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琉球怪談百絵巻の話

先日、石垣島の祖母が亡くなったので、沖縄へ葬儀に行ってきた。

その時の色々あった話はまた纏まったら書きますが、とにかくバタバタした四日間で、葬儀場に寝泊まりしていた俺は四日間のうち一度も沖縄料理を食べられないくらいにはバタバタしていたわけです。

基本的にご飯は葬儀場横のファミマのお弁当でした。

ファミマの明太子焼うどん、超美味しかった。

沖縄にあるファミマやローソンは沖縄支社が統括してるので、表示見たらやっぱり弁当を作ってるのは沖縄県でした。
だから同じメニューのものが東京にあったとしても、同じ味が出ているのかは甚だ疑問なので、ある意味あれも沖縄料理と言えなくもないかもしれない。言えない。言いたくない。

で、そんなバタバタの内に帰りの時刻は来てしまい、お土産などを買う暇もまるでなく、仕方なしに空港で搭乗までの極僅かな時間を縫ってお土産を購入することに。

妻にはオリオンビールのキーホルダーという、なんで今更それを選んだのか、この記事を書いてる今となってはまるで理解ができないほどベタで特に面白くもないお土産を無理やり購入し、自分自身には空港の本屋で怖い話の本を購入した。

『琉球怪談百絵巻 ほんとうにあった怖い話 不思議な子どもたち』という、作・小原猛 絵・三木静 著の本を買いました。

他にもたくさん怖い話の本はあったのだけど、これは琉球新報という新聞の小学生新聞『りゅうPON』に毎週連載されていたものを纏めたもので、子供向けでわかりやすい文章であることと、怖い話が100個も載っててお得! と思ったのが購入のきっかけとなりました。

で、待合の時間からもう我慢できずに読み始めてみると、実録怪談の形式をとっていて、また、これが怖いんだ。
不思議な話や不気味な話、ゾッとする話などバリエーション豊かに手を替え品を替え畳み掛けてくる。

そればかりか、日本で唯一内戦地となった沖縄らしく、戦争で死んだ人たちの怪談も盛りだくさんでその辺のリアリティがまた背筋をゾッとさせてくれる。

更に、沖縄にはユタと呼ばれる霊媒師がいて、そのユタが活躍する話も多く、更にはそういうユタが地域の生活に密接だからこそ、思わず笑ってしまうような呑気なエピソード(おばあさんが、幽霊に向かって「あんた死人のくせにしつこいね。あんまりついてこないでね」とブツブツ文句を言っていた)も出てきて実に飽きさせない。

他にも海に纏わる怖い話やキジムナーやアカガンターといった沖縄独自の妖怪の話などが方言交じりで語られていて楽しいことこの上ない。

これは良い買い物をした、と、その時からすでに満足だったのだが、この本が本当に良い買い物であったことは、その後、飛行機に乗ってから発揮された。

那覇空港から飛行機が離陸し、成田へと飛び立つ。

さてと、いつものように逆転裁判でもするかな、と考えていたが、とりあえずは『ワンパンマン』の最新刊などを読みながら時間を潰す。

因みに、この前日、那覇では那覇マラソンが開催されており、全国からランナーの人々が那覇に集まっていたのだ。
で、今日はそれに参加した人たちが帰ることもあって、飛行機の中は満席状態であった。

俺の隣の席の人も、見た目から既にランナー然としていて、身につけている服のどれも「軽くて走りやすそう」な素材で出来ていた、おじさんであった。

おじさんはとても優しい方で、席を倒すときも後ろの人に「倒します、すみません」と声をかけていたし、自分の荷物は最小限で、コンパクトに収まって、前日の疲れから早々に眠ろうとしていた。

なので俺もおじさんの邪魔にならないよう気を遣いながらも、しばらくのフライトを平穏に過ごそうとしていた時のことである。

おじさんの目の前の席が突然リクライニングの最大限まで倒されたのだ。

別に良いのだけれど、あまりの突然のことに少し戸惑った様子のおじさん。
姿勢を少し正そうとする。

俺の席からは、その前の倒した席の人物の顔が、隙間からはっきりと見えた。
つまり、それくらい倒されたのだ。

5歳くらいの男の子であった。

男の子は、隣の席(つまり、俺の席の真ん前)に座る父親と搭乗していたらしく、窓際に座らせてもらってるくせにもうフライトに退屈になったのか、しきりに大声でなにやら叫んだり、おもちゃの飛行機を手で持って飛ばしてたりとやりたい放題。

