マガジンのカバー画像

厭な話

27
小説。
運営しているクリエイター

#短編小説

怪談『後方確認』

怪談『後方確認』

私が、新居に越してしばらくして気づいたのは、帰り道に使用する新居までの直線の道が、殺人現場であることであった。

五年以上前のことだが、その町のその道で、女子大生が帰宅途中、コンビニで弁当を買った帰り道、背後から追ってきた不良学生に腰を刺され、財布を奪われ、血塗れの状態で我が家にたどり着くも、玄関先で絶命したという事件であった。

彼女は、追いかけられてから刺され、家に辿り着くまで、全力で走って逃

もっとみる
怪談『壁ドン』

怪談『壁ドン』

「マンションの最上階の、角部屋だったんですけど」

最近引っ越したという澤乃井さんは、ビールを飲み干して、言った。

「南向きで陽当りのいい3LDKで、家内も随分気に入ってたんですが」

半年と経たずうちに澤乃井さんは引っ越してしまったのだ。

「郊外だという以上に家賃は安かったのですが、それでも鉄筋コンクリートのマンションです。それまで住んでいたハイツとは違い、壁だって薄くありませんでした」

もっとみる
怪談『定点カメラ』

怪談『定点カメラ』

「夜中に突然目が覚めて、そっから眠れなくなることがあるんですけど」

保険の事務をやっている名坂さんは言った。

「そういう時につい、枕元にあるスマフォを見ちゃうんですよね。余計眠れなくなるってことはわかってるのに」

名坂さんは、スマフォを操作して、呟きサイトやアプリのゲームをすることが多いのだという。

「でもその時はちょうど、夏の終わりに沖縄に行った後で」

ふと、夏に友だちと行った旅行先の

もっとみる
怪談『謎ナビゲート』

怪談『謎ナビゲート』

詳しい駅名や地名などは書かない。

知り合いの芝居を観に行った帰りのことである。

芝居も面白かったし、よく晴れて気持ちも良かったため、劇場の最寄りである小田急線の駅までではなく、北に進んで京王線を超え、更に北の、井の頭線の駅まで歩いて帰ってみることにした。

井の頭線まで歩いて、まだ体力も気力もあるようであれば、更に北上してJR中央線へ向かうのもありかな、と思った。

そこまでいけば自宅まではも

もっとみる
厭な話『呼び出し』 +後日談

厭な話『呼び出し』 +後日談



「九時くらいです。夜の」

及川さんは細かく何度も頷きながら言った。

「正確ではありませんけれど、大体そのくらいの時間に、家のインターホンが鳴るんです」

及川さんがリビングでテレビを見たり、キッチンでやや遅めの夕飯を食べていたり、お風呂に入っていたりしている時、インターホンは鳴るのだ、という。

「確かに遅い時間ではありますが、そこまで非常識に遅いって程じゃありません。宅配の荷物なんかも

もっとみる
怪談『スタジオ』

怪談『スタジオ』

「いやあ、俺は別に霊感とかそういうのはないんだけどさ」

友人の紹介で知り合った、某テレビ局で美術の仕事を四十年以上しているベテランの長澤さんは、軽快に笑った。

「働いてるのがテレビ局だからさ、色々とこう、なんか視た、みたいなことをいう人はいるわけ」

渋谷の某居酒屋。長澤さんと、彼の部下である、まだ二十代の衣装班の小野t寺さんと共に酒宴を開いていた時の話。

「どこそこのスタジオに白い女の人が

もっとみる
怪談『知り合いかも?』

怪談『知り合いかも?』

「フェイスブックの機能に、『知り合いかも?』ってのが、あるじゃないですか」

二児の母親である持田さんは言った。

「自分のタイムライン見てると、途中で表示されるやつです」

要するに、この人はあなたの知り合いではないか、とフェイスブックが判断して他人のアイコンと名前を表示してくるものだ。

「昔の知り合いや小学校や中学校の頃とかの同級生を見つけたりするのに便利だから時々は使ってたんですけど、最近

もっとみる
怪談『懲らしめ』

怪談『懲らしめ』

「そいつ、ユウキっていうんですけど」

美容師の松永さんは言った。

「同じ美容室にいて。普段は良いやつなんですけど、調子に乗るとこがあるっていうか。いわゆる、『俺は視える』とか言っちゃうやつで」

視える、というのは?

