンドリア容量を増やすことが明らかにされていますが、100%VO2max程度の強度で15分間の持続的な運動を実施することは不可能であることから、インターバルトレーニング、特にVO2maxインターバルトレーニング(100%VO2max程度の高強度運動+アクティブレスト or パッシブレスト)がミトコンドリア容量を増やす上で有効なトレーニング方法になるといえます。

但し、骨格筋のミトコンドリア容量を増やすためのトレーニング方法としてVO2maxインターバルトレーニングは非常に効果的ではありますが身体に対する負担も大きくなることから、その実施に際しては充分な回復(期間)を設けるべくトレーニング計画を立てる必要があるとともに、実施前には一定期間の準備期間を設けることが必要かつ重要になります。

●VO2maxインターバルトレーニングを実施する前の準備期間でウエイトトレーニングを!

VO2maxインターバルトレーニングを実施する前の準備期間における持久系トレーニングはEasyトレーニング、L.S.Dカーディオトレーニング、閾値ペーストレーニング、等の低強度~中強度のトレーニングを中心に構成するといえますが、特に陸上超中距離競技者はこれらのトレーニングに併せて殿筋群及びハムストリングスの筋力と柔軟性を向上させるウエイトトレーニングを積極的に実施することを当方は推奨します。

なぜなら、ランニング運動によるVO2maxインターバルトレーニングのような高強度インターバルトレーニングは接地時の衝撃が大きくなり筋-腱組織、関節組織への負担が非常に大きくなることから怪我(慢性障害・・・下記補足参照)のリスクが非常に高いトレーニングであるといえるので、このようなトレーニングを実施する前に十分なウエイトトレーニングを実施し筋力、柔軟性を向上させ各組織の怪我を予防することが重要になるといえるからです。

補足:
陸上中長距離競技選手の怪我は急性的な傷害よりもオーバーユースによる慢性的な障害が殆どであるといっても過言ではありません。そして、陸上中長距離競技者が実施する(ランニング運動による)1回のVO2maxインターバルトレーニングが急性的な傷害を引き起こす可能性は低いかもしれません。(従って、ここでの怪我とは慢性的な障害を指しています。)

ランニング運動によるVO2maxインターバルトレーニングは、設定されるランニングスピードが速くなり接地時の衝撃も大きくなることから、VO2maxインターバルトレーニングを集中的に実施する期間には(特に、その期間の後半には)慢性的な障害としてのランニング障害が発生し易い、特に接地時の衝撃に関連するランニング障害である疲労骨折、足底筋膜炎、等が発生し易い状態であるといえます。

ウエイトトレーニングによる筋力と柔軟性の向上が接地時の衝撃に関連するランニング障害の予防にどの程度貢献するのか、については十分に明らかにされてはいませんが、ランニングに伴う疲労がランニング動作を変化させ衝撃耐性を低下させることも指摘されており、ウエイトトレーニングによる筋力と柔軟性の向上は、筋-腱組織等の疲労耐性を高めVO2maxインターバルトレーニングのような高強度ランニングを集中的に実施する期間を通じて、疲労によるランニング動作の変化を最小限に食い止めると共に衝撃耐性の低下を最小限に食い止め上述したランニング障害の予防に貢献出来るものと考えられます。

●持久系競技者にとってのウエイトトレーニングの目的は?

このような考え方に基づくと改めて持久系競技者にとってのウエイトトレーニングの本質的な目的がみえてきます。

近年、ウエイトトレーニングがランニング効率やぺダリング効率の改善、向上に有効であることが明らかにされ、ウエイトトレーニングに取り組む持久系競技者が増加傾向にあり、ウエイトトレーニングは持久系競技パフォーマンスを向上させる上で不可欠な要素であるという考え方が僅かながら浸透しつつあります。

最近の陸上中長距離競技の高速化や激しいチェンジオブペースに対応するためのスプリント力、加速力には下肢筋力が必要であると考えられることから今後、ウエイトトレーニングの重要性は揺るぎないものになると当方は確信しています。

その一方で、自身のトライアスリートとしての経験を踏まえ、そもそも持久系競技パフォーマンスを向上させるためのトレーニングとして持久系トレーニングに勝るものはないということも承知しています。

従って、その持久系トレーニングを十分に実施する、いい換えれば、無駄な怪我をすることなく計画的に持久系トレーニングを実施するために筋力と柔軟性を向上させるのが持久系競技者にとってのウエイトトレーニングの本質的な目的であるということ忘れてならないと考えると共に、多くの持久系競技者にご理解頂きたいと考えています。

すなわち、持久系競技者がウエイトトレーニングを実施する目的(現在、明確に科学的根拠が示されている目的として)は、大きく「1.傷害(障害)予防」と「2.動作効率の改善・向上」の2つであるといえる訳ですが、この2つの目的の重要度には「1.傷害(障害)予防≧2.動作効率の改善・向上」という関係が成り立ち、持久系競技者には、まずは何より傷害(障害)予防のためにウエイトトレーニングに取り組むという考え方を基盤にウエイトトレーニングに取り組むようにして頂きたいと思います。

参考文献:
Sjodin, B., and Svedenhag, J. Applied physiology of marathon running., (1985) Sports Med, 2, 83-99.
Boileau, R. A., Mayhew, J. L., Riner, W. F., and Lussier, L. Physiological characteristics of elite middle and long distance runners., (1982) Can J Appl Sport Sci, 7, 167-72.
Noakes, T. D., Myburgh, K. H., and Schall, R. Peak treadmill running velocity during the VO2 max test predicts running performance., (1990) J Sports Sci, 8, 35-45.
Billat, V., Renoux, J. C., Pinoteau, J., Petit, B., and Koralsztein, J. P. Reproducibility of running time to exhaustion at VO2 max in subelite runners., (1994) Med Sci Sports Exerc, 26, 254-7.

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野口克彦

マラソン/トライアスロン

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