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「BADEND」なんとなく書評

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このたび、単行本未収録の傑作ホラー漫画を1冊にまとめた「恐怖漫画短編集 孤独」の第2弾であるその名も「BADEND」が発売となりました。

つきましては、その書評的なものを書き殴りましたので、BADENDを既に読んだ人もこれから読む人もご一読いただければ幸いです。
ネタバレはありませんのでご安心ください。

実は、本の完成前に飲みの席で、制作者として書評は絶対に載せるべきだ!とのお言葉を頂戴したのですが、どうしても自分の駄文を素晴らしい作品達と一冊にしたくなくて、このような形で公開させていただきます。

背宇宙人カット-1


有田景「ハヤリヤマイ」24P サスペンス&ホラー 1998年5月号増刊

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これは俺が一番好きな有田景作品であり初めて読んだ有田景作品だ。絵柄も内容も最も尖っていた時代だと思っている。一読で心を奪われた。これを収録から外すなんて考えられない。何としても本にしたかった。逆に今まで本になっていないことが信じられない。実は「孤独」の時点でオファーを出している。その時は俺が何者かよくわからないとのことで、話はまとまらなかった。しかしそれで諦めるには本作は面白すぎた。それから1年。見事にリベンジ達成である。依頼時に相互フォローになったので1年もの間、俺のホラー愛を見せつけることが出来たのが大きいはず。創作に必要なのは愛。あと金、勇気、とにかく金。金。


奥田りょう「5月12日月曜日」12P 恐怖の館 1997年6月号 「見てるだけ」10P 恐怖の館 1997年10月号 

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ホラー漫画マニアなら誰しもが一目を置いている存在、それが何を隠そう奥田りょうだ。
武器は一度読めば忘れられない恐ろしい絵柄。ゴアシーンが本当に強い。それに加えアイデアも面白いときた。まさに絵と話を兼ね備えた二刀流である。なので、ここではゴアとストーリーが堪能できる作品を載せたかった。しかし物事は思い通りに進まないのが世の常。俺がチョイスした作品の原稿が出版社により行方不明となっていた。
絶望である。掲載誌は持っているが、我が子のようなコレクションをバラバラにして死体から型を取るような真似はできない。
そもそも「孤独」の際に一人、刷り出しをスキャンした方がいたのだが、データの汚れを取り除く作業が地獄だった。思い出したくもない。連日深夜まで原稿データと格闘した日々は、二度と刷り出しは使わないと俺に固く決意させるに充分だった。
しかし原稿がない事実は変わらない。頭を抱えたが、すぐに問題は解決した。そうだ、二刀流だ。というわけで、ストーリーの「5月12日月曜日」、ゴア描写の「見てるだけ」の収録が決定した。
これ以外にも読んでほしい作品があるのだが、それだけに原稿紛失が残念でならない。いつか奥田りょう短編集を出したい。俺が欲しい。あと、先生は超いい人。なぜこんな作品を描ける。


白井裕子「ヤーボ」12P ミステリーボニータ2003年3月1日増刊号恐怖箱

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常々しつこいくらい主張しているが、ホラー作品における怪異は意志を持ってはならない。怨霊が恨みつらみをペラペラ話しはじめると心底興ざめする。そもそも意思の疎通ができてはならないのだ。同じ思考の上に立つべきではない。本物の怪異とは、災害のように理不尽で、かつ、ある種のプログラム通りに動く理解不能な存在であるべきだと思っている。
そういう意味で、この作品は完璧だ。終盤までのほのぼのした空気がいい前振りになっている。同系統の作品で、いがらしみきお「ガンジョリ」(傑作)があるが、あちらは初っ端からババアが立ちションをかまし不死身の鉈男が大暴れする等、終始にわたりエンジン全開で血と豚と汚物をまき散らす狂作である一方、こちらは丁寧に作り上げた慈愛に満ちた空間を不条理がぶち壊すジェットコースターのような急転直下な仕上がりとなっており、同じテーマを掬えてもこんなにも後味が違うのかと感心する。是非食べ比べてみてほしい。


