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インタビュー調査における「生活工学的調査企画」②〜判断精度を高めるために

生活工学的観点から言いますと、いかなる商品・サービスも生活からは遊離して存在しえません。仮に遊離しているものがあったとしたら、その商品・サービスは「生活ニーズ」には応えていないということであり、すなわち、生活の中では消費されないということになります。一言で言うと「売れない」ということ以外の何ものでもありません。

前回紹介した事例は、「話のネタが欲しい」とか「目先の変わったものを試したい」といった「好奇心ニーズ」には応えているし、食べてみたら美味しいのですが、そのパッケージ個数や謳い文句と、実際の生活におけるニーズがチグハグだったので、実生活においては消費される機会が無かったのでした。しかしこの商品は期待を裏切ったわけではないのでネガティブ評価はされないのです。

これは調査場面においては食べてみたい気にさせるし、食べてみたら美味しいと言われても商品が売れないことがある一つの例なのですが、調査の観点が「人間工学的」なものに留まっていたら、この商品がリピートされないことは見抜けません。なので発売されてしまったわけです。しかし、最初から「生活工学的」な調査をしていたらそれが見抜けて、発売は見送るとか、トライアルでしか買われないことを前提とした販売計画を立てるといった合理的なアクションがとれた可能性があります。

調査場面で商品評価を行うだけの調査、すなわち人間工学的調査であるのなら、それはC/C領域だけで成立します。すなわち、アスキングでも構わないわけです。しかしそれでは経営やマーケティングの判断精度が高まらない、というのがこの事例の示すところです。つまり、判断の為の調査であっても精度を高めるためには、調査というものは生活工学的調査でなければならないし、インタビューをするのならばリスニングでなければならないということに他なりません。対象者がアスキングによって答えた「回答」ではなく、リスニングで語られる彼らの生活実態から得られたインサイトによって判断するのです。これを意識マトリクスで表現すると下図のようになります。リスニングによって得られたC/S領域の情報と、そこから推測(インサイト)されたS/S領域の情報がC/C領域の情報を裏付けるのか?、矛盾するならばそれはどういうことなのか?、という手の込んだ判断の仕方をするわけです。

他の私の体験事例を紹介しますと、あるメジャーなブランドのタバコが国際的な法規制でそのブランドネームの変更を余儀なくされたということがありました。その事前調査では「ヘビーユーザーが離反しないか?」ということがもっぱらの調査課題でした。案の定その人たちは「タバコ会社に打ち壊しをかけたい」と言うくらいにそのブランド変更にはネガティブな反応だったのですが、私は「Go!」だという判断を行いました。その理由は、そのブランドには親の代から愛飲していたという愛着があり、また、時々他のブランドに浮気しても結局その風味にはなじめずにこのブランドに戻ったというC/S領域で聴取された経験からでした。それは、タバコというものは結局嗜好品であって、潜在しているがその風味からは離れがたいということです。また、親の代からの愛着、思い出がそのような超ネガティブな反応となって表れているのだけれども法規制での変更にはタバコ会社といえども抗えないことは理解されるだろうし、また、名前が変わってもその愛着は容易に失われるものではないだろうということからです。この時の対象者の印象的な反応は「本当にブランドが変わったらどうするのか?」というグループインタビューの最後の問いかけに対して「他に吸うものがないから怒っているんだ」という言葉が口々にでてきたことでした。好意、愛着を持っているからこそのネガティブ感情というのはどんなことにもあるものです。

※誤解を防ぐために補足しておきますが、この質問は、未だ起きてもいないこと、経験もしていないことについての質問、すなわちS/C領域へのアスキングの典型です。故に推奨されることではありません。こういった質問はALIでは、他の発言に影響を及ぼさないインタビューの最後の数分に行います。それはクライアントからの要望に対しての「大人の対応」であることが多いのですが、そこまでに得られているC/S領域の情報から、回答がタテマエであるのか否かの識別が可能だからです。タテマエを答えたとするならばそれはそれで何らかの動機があることですから、識別可能であるのならば分析を深める材料にもなります。しかし、この事例の場合には、対象者達は
私の質問に対して「正確」に答えたわけではなく、故に「タテマエ」を答えたわけでもなく、図らずも、それまでの勢いで、質問の主旨から逸れた「今の気持ち」(ホンネ)を語ってくれたわけです。このやりとりを細かく分析すると、「ブランドが変更されたらどうするのか?」と聞かれても答えられないので具体的に「他に吸うものがないから怒っている」とその質問には答えられないことを、今の気持ちとして話されたわけです。

この調査の結論としては一時的なネガティブ感情は生じるかもしれないが、ブランドチェンジを引き起こすほどのものではないだろうということです。歴史的な事実は全くその判断通りとなりましたが、ブランドチェンジに関してどう感じるのかの意見聴取というC/C領域だけの調査(つまり、人間工学的観点での調査)では、このブランド変更には「No」という答えしか出せなかっただろうと思います。

これらの例のように、「判断・検証」が目的の調査であってもC/S領域のリスニングを行うことでその判断精度が上がるわけですが、探索・仮説抽出が目的である場合は尚更にC/S領域を聴取できる生活工学的観点での調査であるべきでしょう。

ここで問題になるのは「探索する領域」の設定です。この事例のような検証的調査の場合にはそれは簡単で、「その検証対象が利用される生活」の領域です。それは例えばこの「タバコ」の場合には「喫煙生活」あるいは「ブランド〇〇のある生活」となります。これはほぼ自動的に決まってくるでしょう。

一方、新市場を創造するような商品「新市場創造型商品」M.I.P.Market Initiating Product))を開発しようとする場合には、そもそもどのような生活領域においてニーズの探索を行うのか?ということから考える必要があります。

(つづく)


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