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インタビュー調査の進行と課題④~ウォーミングアップ

さて、趣旨説明で「皆さん同士の自由な話し合いをお願いします」であるとか、「話題に対して思いつくことを何でも自由に聴かせてください」などと言われても、インタビュー調査というものは一般的には一問一答だと思い込まれているので、対象者はそれを具体的にイメージすることは難しいでしょう。そこには困惑があるはずです。

故に、まずは実際にそれを体験してもらうことによって実感的な理解をしてもらう必要があります。その為にALIを行う際には「導入インタビュー」や「ウォーミングアップ」などと呼ばれるパートを設けます。これは出席者に対してのALIの体験ドリルであると言えます。

ウォーミングアップではまずインタビュアーはその対象者条件に合った話しやすい話題を提示してその内容について対象者から十分な理解を得るようにします。そして自由な発言を促しながら極力介入をしないようにします。そのために、グループの場合には「全員での話し合い」、単独の場合には「自由な発言」を繰り返し求めながら、相槌やうなずき、笑顔などのボディランゲージを駆使した発言促進と、グループの場合は集団実体性を高めることに専念します。

またウォーミングアップの話題を提示する際には「一応この話題を設定するが、これは話し合いの練習なので話の脱線などは一切気にする必要はない」という意味のことも明確に伝えるようにします。

そして望ましい状態で発言、話し合いが行われるようになった時点で「こんな感じて話を聞かせてもらえるとありがたい」ということを口頭もしくは態度で伝え、タスクや成果の実感的理解を得るようにするのです。

「自由な発言」への困惑から当初沈黙が場を支配したとしても、グループの場合は誰かに口火を切ってもらうことを依頼しながら、決して、助け舟的な質問を行ってはなりません。ついつい焦ってそれをおこなってしまいがちなのですが、その瞬間に「インタビューとは質疑応答である」という通念が「アスキングに陥る見えない力」を発生させてしまいます。つまり、質問をした瞬間にその場で求められているタスクが「話し合い」ではなく「一問一答」だという暗黙の了解ができてしまうのです。それによってその後は質問されないと自発的には話されなくなりがちになります。個別の場合も同様です。

しかし「沈黙」は使い方次第でインタビュアーの味方にすることができます。

「沈黙責め」として紹介しましたが、沈黙によるいたたまれなさはむしろ自発的な発言の促進に利用するべきなのです。ここでインタビュアーや調査主体の方がそのいたたまれなさに負けてはならないのです。むしろその沈黙はインタビューにはつきものの通過儀礼のようなものだと考えていればよいわけです。

その沈黙は通常は所詮数十秒のことでしかありません。私の経験では最長で2分程度でした。その間インタビュアーが対象者に話題を繰り返し提示しながら伝え続けるべきことは、

①話題について理解できているか?わからないなら「この話題はわからない」ということを話題にしてもかまわない。
②自分は聞き役に徹するので、どなたからでも口火を切っていただいてかまわない。
③話題に関係のありそうなことならどんなことでも構わない。
④話すことがない場合や話しづらい場合は、「その話題については話すことができない」ということを話題にしてもかまわない。

(順不同)ということです。

対象者の反応から、提示した話題がふさわしくなかったとか、理解が得られないものであったということに気づくことがあります。その場合インタビュアーは適宜話題を修正することもあります。この辺りは事前に十分にシミュレーションされていれば起こる確率は低いのですが、起こった場合にはインタビュアーは敏捷性及び瞬発力をもって対応する必要があります。しかしそれは容易なことではありません。故に、「出たところ勝負」はなるべく避けるように事前準備を十分に行っていることが得策なのです。

「沈黙責め」をすると「それでは私から」といった感じで誰かが必ず話し始めてくれます。この瞬間を私は「観念の瞬間」と呼んでいます。この「観念」こそがインタビューを成功させるためには不可欠のものなのです。ウォーミングアップの第一の課題と言えるでしょう。

ウォーミングアップの目的は「対象者がルール通りに自発的に発言をするようになり、グループの場合にはグループダイナミクスの発生する話し合い、個別の場合は一人語りの独白の状態になるようにする」ということです。

そのためには、「観念」を含め、ウォーミングアップにおいての課題、チェックポイントとして以下のようなことがあります。

①観念。
②話題に対して一通り全員が発言する(グループ)/話題に対して一通りのナラティブが語られるようになる(単独)
③対象者相互のコミュニケーションが成立している(グループ)/一人語りの話が連続するようになる(単独)
④発言していない人もコミュニケーションに参加している(うなずき、相槌など)(グループ)
⑤対象者同士の話し合いに集中する(インタビュアーのことを気にしなくなる)。
⑥自発的な発言から、玉突きのように話題が連鎖、拡大している。