猫黒ノミコ「狂気水路」32P 週刊少年チャンピオン 2014年32号 

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きた、、、ようやくこの時がきた。全国のホラー漫画ファンに猫黒ノミコを届けることができる日がきたぞ!!
本当に嬉しい。出会いは5年前の何気ないフォロワーの一言、「今週の週刊少年チャンピオンにいい感じのホラーが載っている」。
驚愕した。当時、若気の至り真っ最中でこの俺を満足させるホラー漫画が週チャンごときに載るかね!?とイキっていたが、ページを開いた俺はツタンカーメンの財宝を見つけた学者と同じ顔をしていたと思う。そこには才能というお宝が輝いていた。この感動を言語で表現するなんて不可能だ。読めばわかる。実際に読んでもらうしかないのだよ。
しかし、数年前の週刊誌を集めるハードルの高さが布教を阻む。どこにも売っていない。この傑作を眠らせてはならない!!その一心で、壊れかけのradioみたいにTwitterで「猫黒ノミコ猫黒ノミコ、、、」つぶやいたり、ありとあらゆる猫黒ノミコ情報をネットで探った。もちろん孤独の収録候補だったが、どうしても作者にたどり着かない。
一度は諦めたが、ふとした瞬間に猫黒ノミコのことを考えている自分がいる。どうしても忘れられない。届けたいこの想い。完全に恋だ。
そして、再び立ち上がりありとあらゆる手段を駆使し、なりふり構わず足掻いた結果、、、色んなお力添えをいただき見事作者の連絡先をゲット!!ありがとうございます!!ストーカーと呼ばれてもかまわない!!もう言葉なんていらない!!読んで!!とにかく読んで!!!!あなたもきっと好きになる!!!!
猫黒ノミコが女性だったらきっと求婚してたと思う!!してないということは、うん、察して!!!!そういう力が社会では必要だから!!!!


児嶋都「呪われた黒板」24P 恐怖の館1997年5月号

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楳図かずお風のタッチ、、、肉子ちゃん、、、映画監督山本晋也の娘、、、漫画家児嶋都と聞いて皆さんが思い描く印象はこんなところだろうか。かつての自分もそうだった。それを180度変えたのは、綾辻行人原作の「眼球綺譚」漫画版だ。作画を務めた児嶋都により幻想的かつ残酷な世界観が原稿へ見事に再現され、それはもう素晴らしい一冊に仕上がっていた。どちらかと言えばパロディチックな作品のイメージが強かっただけに、この作画には度肝を抜かれた。読みたい、この人のホラーがもっと読みたい。ここから俺の児嶋都魂に火が付く。
そして、調べれば調べるほど単行本未収録作品が多い作家であることを知る。今回お届けするのもそのうちの一つ。無駄のない洗練されたページを堪能してほしい。ストーリーは教科書的ではあるが、ベタをここまで美しく見事に仕上げるには相当なスキルが必要だ。ベタは面白い。面白いからベタなのだ。何度読んでも飽きることがない。まさにおふくろの味である。
作者のぶっ飛んだ発想が炸裂する傑作も存在するので、ここで改めて児嶋都というホラー漫画の才能を再確認したのちに他の作品にもどんどん手を伸ばしていただきたい。
なお、先日開催した「ホラー漫画を囲む会」では、何と先生ご自身が登場され、気さくに参加者全員にサインをしてくださった。家宝です!!ありがとうございました!!


ぽんぽんにないない「いとしのおにんぎょう」 6P TRASH-UP!! vol.10 

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世界は広い。まだまだ存在するのだ、、、最高のホラー漫画を描く逸材が!!
出会いはふとした瞬間、帰り道の交差点で、声をかけてくれたね、、、後ろを振り向くと誰もおらず、この作品が静かに佇んでいた。
食べ物を美少女に擬人化する処からとんでもないストーリー展開が待っているai7n「ミミクリ」という作品が存在する。これが面白いのなんの。一気に作者の虜となった俺は他の作品集めに奔走した。
どうやら掌編が多数TRASH-UPに掲載されたらしく、バックナンバーを買い漁る日々。
そして、そこに併録されていた全くノーマークの怪物「ぽんぽんにないない」と出会うこととなる。美しい作画から飛び出す奇想天外なストーリーに、一目見た瞬間から俺の心臓は鷲掴みにされてしまった。
そこからは、ぽんぽんにないない作品掲載誌を買い漁る日々。その中で、本作はまさしく入門書にぴったしなのだ。なんとこれで発想も描写も一番おとなしい。更なる恐怖と興奮がこの先にはあるのだ。
ホラー漫画は探せば探すだけ出会いがあり永遠に収集が終わらない底なし沼。更なるぽんぽん沼が鎌首をもたげてあなたを待っている。さぁ、一緒に沈もう。


