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クライアント側の立場から〜調査発注時の留意点

リサーチング・マーケターを標榜する私は、蝙蝠や鵺のような存在です。調査について、受注側の視点・視座と発注側の視点・視座の両方を持っています。だからこそ言えることがあります。最近も初顔合わせをしたあるクライアントに「今まで当社も含め本当のことを言ってインタビュー調査に満足したことなんかないんじゃないですか?」と言い放ち目を点にさせてしまいました。そして皆さん、恐る恐るうなずいておられました(笑)

しかし、これは私の体験から来る、クライアントと同じ立場での問いかけです。マーケターの私自身が「満足していなかった」からこそ、私はこの道に進んだのです。なんせ満足度3.8%なのです。そう言い放っても9割以上は当たるのです。すでに自分も体験済み、世間もリサーチ済みの発言なのです(笑)。

一方、リサーチャーの私には「そんな発注の仕方、調査会社の使い方では良い調査になるわけがありませんよ」という幾多の経験もあります。満足度3.8%は調査会社だけの問題、責任ではないのです。

その問題に対しての、あるべきオリエンテーションとその後の企画プロセスを、意識マトリクス理論に基づいて明らかにしてきました。ここでその結論として、調査品質を高めるための発注側の留意点をまとめておきたいと思います。

1、「どんな調査をしたいか」ではなく「解決したいマーケティングの課題」を意識する

調査によって解決されなければならない、現場で起きているマーケティングの課題は何でしょうか?もっと平たく言うと、何が目標で、その実現において、何に困っているのでしょうか?調査のことを考え出すと、往々にして現場の状況を意識することがおろそかになり、調査の手法や仕様のことばかりに意識が向きがちになります。その結果、課題の解決よりも手法の目新しさに目が奪われたりもします。従来の調査に満足していないならなおさらです。しかし、その不満の原因は、課題が解決されなかったことにあるのではないですか?

調査をして何を解決したいのでしょうか?
本当にその課題は調査をしなければ解決できないのでしょうか?
調査結果をどう使うのかのでしょうか?

2、調査についての考えが「まとまって」から調査会社に相談しようとしない。困ったら即、頼れ!

これは「どんな調査がしたいのか」ということしか聞かない、つまり己の受注しか考えていない調査会社の御用聞き営業が元凶でもあるのですが、クライアントの中には「話や考えをまとめてからでないと」と調査会社にコンタクトすることに敷居の高さを感じておられる場合があります。しかし、その「まとめ」に時間を使ってしまうと後戻りできなくなります。形ができてしまうとそれに対してのこだわりもできます。それが後々、リサーチャーの能力発揮を阻害したり、あるべき調査から外れていることで調査の品質を落としたりします。さらに、そのまとめに使われた時間は、調査そのものに使える時間を圧迫します。ファクトからインサイトをどれだけ読み取れるのかは、結局「時間」の産物なのです。

どんな調査がふさわしいのかを考え、提案するのはプロであるべき調査会社のリサーチャーの仕事です。最初からリサーチャーに相談すれば、時間をかけずにあるべき調査を提案してくれるはずです。

3、まとまっていなくても良い~「背景・状況」はさらけ出して共有すること

ここでしかし、「マーケティング状況」が共有されないと、調査の品質には著しく問題が生じることはご説明済みです。NDA(Non-disclosure agreement=秘密保持契約)はそのためにこそ交わされるべきものです。ここで状況が共有されないからこそ、その後、リサーチャーがあなたにとって頓珍漢なことを言ったり、したりするようになるわけです。もし、リサーチャーや調査の結果・品質に不満があるとしたら、この共有ができていたのかを振り返る必要があります。

まとまってなくてもかまいません。話を聴いて、それをまとめるのはリサーチャーの仕事です。あなたの話すらまとめられないリサーチャーが、あなたの顧客の話を理解してまとめられるはずもありません。

4、プロの話はよく聴け!~「受け入れる」だけのリサーチャーをむしろ警戒せよ!

本来、調査会社のリサーチャーというのは、月に何件もの調査案件を実行しているプロです。すなわち、調査についての知識・経験は少なくとも発注側より上であるわけです。その人たちのアドバイスや提案には虚心坦懐に耳を傾けるべきです。常に意見や提案を求めるべきです。

むしろ発注側の要望について何の疑義も唱えず、質問もせず、ただ受け入れるだけのリサーチャーの方を警戒するべきなのです。調査品質があなたの満足のいくものでなかったとしても、彼らは「言われたとおりに実施した」というあなたが抗論できない大義名分、言い訳を作っていると気づくべきです。そんな彼らこそがノンプロ、アマチュアなのです。「下請け」根性なのです。クライアントの課題を我が身のこととして考えてはいないのです。

その時のやり場のない憤りをどこにぶつければよいのでしょうか?調査品質が期待通りなら本来問題にもならない小さなトラブルや瑕疵、例えば、インタビューの対象者が遅刻したとか、6人のうち1人欠席したとか、あるいは、誤字脱字とかのレベルのミスにぶつけるしかなくなるわけです。

