見出し画像

インタビュー調査の科学的分析法~応用編②=本来あるべきの「カスタマージャーニーマップ」とは?

これもペルソナと似たような話なのですが、「カスタマージャーニーマップ」という手法が流行してます。その出自はペルソナマーケティングと同じようなものではないかと思われます。これまた、ディスプレイの向こうのユーザーの体験(UX)を切り口にマーケティングを考えようとするものです。

私はこれにも批判的です。正確に言いますと、カスタマージャーニーマップのフォーマットありきで、その各セルをアスキングで埋めて行くような調査は役に立たないということです。世の中で行われているインタビュー調査の大半はアスキングですから、つまりは役に立たないということです。

しかしペルソナ同様に「インタビューでカスタマージャーニーマップを作ってほしい」とか「インタビューでカスタマージャーニーを明らかにしてほしい」というオーダーは少なからずあります。

さらに実のところ、何のためにそれを作るのかを明確に認識されている場合は多くはないのです。つまり、その形式にばかり目が向いていて、それによって何をしなければならないのかという後工程に考えが至っていないのです。マップを作ればそこから「何か」が分かると漠然とイメージされているだけなのです。

例えば、あるインターネットサイトのカスタマージャーニーを対象者から聞き出して、それを所定のフォーマットに記入したとします

※カスタマージャーニーマップのフォーマットの例はペルソナ同様にネットで検索すればすぐに多数出てきますのでご参照ください。

しかし、そのマップから読み取れるのは現在のジャーニーでしかありません。つまりここからは、現在ある不満点の改良は可能ですが、新市場創造型商品のジャーニーや、新たなビジネスモデルを生み出すような新機軸のヒントは偶然以外には得られないのです。すなわち、未来のジャーニー設計には役立つとは言えないのです。そして改良だけならば何もわざわざジャーニーを明らかにしなければならない道理はないのです。

つまり、顧客に革新的なベネフィットを提供するカスタマージャーニー、未来にあるべき新機軸の革新的カスタマージャーニーはそういった調査からは生まれないわけです。例えば、事例編で紹介したような「リラクゼーションチェア」の購買のカスタマージャーニーはそれまでの「マッサージチェア」のそれとは違っていてしかるべきです。ステータスを求めるお客が、そこに入るだけでもカッコ悪い健康器具のお店や売り場に行きたいと思うでしょうか?行ったとしてもそれが満足や快適さを生むでしょうか?その売り場に長居したいとおもうでしょうか?

わざわざインタビュー調査をしてまで作らなければならないのは未来のジャーニーなのです。既存のジャーニーの改良レベルのヒントなら、わざわざインタビュー調査をしなくても、安いコストで可能な簡単なアンケートで得ることが可能なわけです。つまりジャーニーマップを作る作業が無駄なわけです。

これは調査というものの捉えられ方にもよると思いますが、ユーザーから直接アスキングをして聞き出せるのは過去の状況(ジャーニー)でしかなく、それをマップにしても、現在のジャーニーの改良に役立つだけで、未来のジャーニー開発に意味があるのか、ということでもあります。なので「役に立たない」と言う訳です。

わざわざジャーニーマップをお金をかけて作りたいというのは、そのレベルの期待値ではないはずです。その為にはジャーニーマップとはファクトではなく、インサイトによる創造物でなければならないのです。

一方で、購買行動や利用行動を「ジャーニー」すなわち時間の流れの中でとらえるということには大きな意味があります。その理由ですがまず、

① そのジャーニーの中で、購買や利用の意欲を高めた経験と下げた経験を分析することによって、促進要因と阻害要因を抽出することができる。

ということがあります。言い換えると、ジャーニー把握の目的は促進・阻害要因の抽出であるべきなのであって、調査で得られた事実からジャーニーマップを作ること、各行動を順に並べること、ではないということです。これと同じ、もしくは似ていると思われる考え方は音部大輔氏がパーセプションフローモデル」として提唱されています。これは、促進・阻害要因がリスト化されることによって、自由かつ独創的ななジャーニー設計を可能にします。私も自分のマーケティング経験から同意するところ大です。

そして、この促進・阻害要因の抽出は健康器具の事例でもご紹介した通り、実は、因果対立関係分析法で可能であるわけです。

② ジャーニーすなわち「ある生活シーンの中にある様々なオケージョンでの異なった行動とその時の感情」を把握し、分析することによって、それぞれのオケージョナルDoニーズが抽出できる。すなわちその上位ニーズを構造化することができる。