野口千里「脂肪流し」30P オール怪談15号 2000/5/11

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本当にいいホラーを描くのだ、野口千里という男は。なのに今現在、亡き蒼馬社から単行本「怪奇千里眼」が1冊出ているのみ。理解不能。
傑作ホラー短編集「顔を見るな」から長いこと単行本に恵まれなかった高港基資先生も(女優霊はオリジナルではないのでノーカウント)、「恐之本」を皮切りに今やバンバン本を出しているので、そろそろ野口千里の時代が来てもいいと思う。時代は早く野口千里に追いつくべきなのだ。
そんな作者のホラー漫画の中でも三本の指に入る本作を収録させていただいた。弾けて種を飛ばすホウセンカという植物を題材にした最高のBADENDを迎える傑作も存在するので、どちらにしようか迷ったが、女性受けを意識してダイエットが題材のこちらを選んだ。嘘だ。痩せるシーンのインパクトに並び、その過激シーンのせいなのかは不明だがホウセンカに比べて廉価本への収録が圧倒的に少ないからだ。
ホウセンカはまだ頑張れば読めるので是非とも手にいれて欲しい。なお、本作のダイエット方法を真似すると確実に死ぬので、食事制限や運動により堅実に痩せることをお勧めする。


忌木一郎「猫化け」16P ホラーM 2009年6月号

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作者は猫ホラーを幾つか描いているが、中でも断トツに恐ろしいのがこいつだ。短いのにストーリー展開が本当によく出来ている。
やはりホラーは短編に限る。長いと怪異の原因を探し始めちゃうから駄目だ。わからないのがいいんだよ。先のことなんてどうでもいい。理屈なんて知ったこっちゃない。今この瞬間、目の前の恐怖を存分に享受できるのが短編の魅力だと思う。
原因も因果もよくわからぬまま恐怖で覆われた真っ暗の状態で幕が下りる。最高だ。投げっぱなしにすればいいという話ではない。起承転結はもちろん必要だ。だが、その中で怪異が発生し、それの原因を突き止め、解決するのが作品として最善の解だとは思わない。圧倒的な恐怖を軸に置き、あとの解釈は読者に委ねる、そんな作品が俺は好きだ。短いページで脳を揺さ振ってくれる作品が特に溢れるジャンル、、、だからホラーはやめられない。


BLZ「CLAY」14P コミックアライブ2018年10月号

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釘書房の本には、掲載されてから最低でも5年以上経過した作品しか収録しないという裏ルールがある。
だが、本作を読んだ瞬間にそんなルールは消滅した。ページをめくると同時にもう夢中。息するのも忘れて読み終えてしまった。いきなりの設定がもう凄い。ホラーパートではないのに、この物語のラストは一体どうなるのだろうと心奪われてしまった。昨今の守りに入ったホラー漫画の読切で、ここまで印象に残る作品も珍しい。
当初は単行本になる可能性もあるので収録するつもりはなかったが、作者の「こういう単行本にも収録されそうにない短編って、どうにか無料公開できないものか、、、」という旨の呟きが背中を押してくれた。俺が単行本にするよ!!
こういう単発の読切は無限に眠っているので、一つでも多くの作品を発掘していきたい。そもそも、埋もれないように作者や会社、ファンによる情報発信をしっかりしていければ最高だ。


坐磨屋ミロ「700年の呪縛 人食らう蝉」14P ホラーM 2005年8月号

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ホラー界隈よりも井河隆志名義のエロ劇画で有名な作者。その独特すぎる作風は、劇画狼氏のなめくじ長屋奇考録でも散々ネタにされている。
しかし、この人のヘンテコなホラーが俺はネタとしてではなく純粋にホラー漫画として大好きなのだ。その歴史は古く、初期のホラーMにも読切が載っている。本作は二千年代の作品だが、世紀が変わってもその切れ味は健在だ。個人的に伝説の作品「セミを食べた少年」と双璧をなすクレイジーセミホラーだと思っている。
「恐怖の快楽」に掲載されたシリーズを含め、作者のホラー作品は山のように存在するのだが、こちらも何故か単行本にはなっていない。
唯一、ホラーエクスタシー1~5巻にエロティックホラーが収録されているので読んでみてほしい。こちらも充分どうかしている。気づけば貴方も坐磨屋ミロの虜だ。


