見出し画像

インタビュー調査の分析入門~「構造化」とは?…市場調査がマーケティングの役に立たないワケ

相当に挑戦的なサブタイトルです。前回の「具体化」に加え、ここがその核心です。

定量調査とはアンケート回答時点の「状態」を切り取ったものです。つまり、回答した次の瞬間にはそれが変化していてもおかしくないわけです。それではと、時系列で複数回の同じ調査をしたとしても、ある「状態」と次の「状態」の変化はわかりますが、それがなぜ変化したのかがわからないわけです。つまり2つの「状態」の単なる比較はできるわけですが、その2つの状態の間にある変化をもたらした、「メカニズム」はわからないということです。それを知るためには、生活者の「ナラティブ」から、その変化のプロセスにあった各種の要因を把握していくことが必要となります。これは定性調査の役割です。

そしてその要因相互もしくは要因と結果の間にどのような関係があったのか、その「メカニズム」を解き明かすのが「構造化」の課題です。例えば、因果関係や対立(葛藤)関係、あるいは目的と手段の関係、そして、それらは結局時系列の関係も持っています。

この「状態」を捉える観点と、「構造」を捉える観点で、調査の質や価値が大きく変わってくるということが言えます。

「状態」というのは、結局は「過去」のカスといっても良く、過去にあった色々な出来事の結果です。つまり、それを見ても、これから先のことは読めないわけです。せいぜい、その変化を今後にも延長するという「フォアキャスト」(外挿)ができるのみです。しかし、今後の世の中は、従来と同じ要因ばかりであるとは限らないわけです。つまりこれは「現状把握」=「成績表」としての用途にしか使えないと言っても過言ではないわけです。これを見て次のアクションを考えているようでは、常に市場の変化に振り回される、フォロワーにしかなれないのです。

それに対して「構造」は、人の気持ちや世の中が変化するメカニズムです。それを把握することで、どんな「刺激」が加わると、人の気持ちや世の中がどのように変化するのかが読めるようになるわけです。つまり、未来に向かってマーケットを望む方向に動かすための「戦略・戦術」の指標とすることができるわけです。

この「状態」を捉える観点と「構造」を捉える観点の違いこそが「マーケットリサーチ」と「マーケティングリサーチ」の違いであるとも言えます。

マーケットリサーチとはマーケットの「状態」を「静的」に捉えるものであり、マーケティングリサーチとはマーケットの「構造」を「動的」に捉えるものであるということです。

この違いは世の中を「変わらないものとして捉える」(常住観)と「常に変わるものとして捉える」(無常観)の違いだとも言えます。マーケターというのは世の動きを常にとらえている必要があるのですから、鴨長明や松尾芭蕉などのように無常観に生きるべきなのです。

なぜならば、「マーケティング」とはまさに、「供給側が、再現性をもって市場を望む方向に動かす仕組みづくり」であるからです。そして「構造化」が可能な定性調査はそのために不可欠であるわけです。

しかし、その定性調査がアクティブリスニングによるナラティブ把握ではなく、アスキングによって行われた場合、この構造化、もしくは構造化における発見は難しくなります。なぜならば、アスキングでは調査主体が想定していない潜在要素や各要素間の思わぬ潜在的な関係を捉えることができないからです。それどころか、時系列を含んだ体験談からの推測(インサイト)ではないがゆえに、構造そのものを捉えることも難しくなります。それは、意識マトリクスで説明できるように、意識されていない「理由」や「目的」を問い詰めて行くことでS/C領域に侵入してしまい、偽の構造ができてしまうからなのです。

ところが、同じアクティブリスニングを行っても、分析者がその「状態」と「構造」の観点を使い分けられないと、価値は激減してしまいます。ここが、アクティブリスニング分析者のスキルです。要は形だけアクティブリスニングのインタビューをしても、分析において「構造化」の観点を持っていないと役立たないということです。

下図はある同じアクティブリスニングインタビュー調査のレポートのチャートです。上のチャートはボツ版なのですが、このインタビュー(マーケット)には「ロイヤリティ別に分類すると、ピラミッドのようなボリュームで、こんなタイプの人(ユーザー)がいた」という「状態」観点のものです。そもそも論ですが、定性調査でボリューム表現をしているところでアウトです。それに対して、採用版の下のチャートは「右上に向かって、こんな体験の『敷居』を通過することで、ユーザーのロイヤリティが高まっていく」(すなわちその「タイプ」が変化する)という「構造」観点のものです。

すなわちユーザーのロイヤリティを高めていくという課題において、「望ましい変化」をもたらすためには、その「敷居」体験を何らかの方法、手段で促して行けばよいという戦略とその具体的手段のアイデアという戦術を立案するのに役立つわけです。

市場を静的に見ている上の状態観点のチャートではそのような「打ち手」の抽出はできないわけです。

この例で、相当にリアリティを持って「状態と構造」、あるいは「静的と動的」、または「常住観と無常観」もしくは「マーケットリサーチとマーケティングリサーチ」、さらに言うと「アクティブリスニングとアスキング」の違いがご理解いただけるかと思います。

現場では、マーケティングというのは、結局詰まるところが、「買われるか?、買われないか?」の単純明快な命題に帰結します。その「態度」を分ける要因と構造、すなわち「買わない態度が買う態度に変容する、もしくはその逆」の要因と構造を把握することが、その根本命題として存在するわけです。人間のすべての態度、行動は葛藤処理の結果に生じているというのは、油谷先生の理論です。その葛藤をどちらに決することができるのかということです。

それを単純に一般化すると下図のようになります。

アスキングで行われている一般的な定性調査のレポートではこのチャートの最下部の「状態」=「態度の分類」だけで終わっているものがほとんどだと思われますが、本当に必要なのはその上部にある「構造」の「分析」です。これは最初の図の上のチャートと下のチャートの差でもあります。

そしてこのような「構造」は、ナラティブを傾聴するアクティブリスニングであれば、相当に精度高く見通せるようになるわけです。

リサーチがマーケティングに役に立たないとお感じの方がおられましたら、今一度この観点の違いを考えてみられると良いかと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?