これが実は今回の核心部分なのですが、上位下位分析法によるニーズ構造分析によって「ジャーニー」=「ある生活シーン」の上位ニーズを明らかにすることで、その中の各オケージョンにおけるオケージョナルDoニーズを推測することができ、さらにそこから、そのオケージョンでのマーケティングアイデアを生むことができるということです。

言葉ではわかりづらいと思いますので、具体例を挙げてみます。

実際にインタビューをしてカスタマージャーニーマップを作ってみたとします。そのインタビューは事例編で紹介した、「疲労回復・リラクゼーションニーズ」のものだったとします。

一般的なフォーマットで作ってみると、このようなものになるでしょう。

各フェーズ、コンタクトポイントでの行動・出来事とその時の感情、パーセプション(認識)、感情が表現されています。これは、アスキングで行われたインタビューではありませんから、通常のものよりも生々しいものになっていると思います。しかし、この情報のユーザーとしての目で見る私にはこれはバラバラの情報にしか見えません。「So What?」です。これでは例えば、この時点では無かった「ネット通販で売るためには」という課題に対してのアイデアは生まれないと思います。今、そうして購買、利用に至っているのだという事実しかわからないわけです。また、パーセプションの「カッコいい」とか「カッコ悪い」とか「優越感」というのも、それが一体なぜ発生するのか、どういう意味があるのか、といったことが全くわからないわけです。なぜそれが「うれしい」とか「好奇心」ではいけないのか?また「カッコいい」といったって、色々あります。どんなカッコ良さなのか、どうなったらカッコ良いのか、それもさっぱりわからないわけです。「生々しさ」と言いましたが、アスキングでは「満足だ」とか「イヤだ」というレベルで留まっているものも少なからず出てくるでしょう。

しかし、通常は相当の手練れのマーケター以外からは、そんな疑問すら持たれないと思います。私がそういう疑問を持つのは、一つにはそこから新機軸のマーケティングアイデアを生み出そうとするからであり、もう一つにはすでに下図の分析を知っているからです。これは事例編をご覧の皆様もご存じのものです。

つまり、上記のジャーニーマップの情報の背後に「ストレス解消・疲労回復でステータスを高めたい」というニーズが潜在していることがわかれば、このジャーニーが統合的に理解できるようになるわけです。例えば、「カッコいい」というのはこの人たちのステータス=若々しさやエネルギッシュな感じを高めるオシャレさであったり、知的さであったり、スポーティであったりするわけです。その観点を入れたカスタマージャーニーマップは以下の通りです。

実はこのジャーニーマップは、フォーマットありきでそこを埋めていったものではなく、ニーズ構造分析と、ニーズの促進・阻害要因分析を経てインサイトを得た後に、インタビュー中に聴取されたファクトと併せ再構成や創造をしたものなのです。ニーズ構造分析を経ているので、最上位ニーズに加え、各フェーズ、各コンタクトポイントでのオケージョナルニーズも見えているわけです。それによって、考察欄にあるようなアイデアも出てきます。このようにニーズ構造とニーズの促進・阻害要因が抽出されていれば、今は存在しないコンタクトポイント、例えばネット通販で売るためには何をすれば良いのか、といったことに対しても答えがだせるようになりますし、「先進的な賢い消費者でありたい」というオケージョナルニーズからは、「そういった人が集まっているイメージがある、ハンズや無印良品などで売れないか」といったアイデアも出てくるわけです。

その答えの出し方のイメージは以下の通りです。

これは、分析編では省略した「上位下位関係分析法における下位化」のプロセスを利用した新たなカスタマージャーニーのデザインのイメージです。これは、このような上位ニーズを持っている人たちに対して、購買の各フェーズの各オケージョン、各コンタクトポイントではどのような下位のオケージョナルニーズが発生しているのかを推察しながら、それぞれにおける機会を見出そうとするものです。詳しくは省略しますが、「上位ニーズ」に対してそれぞれのオケージョンで発生するオケージョナルニーズとアイデアを「そのためには」というキーワードの連鎖で考えていこうとするのが基本です。また、応用編としては「〇〇したいができないコト・トキ」のキーワードで考えると、未充足のオケージョンを発見することもできます。

これができるのは、ニーズの構造化ができているからこそです。また、この作業は創造的な作業なのであって、調査の中で直接対象者に質問しても、それが出てくるはずもないものです。

つまり、このようなカスタマージャーニーのデザインは、調査で行われるべきものではなく、調査の分析結果を踏まえて調査の後工程として行われるべきものであるということです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?