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~神話・民話の世界からコンニチハ~ 23 エヌマ・エリシュより、殺し合いの創世神話

第二十三話は、メソポタミア神話のなかでもギルガメシュ叙事詩にも負けない知名度と登場する神々の人気を誇る創世神話「エヌマ・エリシュ」からお話のご紹介&インタビューです。

今回のお話

「エヌマ・エリシュ」とは、古代メソポタミアの言葉で「そのとき上に」という、この創世記叙事詩の冒頭の言葉をタイトルとしたもので、次の一節から始まります。


そのとき上にある天は名づけられておらず、

下にある地にもまた名がなかった。

はじめにアプスー(淡水)があり、すべてが生まれ出た。

混沌を表すティアマト(塩水)もまた、すべてを生み出す母であった。

水はたがいに混ざり合っており、

野は形がなく、湿った場所も見られなかった。

神々の中で、生まれているものは誰もいなかった。


……こののち、混ざりあう、第一の者、父である男神となった淡水の大洋アプスーさまと、巨大な竜の姿をしていると言われ、原初の混沌とも呼ばれる「すべてを運んだ塩水」の女神となったティアマトさま、そしてムンム(霧)さまが姿をあらわしになりました。彼らが原初の神々です。

アプスーさまとティアマトさまの交わりは、女神ラハム(海の沈殿した泥)さまと男神ラフム(泥)さまを生み、その一対の神さまがたは、男神アンシャル(天の果て、男性の象徴とも)さまと女神キシャル(地の果て、女性の象徴とも)さまを生みました。

アンシャルさまとキシャルさまからは、天空神アヌさまがお生まれになり、そしてアヌさまの子に生命、泉、流れる水を意味する名で、知識、魔法、水の神であるエアさまがお生まれになり、さらに風、嵐の神エンリルさま、裁きと太陽の神ウトゥ/シャマシュさま、愛欲と豊穣と戦の女神イナンナ/イシュタルさまなど、多くの新しい神さまがたがお生まれになっていきました。

増えに増えた新しい神々は、とても騒々しかったので、原初の神々であるアプスーさまとティアマトさまはとても不愉快に思いました。とうとう不眠となってしまったアプスーさまは、ティアマトさまに新しい神々を滅ぼそうと思い、彼女に言いました。

「彼らのふるまいに私は我慢ができない。私は昼は休めず、夜は眠れない。彼らの騒ぎをやめさせるために、彼らを滅ぼしたい。そして、私たちのために静寂が支配するように、そうして最後にようやく私たちが眠ることができるように」

これを聞いたティアマトさまはお怒りになりました。

「 何と言うことを! 私たちが創ったものをみずから滅ぼすつもりですか!?  たしかに、彼らの行ないは不快だけれど、我慢して優しくしてあげましょう」

そう、アプスーさまに諭しました。しかし耐えられなくなったアプスーさまは、とうとうムンムさまとともに、新しい神々を滅ぼす計画を実行しようとしました。

その計画をいち早く察知した新世代の「すべてを知る者」である、知識と魔法と水の神エアさまは、先回りをしてアプスーさまをその魔術で眠らせた後に殺しました。そして、計画に加担したムンムさまも閉じ込めてしまいました。


……騒々しくて、不眠になったから子どもを殺そうとまで思ってしまう。現代でもありそうな、育児の悩みと苦しみから発したと察せられる原初の神々とその子孫の新しい神々とのドロドロな愛憎劇。殺そうと思った相手にサクッと殺されてしまった、冒頭の詩にある淡水としての象徴ではなく、擬人化された男神としてのアプスーさま。自業自得と言うべきか、何と言うか哀れな感じもします。そして、アプスーさまも、ティアマトさまも、そしてアプスーさまを倒したエアさまも水の神さまであることから、地球の山や海や、湿地や池や湖、川など、万物とそして命そのものにも流れ育み保たせている水というものに、冒頭そして争い事を通してとはいえ、水にまつわる神々をまず表現するくらいには、その重要性を見出していたようです。荒ぶる自然の水害を、都市国家が治めてひとびとを利する水にしたという事実を神話に込めたのかもしれません。第二十一回で、王エンメルカルさまのお言葉にも都市の水はけを良くした、とちらっと治水について出てきましたしね。

……それでは、インタビューと参りましょう!

すー: ギルガメシュさま、エンキドゥさま、よろしくお願い致します。

ギルガメシュ: 一応、先祖につながる流れの神々だからこんなことを言うのもアレなんだが、俺よりよっぽどひどくないか?

すー: 確かに……。もちろん、最初のギルガメシュさまも、女性を街から略奪しちゃう暴君なんですけど、そんな悪さがかすんで見えるくらい、原初の神アプスーさまと、その子孫の神エアさまとの関係はドロンドロンです。

ギルガメシュ: 淡水と塩水が混じり合う、そして霧が生まれ、海の泥と、地上の泥が生まれ……っていう冒頭の叙事詩、そして原初から三代目まで一対の神というのは神秘に満ちた自然現象のなかで海や川、池や湖、湿地などが水の影響によってどう創られていくかをよく観察した上での象徴である神々だと思うが、それが男神や、原初の母ティアマトはひとですらないが、姿かたちが具体化した神々になったあとは、いきなりの修羅場だな。いったい、どの時代の誰の実話が組み込まれたんだか。

すー: 実際の英雄として存在したとされているギルガメシュさまがた三代の伝説には、人間としての理想や、考え方を改めるという行いに焦点が当たってますけど……。擬人化された男神としてのアプスーさまは、どこかの王族に、ほんとにそうして不眠症になって、息子や娘を殺そうと考えて、返り討ちに遭ったひとがいたのかもしれない、とはたしかに思いますね。現代でも、児童虐待は問題となっていますが、親が子どもの騒々しさに我慢が出来ないというあたりが、この古代メソポタミアの神話である「エヌマ・エリシュ」でも妙にリアルです。

ギルガメシュ: そうだろう?

すー: もしかするとギルガメシュさまのお父上のルガルバンダさまも、実のところは相当、ギルガメシュさまの養育には苦労されたんじゃ……ゲフンゲフン。エンキドゥさまという、生涯の友が出来て、ひととして成長して良かったですよね、ギルガメシュさまは。

エンキドゥ: もし、オレが生きているうちに、ギルガメシュの子どもがいたなら、オレは、喜んで世話をしたと思うぞ。

すー: こんなにも健気で律儀で一途なエンキドゥさま! 良かったですね、ギルガメシュさま。こんな嫁……いやお友だちに巡り会えて。大切にしてください。

ギルガメシュ: 当たり前だ! 我が生涯の友よ!

エンキドゥ: おう、ギルガメシュよ!

すー: いやぁ、ドロンドロンな創世神話を見てくると、ギルガメシュさまとエンキドゥさまの親友関係がとても尊く思えます。おふたりとも、末永くお幸せに……違った。どうもありがとうございました。次回もよろしくお願い致します。

第二十三回「~神話・民話の世界からコンニチハ~ 23 エヌマ・エリシュより、殺し合いの創世神話」は以上です。

少しでも楽しんで頂けたなら、それに勝る喜びはありません。

ここまでお読みくださり、誠にありがとうございました。

次回予告

第二十四回は、引き続き「エヌマ・エリシュ」を追いかけていきます。新しい神々のなかでも、頭角を現していくマルドゥクさまと、原初の神ティアマトさまとの決戦のお話&インタビューを予定しています。お楽しみに~。

※ 見出しの画像は、noteに実装されたCanvaというサービスを使って、私が素材をお借りして作成したものです。


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