※しかしそんなリサーチャーほど、そういったところの抜かりはありません(笑)彼らにとっての「仕事」とはクライアントのマーケティング課題の解決ではなく、「トラブルの回避」なのです。しかし、下請け扱いされ続け、「状況」を共有されず何に答えを出せば良いのかわからない調査を続けているとそうなるのもわからなくはないわけです。

でもそれでは問題は解決しません。

リサーチャーに何か要望する際にはそれを押し付けるのではなく、必ず、「調査の成功=マーケティング課題の解決」の観点で、彼らの意見、見解を求めましょう。可否どちらの反応でも、それに対して根拠を持って反応できるかどうかは要チェックポイントです。

その問いかけに対して、賛成もしくは何の反応もせずに受け入れられた結果が芳しくなければ、それはリサーチャーの責任であり、リサーチャーの反対意見にも関わらず強行したのならば、それは発注側が負うべき責任です。

しかし従来の調査には不満だからと言って、クライアントが強圧的にリサーチャーに接すると、彼らは反論など、できてもできなくなるということにも配慮しなければなりません。

5、リサーチャーとは何度も情報交換やディスカッションをしよう!

オリエンテーションから調査企画までのプロセスについては、お互いに知らない領域の共有が、よりブラッシュアップされた調査構造を生むことを説明しました。この意識マトリクス共有のプロセスはその後もずっと継続させていくべきです。

案件進行中の細々とした要望から、大きくは、調査結果の共有や調査終了後のプロセスにおいてすらです。

例えば、調査にかけた新商品を上市した結果などは共有されるべきです。それによって、双方ともに自信や反省が生まれ、次の機会にはレベルアップした調査になるでしょう。

私の経験ですが、飲食店の現場の情報に対しての需要をアンケート調査したことがありました。食材メーカーや厨房設備業者が興味を示すのはわかるのだけれども、金融機関やファッションメーカーも興味を示していて、その意味がリサーチャーとして解釈できないということがありました。その手の、リサーチャーが理解不能な情報、あるいは矛盾していると感じる情報は、報告会の時にはクライアントの目につかないようにされてしまいがちです。突っ込まれると説明できませんし、説明できないと調査全体の信頼性の問題にも及ぶからです。「おたくのサンプルおかしいのでは?」といったことになるわけです。

しかしそこで私はそのデータを提示して「正直言ってこの意味がわからないのですが思い当たることはないですか?」とクライアントに問いかけてみました。普通、報告会でリサーチャーがクライアントに質問することは無いと思います。

すると、クライアントの現場の方が「そういえば金融機関が与信情報として飲食店の現場状況を調べていることがある」とか、「ファッション誌は流行トレンドの取材として飲食店に興味を持つことがある」といったことを体験から思い出して教えてくれました。

この情報交換によって、データの解釈とそこにあるチャンスが共有されたわけです。その現場の人にとってそれはN=1の例外的情報だったようですが、このアンケートで実はそのニーズはそこそこのボリュームで潜在していることが分かったわけです。これだけでお互いに意識領域が広がり成長することができます。もちろんその調査自体の価値も上がったわけです。

6、結論:こんなリサーチャーと調査会社は斬って良し(笑)

調査業界には物騒な話ですが、斬って良いのは

①状況を把握しようとしない。(市場の状況に加え、調査対象となっている商品やサービスについても調査対象物として以上の関心を示さない、なども含みます。要はあなたのやっていることに無関心なのです。)
②調査の手法、仕様、納期、費用にしか興味を示さない。(逆の見方をすると、目新しいだけで実績も経験も十分ではない、つまり成功の保証がない、新手法を提案してくる。)
③プロとしての見解を提示しようとしない。つまり要望に対してのカウンター(提案)をしようとしない。
④共に考えようとしない
のどれかの特徴を持った人たちでしょう。もちろん
⑤プロとしての専門スキルが低い

というのは論外です。

調査会社とクライアントの関係のねじれは、

クライアントが提示すべきC/S領域の情報を共有することなく、調査会社・リサーチャーに「業界知識」を求めることがある一方で(そんなドシロートに業界知識を求めてどうする!)、リサーチャーが提示すべきS/C領域の情報を共有しないどころか、それをクライアントに「どんな調査をしたいのか」と問い詰めることで求めている(それを考えるのは君たちの仕事だろ!)というところに顕著に現れています。そのねじれが調査品質に深刻な影響をもたらすわけです。

調査会社の使い方、扱い方についてもう一度振り返ってみられると良いかと思います。例えばインタビュアーのアサインの条件に「業界知識のある人」ということが含まれていることが多いわけですが、その業界知識があるからこそ見えなくなっていることがあるのではないでしょうか?

色々な業界のクライアントと話していますと必ず「それはわかるが、ウチの業界は違う」とおっしゃいます。しかし、それは、他の業界、カテゴリーに対しては「生活者」としての観点で見られているのが、自分の業界、カテゴリーにおいてはいきなり 「企業人」の観点になり、意識マトリクスのタテヨコが入れ替わっているからなのです。

まして、「状況」は立場によっても時間の経過によっても変化します。それを共有することの方がはるかに重要でしょう。




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