facebookのコピー

怪談『知り合いかも?』

「フェイスブックの機能に、『知り合いかも?』ってのが、あるじゃないですか」

二児の母親である持田さんは言った。

「自分のタイムライン見てると、途中で表示されるやつです」

要するに、この人はあなたの知り合いではないか、とフェイスブックが判断して他人のアイコンと名前を表示してくるものだ。

「昔の知り合いや小学校や中学校の頃とかの同級生を見つけたりするのに便利だから時々は使ってたんですけど、最近はあまり見もせずに無視してたんですけど」

その人物が表示され始めたのは、一月前ほどの頃であったという。

「近藤、って名前で、顔写真も表示されてました。でも、共通の友人が一人もいなくて」

『知り合いかも?』の名前とアイコンの下には、自分とその人物の共通の知り合いの数が一緒に表示されるのだ。

「だから最初は本当に気にもしてなかったんです。でも、毎日、いつログインしてもその、近藤って人が表示されるから、気になってきちゃって」

果たしてそんな人物が知り合いにいただろうか? と考えるようになった。

「で、顔写真みても、なんか、印象にないというか」

同い年くらいの男性の顔で、痩せ型で、眼鏡をかけている以外は特に特徴もない顔だという。

「でも、アイコンの写真の、なんていうか、画質が荒くて。多分ですけど、何かしてる最中の自分が写ってる写真の、顔の部分だけ無理矢理アップに引き伸ばしてるような。そんな感じです」

近藤は、ジャージのようなものを着ており、右下の方に顔と体を向けているのだという。

「でもそれって変じゃないですか。自分のアイコンですよ? 普通、もっと写りのいい写真を用意するだろうし、そもそも、カメラ目線が普通じゃないですか」

それが普通かどうかはさておき、多くの人がカメラ目線の写真を用意することは同意できる。

「で、余計に気になってて。でも、その時はそれで終ってたんです」

様子が変わったのは、二週間前だという。

持田さんは、その日付を言った。

「その日、フェイスブックの通知が来て。見ると、友達の申請がありました、って」

持田さんが確認すると、友達申請をして来たのは、近藤であった。

「吃驚しました」

近藤から申請があったことも驚いたが、それだけではなかった。

「アイコンの写真が、こっちを見てたんです」

今まで右下の方に体と顔を向けていた近藤の写真が、カメラ目線のように、持田さんの方を真っ直ぐに見ていたのである。

「新しい写真じゃないんですよ。今までの写真と同じなんです。同じなのに、顔と体だけ、こっちを見てるんです」

驚いた持田さんは、震える指先で、初めて近藤のページを表示してみた。

「アイコン用の写真以外は何も投稿がありませんでした」

あとは、トップにプロフィールページが表示されているだけであった。

「それがすごく……変、でした」

変、とは?

「これです」

持田さんは、プリントアウトした用紙を見せてくれた。


近藤 一雄

ぞぞっぞぞぞおおおぞおおぞおぞおぞずずっずずずぞうおぞうお

くひっくっくひひひひくびひっくっくびきひひくびきっきっきい

うっくううくうっくうつくくびひくひひくひくつずずぞぞぞうお

あっはあああっはあたまはあはあなたはああっはっはあはきっひ

じゃなくて、じゃなくて、じゃなくて、じゃなくて、てえ。てえ!


「変じゃないですか?」

変ですね。

「思わず閉じて、そして、次また表示されたら非表示にしよう、と思ってたんです」

しばらくして、小学校の頃の同級生から、フェイスブックでメッセージが来たという。

「近藤って同級生が死んだので、香典を集めてるって、連絡でした」

え? その近藤さんって。

「あの、近藤、でした」

驚いた持田さんは、メッセージで同級生に尋ねた。

「自殺だったみたいで、近藤君のお母さんから連絡があったんだって」

どうする? と、持田さんは同級生に訊かれた。

「どうするってなにが? って、訊き返しました。そしたら」

近藤って、私らみんなで虐めてたやつじゃん。と、言われた。

「もっと吃驚しました」

持田さんには、そんな記憶も、心当たりもない。そのことを告げると、同級生は、

『私だってそうだよ。皆そう言うんだよ。でも、覚えてなかったり、意識してなかっただけで、みんな、近藤君のこと虐めてたらしいんだよ』

そう近藤の母親に言われたのだという。

「だって記憶にないのに。近藤のことだって覚えてもないのに」

持田さんがそう言うと、

『私だって覚えてなかった。でも、友達申請あったでしょ』と、言われた。

『持田も無視してたでしょ。私も。そういうことなんだよ。無視してるのは、同じことなんだって』

「そのまま、フェイスブックの、近藤のページをもう一度、表示してみました」

持田さんは一件だけ投稿されていた、アイコン用の写真をクリックしてみた。

「アイコンの写真は、何かの写真の自分の顔の部分だけ引き伸ばしてたやつだったんですけど、その写真は、それの元になったやつでした」

持田さんは、もう一枚プリントアウトした用紙を差し出す。

 

写真の中の近藤は、カメラ目線で、こちらを見ていた。

そしてその体の先には二本の腕が伸びており。

その腕は、ロープを掴んでいる。

ロープは木の枝に結ばれて垂れ下がっており、その先は輪っかになっていた。

 

『近藤が死んだのって』

同級生は、その日付をメッセージに書き込んだ。

それは、持田さんに近藤から友達申請があった日だという。

「でもこのアイコンの写真って、それよりも前から同じなはずなんですよ。じゃあ、この写真は、いつ撮られたやつで、これを撮ったのは、誰なんでしょう? ていうか、私は近藤の友達申請、無視したままで良いんですかね?」

もうネットやめたらいかがですか。

※登場する人物名は、全て仮名です。

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