オガツカヅオ「こえる」 28P 開かずのマンガ

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作品に対して強いこだわりを持つ作家が存在する。ホラー漫画家でいえば、三家本礼や谷口トモオは単行本化の際にかなりの修正をかける。オガツカヅオもまさにその一人だ。単行本「魔法はつづく」でも大幅な加筆修正があり、思わず雑誌と見比べてしまった。
余談だが、自分の知る限り最も大胆な描き直しは、谷口トモオ「ピノキオ」。ラストのページが単行本では削られており(格段に怖くなった)、それ以上に目を疑うのが主人公の外見だ。180度変わっており、余りにも別人すぎて笑ってしまった。ほぼ全頁に登場する主人公を差し替えているので、これはもう新作と言っていい労力だと思う。作者の並々ならぬこだわりを感じる。
そんなこだわりを、まさか同人誌でも炸裂させていただけるなんて誰が想像するだろう。本作「こえる」では、全頁に何かしらの修正が施されており、なんと描き下ろしの見開きまで追加されている。
もちろんこちらからの要請ではない。作者であるオガツカヅオ自身からの申し出だ。ただでさえ収録作で最も湿度が高く悍ましい作品なのに、更に牙が研がれて規格外の怪物が誕生してしまった。正真正銘、ここでしか読めない作品だ。お見逃しなく。



時任竹是(鯛夢)「微笑みの造形」20P ハロウィン1995年4月号

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昨今は実話系ホラーでの活躍が目立つ作者による貴重なオリジナル作品。実は、今回の収録した中で直近に入手した作品でもある。
偶然のタイミングというものは、収録作品の選出の要素として非常に大きな割合を占める。まさに一期一会だ。
当初は別名義による発表のため作者が鯛夢先生だとは気づかなかった。生きのいい若手がいるな程度の認識である。
しかし、どこか既視感のある特徴的な絵柄に俺のホラー漫画アンテナが反応した。脳内ファミコンをフル稼働させた結果、鯛夢先生だと気づいたのである。ところが確信がない。もし先生にオファーを出して別人だったらとんでもないことになる。ダメだ、俺にそんな勇気はない。何か根拠が欲しい。
一人で悶えていると、1件だけ時任竹是=鯛夢だということに言及しているツイートを見つけた。流石はTwitterだ。いつも俺の欲しいものを与えてくれる。今や俺は親よりTwitterの言うことを信じているよ。
更に調べると、時任竹是名義でアフタヌーン四季賞の佳作も受賞しているらしい。知らないことだらけだ。先生が無料公開していたオリジナル作品「山童」も面白かったし、まだまだ埋もれている作品があると思う。やはりホラーはオリジナルが至高。もっとオリジナルホラー漫画が読みたい。作品が発表できて、かつ収入にも繋がる場を狂った石油王に提供してほしい。


最後に
以上、書評と言っていいかわからない駄文をつらつらと綴ってきたが、伝えたいことはホラー漫画って本当に素晴らしいということ、それに尽きる。
そんな大好きな漫画ジャンルの発表の場が年々減ってきているのは寂しい限りだ。新作が出ない鬱憤は過去の作品を買い漁り発散させるしかない。
そして買い漁った雑誌を読むと単行本になっていない傑作が余りにも多いことに気付き胸を痛めた結果、孤独やBADENDの製作に繋がったわけだが、やはり新作が発表され単行本になるのが一番望ましいのだ。
大きすぎる理想を抱いても仕方ない。今はやれることをやろう。とりあえず新刊は全部買う。そして、読切が載った雑誌も買おう。ホラー漫画に需要があるのだと業界に教えてやらねばならない。それには金しかない。諭吉に代弁させるしかないのだ。そして買うにはそもそも存在を知らなければならない。宣伝の重要性をホラー漫画に教わるとは思わなかった。まず買う!次に宣伝!!これでワンセットだ。
その結果、一人でも多くの人がホラー漫画にお金を落としてくれれば嬉しい。そうすれば業界が活性化し、新作ホラー漫画を読むことができる。情けは人の為ならずとはよく言ったものだ。全ては俺がホラー漫画を読むため。ホラー漫画に幸あれ。(BADENDのステマもよろしく)

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