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インタビュアーのトレーニング②~インタビュアーに必要な知識

インタビュアーの仕事の基本は人の話を聴くことにほかならず、言語的なコミュニケーション能力があれば誰にでもできることだと言えます。しかし現実的には能力のレベルの差というものがあるわけで、その要因の一つが前回に説明した資質の問題です。その他には知識の問題があります。

まず、インタビュアーに必要な知識のうちで最も重要なものは当然のことですが「インタビュー調査に関する専門知識」です。これはインタビューの基礎理論であったり、実務的な運用の知識などが該当します。例えば、グループダイナミクス理論であったり、インタビューの分析手法、リクルートの手順や対象者の接遇、インタビュールームの利用の仕方、書記の業務、インタビューフローの作成法などなです。それらは多くの場合、調査会社のOJTで教育されるのですが、基礎理論や分析方法、フローの作成法などについては意外と知られておらず、自己流であることがほとんどです。即ち、体系的な教育訓練が行われていることが稀であるということです。これは重大な問題なのですが、定性調査に対しての認識や理解が低いことから日本ではなおざりにされているのが実態です。かつては、私の師匠が「油谷アカデミー」や「梅澤グループインタビューカレッジ」といった専門教育の場を提供されていましたが、現在それに相当する場は見当たりません。短期間での基礎的なセミナーが中心となっています。それらと、前者の違いはその教育に費やされる時間の他に、油谷先生や梅澤先生が自ら商品開発を手掛けられるようなマーケターとしての視点やスキルを持っておられたということにあります。即ち「クライアントの視点」を持っておられたということです。これは、調査結果をどのように利用すれば現場のマーケティングに役立てられることができるのか、という視点です。調査の提供側と利用側の両方を一人二役で体験されたが故なのですが、これまた、調査会社のOJTでは教育しきれない部分です。しかし、これが分かっていないと独りよがりの調査になってしまうということになります。先生方はこの部分を教えられていた、というのが昨今のインタビューセミナーとの最大の違いであるとOBである私には感じられます。

※インタビューにかかわるならば、少なくとも先生方のインタビューに関する著作にはあたっておかれることをお勧めしたいと思います。

つまり、マーケティング現場で行われている業務に関する知識、特に調査情報を活用した業務のあり方に関する知識、というのがインタビュアーにとって重要なものであるわけです。これはリサーチャー一般においても同様なのですが、インタビューの現場で適宜確認のポイントをその場で単独で瞬発的に判断しなければならないインタビュアーにおいては特に、その「現場業務の勘所」が押さえられている必要があるということです。現場で業務をこなしている人たちがこの話を聴いた時に何を確認したいと考えるのか?ということがその場でインタビュアーが判断する必要があるからです。

これはマーケティング学に関する知識とは一線を画していると私は思います。またそれは「業界知識」でもありません。

この「勘所」の有無が、調査業界しか経験していないリサーチャーと、いわゆる事業会社を経験しているリサーチャーの決定的な違いであると感じられます。

つまり、インタビュアーは調査業界での実務に関するOJTに加え、インタビューの体系的教育を受けており、さらに、事業会社でのマーケティング業務の経験・知識があることが望ましいということになります。

インタビュアーについては「心理学的な知見」が必要であるとはよく言われます。しかし私は心理カウンセラーのようなプロとは異なり(すなわち、病的な心理などについては対象にする必要はなく)、インタビューとマーケティングに関する知見さえあれば十分だと思います。それは端的に言うと「コミュニケーション」と「ニーズ」に関する心理学的な知見です。

業界知識や技術的知識については、それがあることがアスキングによるS/C領域への侵入を生んでしまう、すなわち有害になる可能性がある、ということは繰り返し説明してきました。しかし、インタビューの分析以降の後工程においては、それがあることで、具体的なアイデアを出すことにつながります。即ち、後工程のことを考えると、無いよりはあった方が有利だと言えます。しかし、インタビュー実査においてはそれを使わないようにセルフコントロールができるインタビュアー、すなわちメタ認知能力のあるインタビュアーならば、という条件がつくことになります。





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