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【遮音性能&残響時間】夢の防音室を作るまで Vol.10

どうも、こんにちは。

オーディオライター、音響エンジニアの橋爪徹です。
ハイレゾ音楽制作ユニットBeagle Kickでは総合プロデュースも勤めています。

前回は、防音工事の様子をお送りしました。毎日撮った秘蔵写真を交えて徹底紹介。写真は全体のほんの一部ですが、防音工事の進捗をユーザー目線で遠慮無く捉えたレポートとして貴重な回だったと思います。自分で言うのも何ですが、あのくらいの細かさで写真を撮り続けたのはなかなか無いそうです。アコースティックラボのスタッフも驚いていました。

このnoteでは私が防音室を作るまでを書き残すことで、オーディオファン・映画ファンにとって部屋を作ることを身近に感じて欲しいと思っています。
「別世界の話」、「金持ちの道楽」といった、ある種突き抜けた行為だと思わないで欲しいのです。連載を終える頃には、その意図が伝わっていたら本望です。

今回は、工事完了の日、私の場合は引き渡し日と同じでした。その模様をお送りします。
さらに、工事途中で行った遮音性能の測定を遡ってお届け。果たして十分な性能は出ていたのか!?

2017年6月の下旬。壁の石膏ボードが貼り終わってクロス(壁紙)を貼る直前の時期でした。アコースティックラボより遮音測定をしたいという連絡がありました。
遮音測定とは、設計通りの遮音性能が出ているか、実際に音を出してチェックするために行うものです。同社よりスタッフ2名が来訪され測定を行ってもらいました。
まず、防音室の中にライブ用のPAスピーカーを置きます。

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スピーカーに遠隔でテスト信号を流せるシステムを組みます。テスト信号を流す人が1名。騒音計で音を測る人が1名。2人はトランシーバーで連絡を取り合います。

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テスト信号をリモートで再生するスタッフ

防音扉越し、隣の部屋、隣接した非常階段、階下の地下駐車場。こういった場所でスピーカーから出る110㏈を超える大音量がどれほど減衰するかを測ります。(隣戸は入室に許可が要るので、後日実施。未入居の隣戸のみ測定が実現。上の階は住民の反応がなく測定できず…)

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録音ブースでチェック(防音扉が規定の性能を満たしているか)

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防音室出てすぐの廊下でチェック(防音扉が規定の性能を満たしているか)

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すぐ隣の洋室でチェック

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この日は隣戸で測定できなかったので、近似値として防音室に隣接する非常階段で測定
上下の遮音性能を測るため半地下の駐車場でも測定を実施

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玄関ドアの前でチェック

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私のリクエストで防音室から一番離れたリビングでもチェック

防音室の中で直接聞いたテスト信号は、周波数毎に複数ありましたが、どれも恐怖を覚えるレベルで大音量。理由は、大きな音で出さないと場所を変えたときに騒音計で正しく測れないためです。(125Hz~500Hz:ワーブルトーン=定在波の影響を抑えた信号、1kHz~4kHz:ピンクノイズ)

また、壁紙を貼る前に測定する理由は、もし保証される遮音性能が出ていないときは工事をやり直さないといけないためです。壁を壊せるギリギリのラインで測るという訳ですね。
測定の結果、導かれた遮音性能が以下の通り。

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対隣戸や隣接する共有部など、設計時の保証値であるD-65は確保されています。マンションの場合はD-60もあれば防音室として問題ないレベルです。オーディオ機器で聴く音量は、大きくても90㏈。瞬間的に100㏈くらいがMAXですから、60㏈減衰して結果40㏈というと図書館の静かな室内とか静かな住宅地と言われているので、クレームの心配もないでしょう。D-65は理想的な数値といえそうです。
実際、丸一年使ってきてクレームは一切ありません。隣戸よりも性能が低くなる外への音漏れは自分で実験もしました。やり方は簡単。「映画でも使わない爆音」でビートの効いた音楽を掛けて、ベランダから窓越しの音漏れを確認します。結果は、低音がわずかに聞こえるレベル。近隣の生活音や数十メートル先から聞こえてくる電車の音の方が大きいくらいです。「今、音が漏れてます」と言われないと分からないくらいでした。夜間は注意した方がいいかなという印象。爆音でこれなら、現実的な音量であれば昼夜問わずいつでも聴けるということです。防音室の威力、凄いです。アコースティックラボの設計、さすがです。

では、時を戻しまして……
引き渡し日です。
当日、私は仕事帰りだったのでスタッフさんに待っていてもらいました。職人さんと現場監督さん、そしてアコースティックラボのスタッフ、計3名が待機してくれています。引き渡しの流れとしては、通常のリフォームとほぼ変わらないのではないかと思います。現状の確認と部屋の機能の説明、引き渡しの確認書類にサイン、といった感じです。
私の場合は、プロジェクターの設置状況と画面の確認、吸音パネルの移動・取り外し方法、防音ドアの使い方、給気・換気口の使い方、録音ブースへ至る通線口の説明が主だったものでした。写真で振り返ってみましょう。

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スタンドとスピーカーのみ設置(これは前もって自分で行っていた)

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プロジェクターが天吊りされています。天井スピーカーも!

