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菩薩たちからの〈16の問い〉 【ソーシャルデザイン"問い"曼荼羅 vol.3】

前回は、ソーシャルデザイン曼荼羅のモチーフとなっている五智と、それらをソーシャルデザインの文脈で再解釈した、ソーシャルデザインを成功に導く 〈5つの力〉をご紹介しました。

ソーシャルデザインに必要な〈5つの力〉 ≒ 五智
一.〈本来の自分〉として一念発起する力 ≒ 大円鏡智
二. 秘められた〈リソース〉に光を当てる力 ≒ 平等性智
三. 日々の煩悩を〈ほしい未来〉に転じる力 ≒ 妙観察智
四. 必要な〈デザイン〉を自在に実現する力 ≒ 成所作智
五. 大いなる〈源泉〉を生きる力 ≒ 法界体性智

では、実際に〈5つの力〉を身につけるためにはどうしたらよいのでしょうか? そのヒントとなるが、第一回でもちらっと触れた十六尊による"問い"曼荼羅です。

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阿閦如来は青、宝生如来は黄、阿弥陀如来は赤、不空成就如来は緑、大日如来は白と、五智如来にはそれぞれ象徴する色があります。また、各ユニットの中でも、各菩薩の座る位置によって序列(つまりステップ)があります。そこでここでは青⓪〜青④、黃⓪〜④、赤⓪〜④、緑⓪〜④、白⓪と番号をふってみることにしました。

それらをまとめると、どんな存在として(青⓪〜青④)、何を生かして(黃⓪〜④)、何に向かって(赤⓪〜④)、どんな方法で(緑⓪〜④)、どこから(白⓪)、ソーシャルデザインするのかという問いとひとつずつ向き合っていくことになります。

以前も書きましたが、【Who?】【Which?】【Why?】【How?】【Whence?】という五智如来の問いは別格です。それらを分解して、さらなるヒントを与えてくれる存在が、大日如来以外の四仏の四方にいる十六大菩薩です。(なぜ、大日如来の周りの菩薩をカウントしないのかについては、白⓪【Whence?】の記事で後述します)

つまり、この曼荼羅には、青⓪、黄⓪、赤⓪、緑⓪、白⓪という〈根本的な5つの問い〉と、青①〜④、黄①〜④、赤①〜④、緑①〜④という〈ヒントとしての16の問い〉が並んでいることになります。そして特に後者の〈ヒントとしての16の問い〉が、ソーシャルデザインを志す人にとってこの上なく参考になるのです。


〈目覚めた人〉に至る16のステップ

そもそも密教では、五智はわたしたちひとりひとりに既に備わっていると説いています。そして、それに気づいている人=〈目覚めた人〉であり、まだ気づいていない人=〈迷える人〉というのが、密教における悟りのシンプルな定義です。

厳密に言えば、五智は一歩一歩進んでいくステップではなく、同時に遍満していることになるのですが、私たちはまだまだ〈迷える人〉だったりします。そこで密教では、〈目覚めた人〉の心を澄み渡った満月に例え、〈迷える人〉が〈目覚めた人〉へと至るプロセスを、十六日をかけて新月から満月へと満ちていくように、金剛薩埵(青①)から金剛拳菩薩(緑④)に至るまでの道筋と重ねています。

つまり、〈ヒントとしての16の問い〉に答えていくことが、結果的に〈根本的な5つの問い〉に答えることであり、それこそが菩薩道≒ソーシャルデザインの成就へと向かう具体的なプロセスとなる、というのが僕の見立てです。

大円鏡智の故に平等性智に気づき、平等性智の故に妙観察智に気づき、妙観察智の故に成所作智に気づく。そして、それらの四智の成就により法界体性智を自覚していく。その最初の一周目は、〈迷える人〉としての菩薩道≒ソーシャルデザインといえます。

