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インタビュー調査の進行と課題②~趣旨説明

この課題についてはすでに「インタビュー調査におけるインタビュアーの役割~「場」づくり」において説明しました。単なる「お作法」だととらえられがちなこの部分こそが、実はALIの生命線とも言ってよい部分でもあるので今回はこの趣旨説明についてさらに踏み込んで説明をすることとします。

繰り返し説明していることになりますがインタビュー調査について一般生活者はあまり知識を持っているわけではありません。ましてやそれを経験する機会はあまりありません。特にALIというものは「質疑応答である」という「インタビュー」の一般通念に対して、「質問はしないので勝手に喋れ」という非常に「非常識」なものです。そのためにこの場での進行方法について出席者の理解、了解を得る必要があるわけです。

インタビューの場は、対象者に「話題」や「提示物」、あるいは他の人たちの「発言」をいわば「刺激物」として与えた時にその場でどのような言動をとるかの「実験」の「観察」の場であると捉えることもできます。「趣旨説明」とはその実験の概要、ルールを被験者に対して明らかにするものであるという見方もできます。ルールが明示されないと実験は成立しないのです。

インタビュー調査においては出席者の約8割が「何を話せばよいのか?」という心配を抱えています※。趣旨説明はその場で求められる振舞い方や話題を明確にすることによって、彼らの不安を取り除いてリラックスさせる効果もあると考えられます。同時に調査の目的や結果の利用法を明らかにしてそれに対しての集中力を高める効果もあると考えられます。

※梅澤(1981)「グループインタビュー調査」ダイヤモンド社、pp.178-179.

インタビューにおいては「リラックス」ということがよく言われますが、この「リラックス」とは「弛緩=たるみ」ではなく、いわば「アスリートのリラックス」です。つまり、「集中力=しまり」と「自由度=ゆるみ」が両立している状態であることを認識しておく必要があります。でないと、会話の中で調査の目的・課題に応じた日ごろの刹那の体験を想起することなどできないでしょう。


個別インタビュー(いわゆるデプスインタビュー)ではインタビュアーは一人の対象者だけを相手にしていればよいので、そこには個人対個人の関係しか生じません。つまり、お互いに普通に会話ができる人であるのならばとりあえずその場におけるコミュニケーションというのは成立します。しかし、グループインタビューにおいてインタビュアーは複数の対象者をマネージし、コントロールする必要があります。そうしないと要は個別バラバラの対象者達に過ぎないのであって、集団でインタビューを行う意味がありません。つまりグループダイナミクスの発生に問題が生じるのです。それを避けるためには、その対象者たちを集団としてまとめる必要があります。

効果的な集団形成を行い集団意識を高めるための目安となるのは「集団実体性」という概念です。

「集団」とは「共通運命」を持つものと定義されています。即ち、目的、目標、成果などを共有しているということです。故にグループインタビューのインタビュアーは成果を高めるため出席者にそれらを明示しなければならないと言えます。集団実体性には下記の①~⑧のような相関要素があるとされており、グループインタビューの現場における集団実体性を高めるための示唆を与えてくれます。尚、①~⑥は集団実体性と正の相関があり、⑦、⑧は負の相関があるとされています。

以下は各要素とそれらを集団実体性を高める目的に利用するための、出席者への働きかけや考え方の例です。

① 相互作用=成員間のコミュニケーションの程度
~個別指名の一問一答(ホイール型)ではなく、全員での自由な話し合い(完全連結型)にすることで高められる。

② 重要性=成員にとってその集団に属する重要性の程度
~趣旨説明において、調査の目的や意義の共有をすることで高められる。

③ 類似性=成員間の行動、外見、属性などの類似の程度
~趣旨説明や自己紹介などにおいて、「同じような生活背景や興味関心事を持つ人たちが集まっている」ことを認識してもらうことで高められる。

④ 持続性=どの程度長く集団として継続するのかの程度
~長い方が集団実体性は高まるとされているが、逆に企業内プロジェクトで多く見られる例のように「期間限定」の集まりであるからこそパフォーマンスが高まるということもある。グループインタビューにおいてはその限られた時間内に、求められる情報をできるだけ多く提供しなければならないということを対象者に意識してもらうことが必要であると考えられる。

⑤ 共通目標=どの程度目標を共有しているのか
~例えば「話し合いのルール」にあるような「話し合い」であることや「色々な意見がたくさん出ること」が大切であることを明示することで高められる。

⑥ 共通結果=個別に与えられる結果・報酬と全体の業績の関係の程度
~グループインタビューにおける「報酬」というと謝礼額の話に直結してしまいがちだが、決してそれだけではない。例えば、「同じ興味関心事について皆で話せる楽しさ」や「自分の知識や工夫を披露でき、それで感心される嬉しさ」などが実はグループインタビュー実査中における報酬であろう。また、インタビュアーが出席者の話に興味関心を示したり、感心したり、喜んだりといった態度を示すことは報酬であるばかりでなく、そのインタビューの成果、すなわち「業績」を出席者に示すものであると考えることができる。

⑦ 浸透性=集団への参加と離脱の容易性の程度
~集団実体性と負の相関であるとされているが、逆に2時間限定の離脱容易な集団であるからこそしがらみなく言いたいことが言えるという認識を与えれば良いということでもある。例えば「知らない同士の2時間限定なのでお互いに言いたいことを言い合って帰ってください」と伝えることで本音を引き出すことができるであろう。

⑧ サイズ=集団を構成する人数との関係
~多すぎると集団実体性は下がるが、経験的に良いとされている6~7人程度の小集団の効率が良いと考えられる。

上記のように考えると、グループインタビューにおいてグループダイナミクスを発生させて多様な情報を得るなどの望ましい成果を得るためには、「お作法」のように捉えられがちな、冒頭に行われる趣旨説明や自己紹介には極めて重要な作用があると言えます。その目的は一言でいうと「集団形成」であるということになります。

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