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収録ブースから防音室を望む 左下にあるのは、通線口とオーディオグレードのコンセント

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右からデジタル機器向けコンセント、アンプ向けコンセント、テレビアンテナ、サラウンドスピーカーケーブル計6本、HDMIケーブル

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アコースティックラボの発案で設置した化粧梁。天井が低いので、これがあると感覚がだいぶ違います

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照明は全部でスイッチが3つ、どれがどれに繋がるのか説明を受けました

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防音ドアが開ききったときにノブが当たって壁を傷付けないよう、半透明のクッションが貼り付けてあります

引渡しの最中、私も緊張していたのかミスをやらかしました。
まず床の縁切りの隙間に充填剤を入れたばかりで「踏まないで」と言われていたのに速攻で一箇所踏みました。足跡が……
また、吸音パネルの移動を試したときに金属の固定用金具を壁に擦ってしまい、壁紙を破損!あまりのことに寿命が縮まりました。幸いにも面積は小さかったので、ペンで塗ってごまかしています。

床にちょっと工事のチリが落ちていたり、化粧梁に白い粉が残っていたりと、気になる所は指摘しました。傷や汚れは引渡しの書類にサインをする前に指摘しないと、保証の対象になりません。リフォームでは常識かと思いますが、注意しましょう。もちろん、使用開始後でも工事に起因する、あるいは初期不良と思われる困りごとがあればアコースティックラボに相談するのはよいと思います。(私は特に困ることはありませんでした)

アコースティックラボの場合は、工事金額の大半を引渡し後に振り込みます。私の場合は、ウン百万円を振り込みました。郵便局では振り込め詐欺と誤解されないように、請求書を持って行って理解してもらいました。(それでも窓口の人は上司に確認してました)

引渡しの当日、音を鳴らすことは出来ませんでしたが、なんだか不思議な気分でした。うっかりミスをやらかしたこともありますが、本当にこの部屋が自分の物になったのかあまり実感が沸きませんでした。正直、信じられない気持ちが大半でしたね。

ともあれ、仕事のために作った部屋ですから翌日以降、急いで機材の設置を行いました。音楽と映画を見られるようにして、後日アコースティックラボのスタッフを呼びしました。
各種ソースの視聴と、周波数特性および残響の測定を行いました。以下がBefore・Afterの結果です。

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測定結果に対してアコースティックラボよりコメントをもらえました。

仕事柄、様々な部屋でオーディオを聴かせていただく機会がありますが、一様にして言えるのは、日本の一般的な住環境は低音が吸われすぎているという点です。低音の吸音材とは何か?皆さん意外と意識していませんが、床壁天井の6面全てが吸音していると聞くと驚かれるかもしれません。正確にいうと、各面の表面材と、空気層を挟んだその背後にある面材との間で共振することにより発生する板振動による吸音です。これは面材の重さ、空気層の厚さなどによって異なりますが、100~200Hz付近を吸音するケースが多く、しかも部屋の面全てが吸音しますから、大きな吸音力を持ちます。やっかいなことにこの帯域は、音楽にとっておいしい低域成分であるので、この現象が生じると、大型スピーカーや高級コンポーネントを入れても、何となく低音に迫力がなく、つまらない音になることが多いのです。防音工事をすると、各面の質量が増すことで共振周波数が下がり、且つ振動そのものが発生しにくくなるので、板振動が起きにくく、しっかりとした低音が得られるようになります。橋爪氏の特性はその典型といえるもので、当社による工事後の残響特性は大体このような特性となります。

私の聞いた感触では、もう別物でしたね。以前の洋室は、響きすぎて音場も混濁していたし、定位も不明瞭で明らかに6畳間のアパートの頃の方がマシでした。防音室で鳴らしてみると、同じアンプ同じ接続なのに、中低域の量感がグンとアップして音楽の説得力が改善しました。このスピーカーはこんなに低域出ていたのかって驚いたくらい。ボーカルの実在感も真に迫る物になりました。
反面、音の質感は悪化しました。全帯域に渡って不純物が混ざって汚れているというか、特に高域に雑味やガサつきがみられます。理由は明確。グラスウールの吸音パネル4枚の影響です。表面のカバーは化学繊維ではなく木綿にしてもらいましたが、内部のグラスウール(ガラス繊維=化学繊維)の影響は甚大でした。前の六畳間ではシルクのテレビカバーとシルクのカーテンによって対策をしていたため、音はクリーンであり、有機的な質感を楽しめました。この質感の悪化は、自分にとっては予想を超えており、その後の改善対策への決意を新たにしてくれました。(現在は、シルクのオーガンジーを簡易的に4枚貼り付け、大幅な質感改善を実現)

そんなわけで、ついに防音室が完成しました。まさに我が城(笑)
思っていたのと違う結果もありましたが、逆にもっとクオリティを上げて行くのだと闘志が沸きました。定在波が偏らない寸法比を実現した部屋は、音響空間としては理想的です。やればやっただけ、音質は改善していくはずです。
部屋の名前は、Studio 0.x。永遠に100%=1にはならないけど、限りなく100%を目指して向上していく決意を込めて付けた名です。その名に恥じぬよう上を目指す日々がここから始まったのです。

いかがだったでしょうか。
本企画、これで終わりではありません。
次回は、何人かの友人知人をお呼びして感想を伺っていますので、そちらの模様をお届けしましょう。第三者の意見を交えて、防音室というリフォームが何を実現するのか深掘りしたいと思います。お楽しみに!

技術監修:アコースティックラボ

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