そして、この魅力的な旅路はここで終わりではありません。〈迷える人〉としての菩薩道をクリアした先には、新しい世界が待っています。それこそが、五智が既に備わっていることを知っている〈目覚めた人〉としての菩薩道≒ソーシャルデザインであり、私たちひとりひとりの可能性が満遍なく発揮されている、本来の世界のあり方だと思うのです。


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ほしい未来をつくる16の問い
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【Who?】〈本来の自分〉として一念発起するための4つの問い

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青① 金剛薩埵の問い【本来はどんな人?】
青② 金剛王菩薩の問い【何を思い出す?】
青③ 金剛愛菩薩の問い【何を深める?】
青④ 金剛喜菩薩の問い【何を褒める?】

五智如来のひとりめ、阿閦如来大先生の問いは【Who?】、つまり「どんな存在として、ソーシャルデザインをするのか?」です。ソーシャルデザインを実践する上で揺るぎない土台となるのは、何よりも自分自身です。ここでは、自分の足場を固めていくための問いが続きます。

青① 金剛薩埵の問い「本来はどんな人?」
阿閦如来が発した「もともと満月」という発心のおまじないによって心を落ち着かせ、〈本来の自分〉として一念発起する力を身につけるために、まずは現状を把握し、

青② 金剛王菩薩の問い「何を思い出す?」
何事にも畏れず、王のように堂々とあるために、自分のこれまでのストーリーを思い出して、ずっと変わらない自分に気づき、

青③ 金剛愛菩薩の問い「何を深める?」
自分を惑わすような誘惑に負けないように、深い喜びが得られる時間を日常の中で確保して、

青④ 金剛喜菩薩の問い「何を褒める?」
〈本来の自分〉としての日々の成長を自ら祝福し、阿閦如来が発した「わたしの仕事は、(自分の名前)」という忍辱のおまじないとともに、〈本来の自分〉として一念発起できていることを改めて確認する


【Which?】秘められた〈リソース〉に光を当てるための4つの問い

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黃① 金剛宝菩薩の問い【何が手元にある?】
黃② 金剛光菩薩の問い【何を見出す?】
黃③ 金剛幢菩薩の問い【何を叶える?】
黃④ 金剛笑菩薩の問い【何を祝う?】

五智如来のふたりめ、宝生如来大先生の問いは【Which?】、つまり「どれをいかして、ソーシャルデザインをするのか?」です。ソーシャルデザインを可能にするのは、既にあるリソース(資源)です。ここでは、その場のポテンシャルを最大化するための問いが続きます。

黄① 金剛宝菩薩の問い「何が手元にある?」
宝生如来が発した「すでに受け取っている」という福徳のおまじないによって心を落ち着かせ、秘められた〈リソース〉に光を当てる力を身につけるために、まずは現状を把握し、

黄② 金剛光菩薩の問い「何を見出す?」
その場のポテンシャルを引き出すために、与えられた条件の秘められた可能性に光を当てるような問いと向き合い、

黄③ 金剛幢菩薩の問い「何を叶える?」
「できない理由」など可能性の発揮を阻むもの、さまざまな畏れを取り除くために、できる範囲でそれぞれのニーズを満たし、

黄④ 金剛笑菩薩の問い「何を祝う?」
もともと秘めていた可能性が十分に発揮されていることを祝福し、宝生如来が発した「できるだけサンタで」という布施のおまじないとともに、秘められた〈リソース〉に光を当てることができていることを確認する。


【Why?】日々の煩悩を〈ほしい未来〉に転じるための4つの問い

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赤① 金剛法菩薩の問い【何にモヤモヤしている?】
赤② 金剛剣菩薩の問い【何を手放す?】
赤③ 金剛因菩薩の問い【何を目指す?】
赤④ 金剛語菩薩の問い【何を願う?】

五智如来の3人目、阿弥陀如来大先生の問いは【Why?】、つまり「どこに向かって、ソーシャルデザインをするのか?」です。慈悲の心から生じた〈ほしい未来〉こそ、ソーシャルデザインの担い手を導くコンパスとなります。ここでは、煩悩を慈悲に転じるための問いが続きます。