趣味はジムとワイン、みたいな(個人の偏見です)風貌の短く刈り上げた髪が特徴的なガタイの良い父親も、それを注意することなく、自由にさせている。

俺が買った席なんだから俺の子供が自由にしていい権利はあるからね、と言いたげですらある(勿論ただの想像であり偏見です)。

あろうことか男の子は、倒された背もたれに寄りかかるように座席の上に立ち上がり、こちら側のおじさんや俺の顔を遠慮なくジロジロ見ながらおもちゃの飛行機をブーン!

おじさんはとてもではないが寝られる様子にないのであった。

俺だって、実害はないとはいえ、座席の上や横に開いた隙間から男の子がこっちを無遠慮にジロジロ見てくるから気になって仕方がない。大声で喚くし歌うし、漫画読んでる俺が責められてるような感覚に陥ってしまい、とてもこの後ゲームを始めるなど出来そうもない空気が漂うのであった。

つうか、いい加減父親が「迷惑になるから静かにしなさい。そのためにお前は窓際に座ってるのだし、そもそもここは家ではないのだからね」と注意するべきだし、そのレベルはとっくに超えていたのだ。

でも父親は無視して、「子供ははしゃぐのが仕事。むしろこんな元気な俺の息子は、皆んなも可愛いな愛らしいなと思うでしょう?」と言わんばかりの(想像です)放置ぶり。

おじさんは時折男の子とダイレクトに目があうもんだから、余計に絡まれてる感じが強くなってくる。

そこで俺は、ふと、鞄の中に先程買った『琉球怪談百絵巻』があることに気づいたのだ。

うるさい子供が公共の場でおとなしくしないのであれば、どういう目にあうのか、わからせてやらねばなるまい。

それこそが大人の義務であり、また、怪談の持つ力を発揮するべき時なのだ。

怖い話の多くには、子供にタブーを教える目的がある。

今こそその本来の目的を行使すべきである、と、俺は行動した。

つまり、男の子が後ろの席を覗きこんだ時、真っ先にこの本の表紙が彼の目に飛び込むような位置で、本の続きを読むことにしたのである。

そうすれば彼は、「飛行機で後ろの席を覗き込めば、怖い本の表紙がこっちを見ている」という教訓を一つ得ることになる。

そうなるように、俺は行動したのだ。

俺は鞄の中から先程買った凄く面白い本を取り出し、表紙を男の子の目線にすぐ飛び込むような位置に置いて、続きを読み始めた。

後は結果をごろうじろ。三郎四郎。

果たして男の子は、油断しきった感じでやはり倒した背もたれに顎を乗せるように後ろを向き、俺の読む本の表紙をまじまじと見つめたのであった。

息を飲む、という行為を久々に目の当たりにしました。

男の子は、ヒッ、と小さく息を飲んだかと思うと、ゆっくりと座りなおし、少しの間黙っていたかと思うと、突然、「おばけなんてないさ」と歌い出したのです。

効果はあったけど、余計うるさくなってしまった!

と後悔したのも束の間、男の子はワンフレーズだけ歌うと隣の父親に、「お父さん、おばけなんていないよね?」と話し始めたのです。

そしてようやく話しかけられた父親は、子供の相手をし始め、なんとその後、着陸するまで親子はおとなしく会話を続け、もう二度と男の子は後ろの席を覗き込むことはなかったのでした。

おじさんは安眠を手に入れ、俺は子供の目を気にすることなく逆転裁判を楽しめたのでした。

怖い本買って良かった!

夜でも都市や町が明るくなって、おばけや妖怪の居場所がなくなり、子供が怖いものに恐れなくなっている今だからからこそ、カウンターのように「まさかこんなところで怖い目にあうとは」みたいな今回の活躍が続くよう、今後も怖い話には常に意識的に行動していこう、と心に誓ったのでした。

では、最後に、男の子がショックを受けた本の表紙をご覧ください。

#雑記 #沖縄 #怪談

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