おおむね以上のような状況が観察されれば、ウォーミングアップができたと判断することができます。

ウォーミングアップというのは対象者にとっては従来未体験の試行錯誤的な経験となります。従って望ましくない行動も発生することがあります。その場合、インタビュアーは「ドリル」のインストラクターとしてそれを修正してく必要があります。その代表的な例と対応について説明しますと

1、聞き役に回るだけで話さない人がいる場合(グルインの場合)
最終手段としては「〇〇さんは他の方のお話をお聴きになっていていかがでしょうか?」と「指名」をする場合もありますが、焦らずに待っているとほとんどの場合、そのような人も話すようになります。自由に話し出した他の人たちの様子を見て、自分だけが話さないことがいたたまれなくなったり、本当に自由に話して良いのだということが納得されたりするからです。従って、焦って対応する必要はありません。しかし、インタビュアーはタイミングを見て「ルールで説明した通り、皆さんのそのようなお話がお聞きしたので、まだお話になっていない方も是非発言をお願いします」とか「話すことができないというお話しもぜひお聞きしたい」といった意味のことも繰り返すようにします。

尚、発言をしない人について、インタビュアーは良く観察することが必要です。発言はしなくても話し合いには参加しているのか?というのがその着眼点です。うなづいたり、発言者へ注目していたり、楽しそうにしていれば、発言はしていなくても話し合いに参加できていると判断して差し支えありません。その場合、その人の言いたいことは他の人が代弁してくれているわけです。

2、一人で長話をする人が現れた場合
口火を切る人と長話をする人というのは往々にして同じ人であることが多いと思います。そのような方は話すことが好きであり、また、調査という場においてのボランティア精神も旺盛な方だと考えられます。長話をする人は問題視されがちなのですが、このような人は「善意」なのです。またこういう人はグループの中ではリーダーシップを取れる人です。つまりこのような人はグループインタビューの場におけるグループダイナミクスの発生源となる人なので、基本的に歓迎すべきなのです。

しかし問題はその人ひとりの独壇場になってしまうことです。それによって、他の人が話せなくなり「反論」が出なくなるとか、ほかの方の持つ違った体験や意識が聴取できなくなるからです。

従って、このような場合には、口火を切ってくれたり、積極的に話してくれたりするその人の態度を「良い例」として利用し、他の人の発言を促すことに利用することを考えれば良いわけです。

具体的には「〇〇さん、ありがとうございます」とその人の発言をコントロールしながら、「全員での話し合いをお聴きしたいので〇〇さんのように他の方も積極的にお願いします」といった「人の振り分け」を行うことで他の人の発言を促すようにします。既述ですが、「ありがとうございます」という言葉には発言をカットする作用があります。故にインタビュー調査の場では安易に使ってはならない言葉なのですが、こういう場合には積極的に使うようにするわけです。

しかし注意が必要なのはこのような人が「べき論」を述べたり、攻撃的であったりする場合です。その場合は、「正しいとか正しくないという議論ではなく色々な見方についてお聞きしたいので他の方はいかがでしょうか?」という人の振り分けを行うようにします。

3、話題の脱線、テーマからの逸脱
ウォーミングアップの話題というのは実のところ話しやすければなんでも良く、インタビューのテーマ=課題がなんであれ、最近の流行についてだとか、話題の出来事について、といったことでも構わないわけです。ウォーミングアップの目的は自発的な発言が自然に出る状態にすることに尽きるからです。従って、脱線の修正というのは基本的には不要なのです。

しかし、限られた時間の中で調査課題を解決するための情報量を少しでも増やすため、ウォーミングアップと最初のテーマインタビューは兼ねて行われていることも少なくはありません。その場合は、「ウォーミングアップ」と「垣根の維持」というある意味矛盾する課題を同時に解決する必要が出てくるわけです。垣根の修正を早期に行ってしまうと、自由な発言というものが阻害されます。つまりウォーミングアップにならないわけです。

このような場合、ウォーミングアップができたと判断できるようになるまでは脱線の修正=垣根の維持は行わないようにし、ウォーミングアップができたと判断でき「こんな感じで話してほしい」ということを伝える際に同時に、「今の話題は〇〇なので、今度はこれを意識してお話しください」といったことを伝えるようにします。









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