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〈ソーシャルデザインに必要な力〉を測る32の指標とは? 2019年度の「社会創造演習」を振り返る②

第1回の記事では、「社会創造演習」から生まれたマイプロジェクトをダイジェストで紹介してきました。久しぶりに「noteのおすすめ」にもピックアップしていただくなど、多くの人に届いて嬉しかったです◎

2回目となる今回は、授業での学びを可視化するためのアンケートについて、どんな指標を用意し、全体としてどんな傾向がみえてきたのか、簡単にご紹介したいと思います。

※メイン写真は、いつもの風景を亀や花などの視点で切り取るプロジェクト「ANOTHER ROUTINE」より



〈目次〉

第1回
そもそも「社会創造演習」って?/例えばこんなマイプロジェクト7選!

第2回
〈ソーシャルデザインに必要な力〉を測る32の指標/アンケート結果(全体編)/2020年度の32の指標


第3回
「〈本来の自分〉として一念発起する力」とは/〈本来の自分〉編のネタ元/〈本来の自分〉編のアンケート結果

第4回
「秘められた〈リソース〉に光を当てる力」とは/〈リソース〉編のネタ元/〈リソース〉編のアンケート結果

第5回
「日々の煩悩を〈ほしい未来〉に転じる力」とは/〈ほしい未来〉編のネタ元/〈ほしい未来〉編のアンケート結果

第6回
「必要な〈デザイン〉を自在に実現する力」とは/〈デザイン〉編のネタ元/〈デザイン〉編のアンケート結果

第7回(※近日公開!)
総まとめ


中途半端だった2018年のアンケート

そもそもソーシャルデザインの学びのアンケートをしっかり取り始めたのは、着任3年目となった2018年度からでした。

きっかけは2年目の壁にぶつかったこと。定性的な感覚だけでなく、もう少ししっかりとした手応えがほしいという思いで手にとった数多の本のうち、中野民夫さんの『学び合う場のつくり方―本当の学びへのファシリテーション』の中に、僕の授業にもいかせそうな理想的な授業アンケートを見つけたのでした。

それを叩き台にカスタムして作成したのがこちらの2018ver(旧バージョン)です。

この時点で既にソーシャルデザイン曼荼羅の原型はできていたので、4つの力×4項目=16の指標で試みてみました。

その結果、初回→期末の推移で、「自分の本当にやりたいことが、よくわからない」と思わない学生が2倍に、「自分のちょっとした一言で、誰かの背中を押すことがある」と思う学生が3倍に、「本人は気づいていないよいところを、明確にフィードバックすることができる」と思う学生が2倍に、「自分の弱みを受け入れる、だけでなく、強みに転じることができる」と思う学生が3.5倍に、「自分のアイデアを人前で発表することができる」と思うが2.5倍になる、といった結果となりました。(ただし「どちらかというと」も含まれています)

この初回、中間、期末の推移を見ていくことで、カリキュラムづくりにも大きな手応えを感じたのですが、指標の中にマインドセット(ある価値観や考え方が重要だと思えるかどうか)、スキルセット(重要だと思えることを実際にできるかどうか)の2種類が混在してしまい、本当に身に付いたかどうかわからないなあ、というところが反省点でした。


マインドセット編とスキルセット編の両輪で

そこで、2019年度は文言を微調整しつつ、マインドセット(M)とスキルセット(S)を明確に分けることにしました。そして、マインドセットの1つめの項目をM1、スキルセットの1つめの項目をS1としたとき、M1とS1がしっかりと対応するように構成してみました。

例えば、「M6. 本人は気づいていないよいところを誰でも持っている」を「思う」と答えたとしても、必ずしも「S6. 本人は気づいていないよいところを、明確にフィードバックすることができる」と「思う」わけではありません。このMとSのギャップがどのように推移していくのかにも、注目していただけたらと思います。

というわけで前段が長くなってしまいましたが、こちらが2019ver(新バージョン)のアンケートです。マインドセット編とスキルセット編の両面印刷で、M1〜M4とS1〜S4が〈本来の自分〉編、M5〜M8とS5〜S8が〈リソース〉編、M9〜M12とS9〜S12が〈ほしい未来〉編、M5〜M8とS5〜S8が〈デザイン〉編の問いとなります。

このアンケートを初回、中間、期末に取りますが、学生にはその前のアンケートの回答を見直してもらうことはせず、純粋にそのときの直感で選んでもらっています。


アンケート結果からわかったことは?

