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VO2maxインターバルトレーニングとウエイトトレーニング

持久系競技パフォーマンスを向上させるためのポイントの1つに、TypeⅠ線維(遅筋線維)とTypeⅡa線維(速筋線維のサブタイプの1つ)のミトコンドリア容量を増やすことが挙げられます。

ミトコンドリアは、いわゆる有酸素性エネルギー代謝におけるエネルギー産生工場としてしられていることから、骨格筋のミトコンドリア容量を増やすためには比較的強度の低い有酸素運動が効果的であると考える人も多いのではないかと推察されますが、実は骨格筋のミトコンドリア容量を増やすために最も効率的な運動強度は100%VO2max程度となり、高強度持久的運動が最も効果的であることが明らかにされています。

そして、100%VO2max程度の運動強度で15分間程度の運動が最も効率的にミトコンドリア容量を増やすことが明らかにされており、100%VO2max程度の強度で15分間の持続的な運動を実施することは不可能であることから、インターバルトレーニング、特にVO2maxインターバルトレーニング(100%VO2max程度の高強度運動+アクティブレスト or パッシブレスト)がミトコンドリア容量を増やす上で有効なトレーニング方法になるといえます。

但し、骨格筋のミトコンドリア容量を増やすためのトレーニング方法としてVO2maxインターバルトレーニングは非常に効果的ではありますが身体に対する負担も大きくなることから、その実施に際しては充分な回復(期間)を設けるべくトレーニング計画を立てる必要があるとともに、実施前には一定期間の準備期間を設けることが必要かつ重要になります。

●VO2maxインターバルトレーニングを実施する前の準備期間でウエイトトレーニングを!

VO2maxインターバルトレーニングを実施する前の準備期間における持久系トレーニングはEasyトレーニング、L.S.Dカーディオトレーニング、閾値ペーストレーニング、等の低強度~中強度のトレーニングを中心に構成するといえますが、特に陸上超中距離競技者はこれらのトレーニングに併せて殿筋群及びハムストリングスの筋力と柔軟性を向上させるウエイトトレーニングを積極的に実施することを当方は推奨します。

なぜなら、ランニング運動によるVO2maxインターバルトレーニングのような高強度インターバルトレーニングは接地時の衝撃が大きくなり筋-腱組織、関節組織への負担が非常に大きくなることから怪我(慢性障害・・・下記補足参照)のリスクが非常に高いトレーニングであるといえるので、このようなトレーニングを実施する前に十分なウエイトトレーニングを実施し筋力、柔軟性を向上させ各組織の怪我を予防することが重要になるといえるからです。

補足:
陸上中長距離競技選手の怪我は急性的な傷害よりもオーバーユースによる慢性的な障害が殆どであるといっても過言ではありません。

そして、陸上中長距離競技者が実施する(ランニング運動による)1回のVO2maxインターバルトレーニングが急性的な傷害を引き起こす可能性は低いかもしれません。(従って、ここでの怪我とは慢性的な障害を指しています。)

ランニング運動によるVO2maxインターバルトレーニングは、設定されるランニングスピードが速くなり接地時の衝撃も大きくなることから、VO2maxインターバルトレーニングを集中的に実施する期間には(特に、その期間の後半には)慢性的な障害としてのランニング障害が発生し易い、特に接地時の衝撃に関連するランニング障害である疲労骨折、足底筋膜炎、等が発生し易い状態であるといえます。

ウエイトトレーニングによる筋力と柔軟性の向上が接地時の衝撃に関連するランニング障害の予防に、どの程度貢献するのか、については十分に明らかにされてはいませんが、ランニングに伴う疲労がランニング動作を変化させ衝撃耐性を低下させることも指摘されており、ウエイトトレーニングによる筋力と柔軟性の向上は、筋-腱組織等の疲労耐性を高めVO2maxインターバルトレーニングのような高強度ランニングを集中的に実施する期間を通じて、疲労によるランニング動作の変化を最小限に食い止めると共に衝撃耐性の低下を最小限に食い止め上述したランニング障害の予防に貢献出来るものと考えられます。

●持久系競技者にとってのウエイトトレーニングの目的は?

そのような考え方に基づくと持久系競技者にとってのウエイトトレーニングの本質的な目的がみえてきます。

近年、ウエイトトレーニングがランニング効率やぺダリング効率の改善、向上に有効であることが明らかにされ、ウエイトトレーニングに取り組む持久系競技者が増加傾向にあり、ウエイトトレーニングは持久系競技パフォーマンスを向上させる上で不可欠な要素であるという考え方が僅かながら浸透しつつあります。

このような考え方が浸透するのはS&Cプロフェッショナルとしては嬉しい反面、多少の危惧を感じてしまうのも事実です。

最近の陸上中長距離競技の高速化や激しいチェンジオブペースに対応するためのスプリント力、加速力には下肢筋力が必要であると考えられることから今後、ウエイトトレーニングの重要性は揺るぎないものになると当方は確信しています。

その一方で、自身のトライアスリートとしての経験を踏まえ、そもそも持久系競技パフォーマンスを向上させるためのトレーニングとして持久系トレーニングに勝るものはないということも承知しています。

従って、その持久系トレーニングを十分に実施する、いい換えれば、無駄な怪我をすることなく計画的に持久系トレーニングを実施するために筋力と柔軟性を向上させるのが持久系競技者にとってのウエイトトレーニングの本質的な目的であるということ忘れてならないと考えると共に、多くの持久系競技者にご理解頂きたいと考えています。

すなわち、持久系競技者がウエイトトレーニングを実施する目的(現在、明確に科学的根拠が示されている目的として)は、大きく「1.傷害(障害)予防」と「2.動作効率の改善・向上」の2つであるといえる訳ですが、この2つの目的の重要度には「1.傷害(障害)予防≧2.動作効率の改善・向上」という関係が成り立ち、持久系競技者には、まずは何より傷害(障害)予防のためにウエイトトレーニングに取り組むという考え方を基盤にウエイトトレーニングに取り組むようにして頂きたいと思います。

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