ボードゲームの複雑性

※この記事は以前ブログに書かせていただいた記事をnoteへ移動および加筆修正したものになります。

今回の記事は『ボードゲームの複雑性』について書きたいと思います。

複雑性というと重いゲーマーズゲームの話かな?と思うかもしれませんが、むしろミニマルなデザインのゲームほど重要な話なのです。ザックリ言うと「考えどころがナッシン」と言われない為にはどうすればいいの?というような話です。

割りと基礎的な話ですが、これからゲームを作られる方の参考になれば幸いです。


ゲームには複雑性が必要

ゲームの楽しさには、色々な要素があります。
すこし例をあげると、世界観やギャンブル的な高揚感、何かを作り上げたことによる達成感、他プレイヤーとのコミュニケーションなどなどです。
そして、そのうちの一つとして、ゲームが複雑で考えどころが多い、つまり思考することが面白いということも挙げられると思います。

今あげた、ゲームをするうえでの「思考」の面白さに注目して、ゲームが面白くなくなる例を考えます。

この手の話では三目並べ(○✕)の例がよく使われます。
三目並べがゲームとして面白くない理由は、プレイヤーにとって解析済みのゲームであるからです。
三目並べをはじめて知った子供にとっては三目並べが解析済みでないため、楽しむことが出来ます。しかし、三目並べはあまりにも簡単であるため、すぐに解析出来てしまい、つまらなくなります。
つまり、誰もがすぐに解析できてしまうゲームの複雑性の低さがつまらなさの原因と言えます。

ゲームを面白くするためには、ある程度の複雑さが必要だということです。


また、ゲームが複雑だと、ゲームの攻略に時間がかかり長く楽しむことが出来ます。つまり、複雑なゲームほどリプレイ性も高くなってきます。

とはいえ、ゲームのルールを凄く複雑にすればそれでいいのかというと、実際にはなかなかそうはいきません。(ゲーマーズゲームならそれでもいいかもしれませんが……)。
なぜなら、ルールが複雑だと、初めてやる人が非常にやりにくくなるからです。つまり、実際には、ゲームのルールはシンプルで導入しやすくした上で、攻略を難しくする必要があるのですが……


とにかく、面白いゲームを作る上で、複雑性は絶対的に必要な要素であることは間違いありません。しかし、複雑性が必要とはいっても、自分が作ったゲームがどれだけの複雑性があるのかというのは客観的に評価するのは難しいものです。よって、以下で複雑性を評価する指標について少し述べます。


複雑性の評価指標

ゲームの複雑性を評価する方法としてゲーム木による方法があります。
ゲーム木とは、ゲームにおけるプレイヤーの選択などによる局面の変化を木の分岐として表したもので、ゲーム理論などで用いられます。
ゲームの複雑性はこのゲーム木の末端の枝の数が1つの指標となります。

このゲーム木が複雑であるほど、プレイヤーはたくさんの局面を考慮して選択する必要が生じることになり、複雑性が増し、難度も増すことになります。

といってもゲームの作成時に、ゲーム木の末端の枝の数を実際に数えるわけではありません。
あくまでも、ゲーム木の特性を理解した上でゲームを作ることで、複雑性がちゃんと増加しているかどうかを確認するのが目的です。

例えば、プレイヤーの選択肢が多いゲームは少ないゲームより複雑になりますが、一回の選択肢がすくなかったとしても、プレイヤーの選択の回数が多いゲームは複雑になり得ます。
2択しかなくとも、選択の回数が非常に多ければ、複雑なゲームになり得るのです。


複雑性とランダム要素

さて、プレイヤーの選択肢を増やす以外にも効果的にゲームを複雑にする方法があります。
それは、ランダム要素を入れることです。
ランダム要素というと、なんだかゲームが簡単、初心者向けになる気がしますが、実際はランダム要素を入れることはゲームを複雑にし、難度を上昇させます。

先程のゲーム木を想像しましょう。
ゲームにランダム要素、例えば、山札からカードを引くといった要素がある場合、それはゲーム木上で分岐として表現されます。
プレイヤーがゲームを解析し、最善手を打つためには、これらのランダム要素による分岐を全て考慮する必要があります。
もし、山札からカードを引くのではなく、ある順番に従ってカードを獲得するとした場合、ゲーム木は分岐することがないため、容易に先読みをし、最善手を打つことが可能になります。

