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【入居・工事初日】夢の防音室を作るまで Vol.8

どうも、こんにちは。

オーディオライター、音響エンジニアの橋爪徹です。
ハイレゾ音楽制作ユニットBeagle Kickでは総合プロデュースも勤めています。

前回は、マンション入居を目前に控えた打ち合わせの様子や、自宅に設計スタッフを招いての音チェックをレポートしました。リフォームというまるで生き物のようなプロジェクトは、突然の変更や想定外が付きもの。慌てず、焦らず、正確で最善の判断をすることが如何に大切か痛感しました。

このnoteでは私が防音室を作るまでを書き残すことで、オーディオファン・映画ファンにとって部屋を作ることを身近に感じて欲しいと思っています。
「別世界の話」、「金持ちの道楽」といった、ある種突き抜けた行為だと思わないで欲しいのです。連載を終える頃には、その意図が伝わっていたら本望です。

今回は、入居から工事開始までの数日間をお届けします。防音室になる前の部屋で音楽を聞いた感触や、工事初日に行った測定結果、解体作業など、いよいよ本格的に工事が始まる段階です。当時の興奮が今でも鮮明に思い出されます。家の購入だけでも大変なのに大金はたいたリフォーム工事がすぐに始まる……そのドキドキとワクワクは今でも記憶に刻まれています。

新居への引っ越しは、6/1でした。
引っ越し前から既存のクロスを剥がす工事を行ってもらい、防音室になる部屋以外は全て新しいクロスになりました。ハウスクリーニングも含めてすべて終わったのは、5/31。新居側の準備はどうにか完了した形です。前の住人がヘビースモーカーでなければ、クロスの張り替えで30万円も出費することはなかったはずで、今でも心苦しい限りです。
では、アパートの方はどうだったのでしょう。ありがたいことにオーディオの仕事がいくつか入ったため、荷造りがギリギリの危険な状況に。確か引っ越し前日は、ほぼ徹夜だったような気がします。間に合ったのが今でも信じられないくらいです。

そして、肝心の工事開始は6/9に決まりました。引っ越しからおよそ一週間での工事開始。その間に、ひとまず既存のアンプやスピーカーを防音室になる部屋に設置し聴けるように準備しました。自分でも工事前の音を聴いておきたいですし、当時抱えていたオーディオ案件のために整えないわけにはいきませんでした。また自分で購入しておくシネマ機材等はこの期間を利用して自宅に配送してもらいました。(当時のメールを見ると配送日は6/5や6/7と結構ギリギリ)

当時の洋室に機材を設置したときの写真がこちら。

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コンセントをわずか一週間のためだけに交換しました。(笑
私は電気工事士の免状を持っているため、業者を呼ばなくても交換は自由。呼ぶと3500円くらい掛かりますので、こういうとき便利ですよね。高校・専門とずっと電気を勉強してて良かったです。

家具はコタツテーブルしかない状態でCDを鳴らしました。
約7畳の洋室はまぁ、響く響く!余計な反響も気になりますが、壁は叩けばボンつく普通の壁。壁や天井の共振によって音も濁っている印象でした。中低域は、音量感の割には迫力が無く、スカスカな感じがします。圧倒的に以前のアパート(和室6畳間)の方が音がいいです。この部屋で音楽は楽しめないなと即座に結論が出る勢いでした。
こんな酷い部屋がいったいどれほど改善されるのか、期待よりも不安が強かったかもしれません。

そしていよいよ工事初日、朝の8時に設計担当が来訪。工事前の残響時間と平均吸音率を測ります。これは、私とアコースティックラボがお仕事のパートナーだったこともあり、先方からの提案で実現しました。工事前と工事後でどのように部屋の音響特性が変わったのか。聴感評価だけでなく、数値でチェック出来るのはありがたいなと思いました。

こちらが測定結果です。

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残響時間というのは、その名の通り音を出したときの響きの長さです。(正確には、音源が発音を止めてから残響音が60㏈減衰するまでの時間)
平均吸音率とは、部屋の表面積に対する吸音面の割合で、残響時間から計算で求められます。部屋の大きさに関わらず一定の値を示すので、その部屋の響きの長さを評価するのに用いられる指標です。
一般に500ヘルツを基準に、0.15~0.2が響きが長め、0.2~0.25が中庸な響き、それ以上は響きが短め、という具合で評価されます。

表の通り、音の高さを変えながら8種類のテスト音を出して測定していきました。

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工事後のスピーカー位置にスピーカーを設置。同じく、実際の視聴位置と同じ場所にマイクを設置。
測定用の機材からテスト音をアンプに送り、機材に接続された測定用のマイクで集音します。これによってスピーカーの伝送周波数特性を測ります。

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PCでその結果がすぐに数値化&可視化されます。

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これは残響を測るときのセッティング。直接音をマイクがなるべく拾わないように明後日の方向を向けてテスト音を出しました。ちょっと面白い絵面ですよね。
この時は、マイクの位置をあちこちずらして何度もテストしました。これで平均吸音率を計算するためのデータが得られます。