赤① 金剛法薩埵の問い「何にモヤモヤしている?」
阿弥陀如来が発した「“もうひとりのわたし”のために」という慈悲のおまじないによって心を落ち着かせ、日々の煩悩を〈ほしい未来〉に転じる力を身につけるために、まずは現状を把握し、

赤② 金剛利菩薩の問い「何を手放す?」
モヤモヤに振り回されないように煩悩の背景を掘り下げ、それが自分ひとりの悩みではないこと、社会の矛盾と深く結びついていることを自覚し、

赤③ 金剛因菩薩の問い「何を目指す?」
〈ほしい未来〉を見つけるために、モヤモヤを転じたことで見えてきた大きな問いの中から、自分ごととして取り組んでみたいことを選び、

赤④ 金剛語菩薩の問い「何を願う?」
〈ほしい未来〉を言葉にして周りの仲間と共有し、阿弥陀如来が発した「モヤモヤこそメッセージ」という智慧のおまじないとともに、煩悩を〈ほしい未来〉に転じることができていることを確認する。


【How?】必要な〈デザイン〉を自在に実現するための4つの問い

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緑① 金剛業菩薩の問い【どこから始める?】
緑② 金剛護菩薩の問い【何を身に付ける?】
緑③ 金剛牙菩薩の問い【何を打ち破る?】
緑④ 金剛拳菩薩の問い【何を振り返る?】

五智如来の4人目、不空成就如来大先生の問いは【How?】、つまり「何に向かって、ソーシャルデザインをするのか?」です。〈デザイン〉において大切なのは、他者にとって押し付けにならないことです。ここでは、本当に必要なことを見極めて、それを実践していくための問いが続きます。

緑① 金剛業薩埵の問い「どこから始める?」
不空成就如来が発した「ほしい未来は、つくろう」という精進のおまじないによって心を落ち着かせ、必要な〈デザイン〉を自在に実現する力を身につけるために、まずは現状を把握し、

緑② 金剛護菩薩の問い「何を身に付ける?」
〈ほしい未来〉を実現していくために、いま足りていないこと、伸ばしていきたいことを整理し、さらに知識やスキルを高めて、

緑③ 金剛牙菩薩の問い「何を打ち破る?」
さまざまな壁とぶつかったときでも自分を見失わないように、さまざまな葛藤や焦りを受け入れ、じっくりと向き合い、

緑④ 金剛拳菩薩の問い「何を振り返る?」
これまでにできたこと/できなかったことを仲間と振り返り、不空成就如来が発した「よきなな、つとめよ」という精進のおまじないとともに、必要な〈デザイン〉を自在に実現できていることを確認する。

四仏を囲む十六大菩薩の問いはここまでです。ちなみに金剛薩埵から金剛拳菩薩までの16ステップは、16日をかけて新月が満月へと満ちていく道のりにも喩えられています。

そして以下は、真言密教の本尊である大日如来からの、もっとも深淵な、究極の問いです。


【Whence?】大いなる〈源泉〉を生きるための問い

白⓪ 大日如来の問い【Whence?】

ソーシャルデザインの起点は、いったいどこなのでしょうか? 私たちは何を果たすために、ソーシャルデザインをしているのでしょうか?

そのヒントとなるのが、大日如来が発する「わたしは、ここにいる」「ぜんぶ、もうひとりのわたし」という法界のおまじないです。それをありありと感じられる時間と空間を見つけて、大いなる〈源泉〉を生きていることを確認してみてください。


ということで次回は、 阿閦如来の問い【Who?】をざっとみてゆきたいと思います。お楽しみに!

[ つづく ]

images: Buddhist Images Resource


はじめまして、勉強家の兼松佳宏です。現在は京都精華大学人文学部で特任講師をしながら、"ワークショップができる哲学者"を目指して、「beの肩書き」や「スタディホール」といった手法を開発しています。今後ともどうぞ、よろしくおねがいいたします◎