「おばけです。で、そういうこと言うと、女の子とか、怖がったりするじゃないですか。それでますます調子乗っちゃうやつで」

人にスマホや携帯の写真を見せてもらっては、どこそこに幽霊

もっとみる
怪談『この駅』

怪談『この駅』

「僕は特に、視える人ではなかったんですけど」

書店勤務の大河原さんは言った。

「出勤するときは、まだ明るいんで、視えないんですけど、視え始めたのは帰り道ですね」

新宿の書店に勤める大河原さんは、自分が住んでいる武蔵境まで、中央線を利用している。

「閉店後に帰るので、電車はいつも座れないんです」

それで大体いつも、先頭車両のドア付近に立って帰ることが多いという。

「夜の町を見ながら帰るん

もっとみる
怪談『バケモンGO』

怪談『バケモンGO』

「今みんなやってるアプリのゲームあるじゃないですか」

ネイルショップに勤める河田さんは、自分のスマフォを操作しながら言った。

「実際の町並みや道路が、地図で画面に出てきて、そこにモンスターが現れるから、そしたらボールでゲットするってやつなんすけど」

実際に触らせてもらうと、なるほど、確かに、スマートフォンの画面に出ているゲーム上の地図と、実際に私たちがいる喫茶店付近の地図は殆ど同じであった。

もっとみる
怪談『避難所』

怪談『避難所』

「仕事で、徳島県に行ったときのことなんですけど」

都内で営業職を務める丸谷さんは言った。

「会社に取ってもらったホテルが、結構山の中で、駅前からタクシーでだいぶ行かなきゃいけないところで、参ったなあ、と思いました」

急な出張だったため、駅前のホテルは満員で、そこしか空き室がなかったのだという。

「とりあえずチェックインして部屋に入りました」

部屋の奥にある窓の向こうは山の斜面になっていた

もっとみる
怪談『霊道』

怪談『霊道』

「あ、怖い話っていうのは、私は聞いたこと無いんだけれどね」

看護師である宮里さんは思い出したように言った。

「ウチの息子の、イチロウが、なんかそういう、お化けや幽霊なんかを、よく見るといっていたよ」

イチロウ君は、今は県内の農協で働いているという。

「小さい頃からね、お母さんあそこにおっちゃんがおるよ、とか、今は子供が移動してるから近づかん方がいいよ、って言って、私には何にも見えない場所を

もっとみる
厭な話『ナオコさん』+後日談

厭な話『ナオコさん』+後日談



「佐野ナオコさんっていうんですけど」

仲本さんは語った。

仲本さんは沖縄県の南西にある小さな島で、賃貸をしている。

「小さな平屋を貸しているってだけで、大家ってほどでもないんですけど」

自分が住んでいる家の他に、二軒の平屋が同じ敷地内にあり、それを人に貸しているという。

2年前、そこの一軒に、東京から来た若い夫婦が住むようになった。

「奥さんが佐野ナオコさんで、旦那さんが、佐野芳

もっとみる
短編小説『私の自慢の集合ポスト』 後編

短編小説『私の自慢の集合ポスト』 後編



前編はこちら。■

次の日の朝、メイコはバイトに行く前にエントランスの集合ポストを確認してみたが、ご飯粒一つ落ちていなかった。念のため202号室のポストの扉を軽く指で叩いてみたが、中からは何の反応もなく、空のようだった。

バイトから帰ると、マサノブが部屋の真ん中で腹筋をしていた。買ったばかりの黄色と白のラグマットにマサノブから滴り落ちた汗が染み込んでいく。

「今日のご飯は?」

腹筋から

もっとみる