各指標の解説はそれぞれの記事にゆずりますが、ここでは全体の傾向について分析したいと思います。

まず、単位取得予定者数66名のうち、初回、中間、期末の3回とも回答してくれたのは37名(56%)。今回のスコアは、その37名分のみで行っています。通常の出席率は50名(85%程度)だったりもするので、クラス全体の傾向を掴むという意味ではぎりぎりOKかなという判断です。

また、積極的なグループだけの回答に偏っていないかどうか、という点については、思っていたよりも万遍なく拾えている、と思っています。その理由は以下のとおりです。

「★マルシェ経験者」の有効回答者数は21名のうち9名でした。「★マルシェ経験者」というのは、グループの中の人だけでなく、外の人向けにもマイプロジェクトを体験できる挑戦をした、つまりマイプロジェクトを2周した学生たち。つまり、クラス全体のなかでは比較的積極的なグループといえます。

一方、「※レポート選択者」の有効回答者数は18名のうち8名でした。「※レポート選択者」というのは、通常はクラス全体の前でプレゼンテーションを必須としていたのですが、やむをえない事情によりプレセンを辞退した学生たち。つまり、一概にはいえませんが、消極的なグループといえなくもありません。単純に計算すると★:★※以外:※=9:20:8となり、いわゆる2:6:2の法則に近い数字となっています。

また、Aさんとなった学生は当初から積極的であり、Bさん、Cさんはそれに続き、Dさんはどちらかというと様子を見ていた、やや消極的なグループになります。それを単純に計算するとA:B+C:D=9:16:12となり、Cさんが極端に少なかったのは気になりますが、それほど偏りはないと判断しました。

ということで、3つだけ大きな傾向をご紹介します。



【1】マインドセットとスキルセット両方とも成長が見られた!

まず、「思う」=3pt、「どちらかというと思う」=2pt、「どちらかというと思わない」=1pt 、「思わない」=0ptとし、その平均値を並べてみました。

また、前回の記事でご紹介したとおり、シラバスとしては初回→中間は座学+体験版のワークショップ、中間→期末はマイプロ実行ということで、初回→中間(前半)はマインドセット、中間→期末(後半)はスキルセットをそれぞれ身に付けることにフォーカスしています。

その結果、マインドセットは初回(2.0)→中間(2.2)→期末(2.4)、スキルセットは初回(1.6)→中間(1.9)→期末(2.1)となりました。うーん、よかった!

マインドセットは初回から「思う」「どちらかというと思う」と答えた学生が多く、それが期末ではより明確に「思う」と答える学生が増えました。

一方、スキルセットの方は「どちらかというと思う」と「どちらかというと思わない」が均衡していましたが、期末では「どちらかというと思う」も含めて「思う」方向に底上げされた、という結果です。



【2】マインドセットとスキルセットの差がちょっとだけ縮まった!

考え方が変わった(M)としても、実際にできるかどうか(S)はわかりません。つまり基本M>Sとなるはずですが、その差がごれくらいあるのか、という点は、アンケートを作成する上でもっとも確かめたいことのひとつでした。(M<Sとなるのはズレたアンケートになっているはずなので)

その結果、初回ではM-S=0.4で、明確に差がありました(ほっ)。また、中間と期末ではM-S=0.3となり、0.1とわずかではありますが、マインドとスキルの差が縮まったといえなくもありません。ここは、初回→中間(前半)、中間→期末(後半)でグラフの傾きが変わってくるのかなと想定していたので、同じように上昇したというのは少し以外な結果ではありました。



【3】実践でマインドセットも成長する

最後に〈本来の自分〉、〈リソース〉、〈ほしい未来〉、〈デザイン〉の個別の平均値に注目しつつ、示唆的な結果を眺めていきたいと思います。

前にも書きましたが、初回→中間(前半)はマインドセット、中間→期末(後半)はスキルセットを高めることが狙いでした。しかし、M〈本来の自分〉とM〈デザイン〉は、初回→中間(前半)よりも中間→期末(後半)に大きな成長がみられました。

実践でマインドセットも成長する、というのは当たり前のことではありますが、中間のデータで一喜一憂する必要はないのかな、という安心材料にもなりました。

ただ、S〈本来の自分〉は、逆に初回→中間(前半)で急激な成長を見せていました。これは、もしかすると「ここ最近、自分の可能性を最大限に発揮できている実感がある」などとしたM〈本来の自分〉の指標が厳しすぎたということかもしれません。そのあたりの文言は引き続き調整が必要かなと思いました。


アップデートされた2020年度バージョン!

ということで、2019verをさらにアップデートした、(気が早いですが)来年度に使用する予定の2020ver(最新バージョン)が以下になります。ご参考までに◎



結果的に右肩上がりとなりそれはそれで嬉しかったのですが、ちょっときれいな上がり方なので、本当なのかな?と感じた方もいるかもしれません。ひきつづき次回から、〈本来の自分〉編、〈リソース〉編、〈ほしい未来〉編、〈デザイン〉編と細かく分析してゆきたいと思います。

第3回につづく〉


はじめまして、勉強家の兼松佳宏です。現在は京都精華大学人文学部で特任講師をしながら、"ワークショップができる哲学者"を目指して、「beの肩書き」や「スタディホール」といった手法を開発しています。今後ともどうぞ、よろしくおねがいいたします◎