このBefore測定結果について、アコースティックラボの担当者からコメントを頂きました。

特徴的なのは、平均吸音率の値を見ると、工事前は125~250Hz付近で吸音率が高い=残響が短い、ということです。
残響が短いということは、その帯域が他帯域に比べて減衰が大きいということですから、何らかの原因で吸音されていることになります。この帯域を吸音するのは、床や壁材などによる板振動しか考えられませんので、その帯域だけがスポットで吸音されています。

なるほど!まさに聴いたとおりの測定結果になりました。
こいつを何とかするのも防音室の使命になるわけです。

さて、測定が終わったら機材を移動します。リビングまで総出で移動させました。スタンドがとても重い……
8時半に現場監督と職人さんが来訪。ご紹介とご挨拶をして、家の中を案内します。分電盤はどこか。資材置き場はどこにするか。ベランダの状況。トイレの場所。玄関からリフォーム箇所への導線。
一通りの案内が終わると、すぐに廊下の養生が始まります。

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こちらで用意したアコースティックリバイブのコンセントや屋内配線(Fケーブル)、屋内埋込みスピーカーケーブルの確認を職人さんと照らし合わせます。あとで見て分かるようにテープに希望する設置場所を書きます。これは収録ブース用、これは天井用とか。
シネマ用機材も外箱と中身を説明しました。これはスクリーン、これは天吊り金具とか。

そうこうしている内に解体業者が2名現れ解体を開始しました。エアコンの室外機も当日中に撤去します。既存照明はゴミとして処分しました。解体業者が解体を始めるときに他の部屋に繋がる扉は閉めるように言われました。廃材の粉が舞うからです。

そういえば、工事の案内はマンションの掲示板に貼られているのか。気になってアコースティックラボのスタッフと見に行くと送ったはずの紙が貼ってありません!驚いて管理会社に電話したら自分で貼って下さいという指示。普通は案内を受け取った管理会社が貼るらしく、その対応には驚きました。仕方なく近所のコンビニで出力して貼りました。その日は偶然、掃除のおばちゃんが見えていて、ドカドカ出入りする我々への不安を口にしていました。いや、ホントその節は申し訳なかったです。

解体作業は4時頃に終了していつの間にか業者は姿を消していました。石膏ボードや断熱材も運び込まれていました。ものすごい手際とスピードでした。現場監督は解体作業の後に撤収。職人さんだけ規定の17時まで作業をしていました。作業工程表にチェックを入れて「また明日」
私は、既に引っ越し休暇を終えていましたので、勤務のある日は渡した鍵を使って勝手に入ってもらうことになりました。

誰もいなくなった部屋は、嘘のような光景でした。
以下、全て初日で行われた作業です。

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壁が!天井が!

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隣の部屋に対しては、断熱材はそのまま利用。

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ウォークインクローゼットは引き扉も横の壁も全部解体。

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資材も搬入されました。断熱材と床用パネル。

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骨組みで使う木材。

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初日の段階で床の工事に着手。この謎の木材は今後の更新で種明かし予定!

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分電盤が近くにあったため、他の部屋への配線は全て防音室の上を通過するようです。VVFケーブルが生々しいですね。

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夕方の作業用に照明まで設置!

ということで、少しは私の驚きが伝わるでしょうか。
朝は担当さんと測定作業をやっていたのに、夕方には見る影もない状態に。解体される前の部屋を惜しむ時間はまったくありません。まあ、一週間しか住んでないし別に構わないのですが。
大量の資材が運び込まれ、これから行われる工事が如何に大がかりなものか実感しました。

この日は、スタッフ2名、現場監督1名、職人さん1名、解体業者2名、総勢6名の大所帯でしたが、普段は職人さん1名で作業が進行します。要所要所で現場監督や電気などの専門業者、スタッフも訪れるとのことでした。

工具や機材、資材の類いは日々増えていきました。素人が触っていいものではないですし、基本的に部屋に入るのは止めた方がいいでしょう。怪我をしたら大変です。

解体が終わって、ついに工事が始まりました。
この当時は、自分の家に専用の防音室が出来るなんて想像もできなかったです。嘘のようなホントの話。これから徐々に出来上がっていく部屋を見ていたら気持ちも変わるのだろうかと思いました。ワクワクはもちろんありますが、大金を払ってお願いする仕事なんだと緊張も感じましたね。
ちなみに、解体してみての想定外はありませんでした。まれに設計図書と違う構造、配管になっていたりするそうです。当然、イレギュラーがあると設計変更、見積もり変更の可能性があります。ここで引っかからなかったのは幸いでした。

という訳で、20日間に渡る工事はここから始まりました。
果たして無事、防音室はできるのか!?
次回は、当然工事の進捗をお届けします。特別に許可を得て撮影した写真の数々を限界ギリギリまでお見せしますので、どうぞお楽しみに!

技術監修:アコースティックラボ


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