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ロック産業の憂鬱〜「ギターは終わった」

ギターの好きな人にとっては、ギブソンやフェンダー、そしてマーチンなどは憧れの存在ですよね。実は私も、その単語を聞いただけで、興奮するほどのNo Music No Lifeな人間です。(でもギターはあまり上手くない)

ですから、昨年、ギブソン社の経営破綻のニュースを読んだときは、買ったばかりの新品のギターを机の角にぶつけて傷をつけてしまったときほどのショックでした。何故、世の中のギター小僧を虜にした老舗ギターメーカーが破綻したのか?

(ギブソンのレスポールモデル、値段が高い・・・)

背景としては、この10年間でエレキギターの売上が減少しているという状況があります。音楽市場は、長らくロックが売上1位でしたが、現在はヒップホップ/R&Bに取って代わりました。

そして、破綻の直接の原因は、ギター以外の家電とオーディオ・エレクトロニクス商品に手を広げた経営多角化が裏目に出たとのことです。

ここ数年で音楽業界は大きく変わりました。市場はストリーミングに取って代わり、CDは売れなくなった。一方で、ライブによる収益は上がっています。時代は、「モノ」を消費することから、「コト」を体験する流れになっているのです。

ギターの神様、エリック・クラプトンは、「ギターは終わった」と言ったとか。ただし、意外なのは、アコースティックギターの売上は逆に伸びているとのこと。これは、エド・シーランの功績かもしれません。

いずれにしましても、ギターメーカーはこれまでのビジネスモデルの改革を迫られています。

このようなギター産業不振の中、フェンダー社は、モノからコトへの転換を進めています。

(フェンダーのストラトキャスターモデル)

まずフェンダー社は、ギター購入者の傾向を分析しました。

①フェンダーの売上の半分は、ギター初心者の購入で、その90%が1年以内にギターに触れるのをやめてしまう。
②理由は、ギターが「マスターするのが難しい楽器」だからである。いくつかのコードを覚えるのは簡単だが、その先が難しい。
③ただし、そこを乗り越えて演奏を続ければ、ほとんどの人が生涯の顧客としてとどまってくれる。

(引用:『サブスクリプション―「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル』ティエン・ツォ、ゲイブ・ワイザード著)

そこで、フェンダー社は、ギター初心者から中・上級者まで学べるオンライン動画「フェンダー・プレイ」の定額利用サービス(サブスクリプション)を開始しました。これが当たり、フェンダー社の業績を押し上げているのです。

「顧客がほしいのはドリルではない。穴である」という言葉があります。経済学者のセオドア・レビット博士が1968年に出版した書籍の中で残した言葉です。これはつまり、電気ドリルを買うという行為は、所有が目的ではなく、穴をあけるという目的を達成するための手段である、ということです。

これをギターに置き換えると、「顧客がほしいのはギターではない。弾ける楽しみである」ということなります。フェンダー社はこれに気がついたのです。

時代の流れを的確に捉え、顧客価値を見据えたサブスクリプション戦略には、学ぶべき点があります。


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