ランダム要素はプレイヤーに無駄に多い選択肢を与えることなく、ゲームを複雑にすることができる重要な要素であるといえます。


ランダム要素の罠

さて、ランダム要素を導入することで、ゲームを複雑にすることができると言いましたが、ランダム要素を入れるうえで、注意しなければならないことが2つあります。

まずは1つ目として、ランダム要素の中には簡単に計算できてしまうものがあるということです。

例えば、以下のような例を考えます。

プレイヤーは手番で以下2つのアクションから1つを選びます。
A : 勝利点2点を得る。
B : ダイスを振って偶数が出たら勝利点3点を得る。
この選択では、基本的にAを選択するのが最善手であることが明らかです。

これはBを選択した際の、結果の期待値(3×1/2 = 3/2)が簡単に計算が可能であり、それがAを選択したときに得られる勝利点より小さいためです。

このように、ランダム要素の中には期待値として簡単に計算できてしまうものがあるので、注意が必要です。最善手が明白なので、ゲーム木の分岐が事実上無くなってしまうのです。

特に、ダイスの目は確率および期待値の計算が容易なので、ダイスの目毎に別の効果が生じるなど、期待値が簡単に計算出来ないようにする対策が必要になります。

注意すべきことの2つ目として、ランダム要素が大きくなりすぎると、勝敗をランダム要素が左右しかねないということがあります。

プレイヤーの選択の差よりもランダム要素の影響の方が大きくなりすぎると、プレイヤーの選択の差によって勝率の変化が生まれにくくなり、「先読みをする価値がない」=「複雑性が面白さに寄与しない」、という現象が発生してしまいます。

思考の面白さを実現するには、プレイヤーの選択が必ず勝率を変化させる必要があることを認識しておきましょう。


その他に先読みの価値がなくなる場合

さて、選択により勝率の変化が生じないと先読みの価値がなくなると言いましたが、それ以外にも先読みの価値がなくなる場合があります。

手番による選択が独立になっている場合です。

少し難しいので、例を使って示します。分かりやすい例として「ハゲタカのえじき」というゲームを考えましょう。

「ハゲタカのえじき」は中央に公開された得点カードに対して、各プレイヤーが手札の1〜15の数字カードを裏向きに出して同時公開し、最も高いカードを出したプレイヤーが得点カードを獲得するといったようなゲームです。バッティングしたら、次点のプレイヤーがカードを獲得します。

このゲームでは、初期手札は固定でそれぞれのカードは一度しか使えないため、どこで大きな数字で勝負し、どこで小さな数字を捨てるかという計画をする必要があります。

しかし、このゲームが毎手番15枚全てからカードを選べるとしたらどうでしょう?

後半の選択肢が増えたため、ゲーム木を考えると複雑性が増えています。しかし、実際にプレイすると全く違う感想を持つはずです。

このゲームでは毎手番、最強、もしくはバッティングを避ける為にその少し下のカードを出すことになると思います。

何故なら、このゲームでは各手番の行動が次の手番に全く影響を与えないからです。小さい数のカードをどう処理するか、などということを考える必要は全くなく、各手番の思考が全て同じになってしまうのです。

この場合、ゲーム木はゲーム全体ではなく、各手番レベルの部分木だけを評価すれば良いことになり、ゲームが非常に単純化します。

これを避ける為には、各手番での選択が後のゲームに影響を与え続けるような仕組みを導入し、手番間の関連性を強める必要があります。


まとめ

今回の話をまとめます。

・ゲームにはある程度の複雑性が必要である
・ゲームの複雑性はゲーム木の分岐を利用して評価できる
・ゲーム木の分岐はプレイヤーの選択だけでなく、ランダム要素によっても発生する
・ランダム要素は、期待値計算が簡単だと複雑性を向上させない
・ランダム要素の影響が強すぎると、選択が勝率に結びつきにくくなり、先読みの価値がなくなるため、複雑性が面白さに寄与しなくなる
・先読みの価値を上げる為には、各手番の選択が後のゲームに影響を与えるようにしたほうが良い

今回の話はあくまで「思考」の面白さに注目した話ですので、パーティーゲームを作る場合には関係ないかもしれません。


しかし、ゲームの複雑性を考慮することは、意味のない選択や余計なランダム要素を避け、思考を楽しむゲームを作る上で大きく貢献してくれることと思います。

特に、ミニマルなゲームを作る際には重要度が高いので、ぜひ参考にしてみてください。

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