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「過去未来報知社」第1話・第3回

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 静かな病院の廊下。
 時折遠くからうめき声が聞こえる。
 そこへ、はじけるような子供の泣き声。
「生まれた!」
 爆発でもしたかのように飛び上がると、一目散に病室へ駆け込む猪俣旦那。
 つられて駆け出す笑美。
 猪俣旦那に開け放たれた病室のドアからそっと顔を覗かせた笑美に、猪俣旦那は涙でぐしゃぐしゃになった顔で振り向いた。
「うまれたよぉ。俺の娘だぁ~」
 その奥には、生まれたばかりの赤ん坊を抱く猪俣妻。額には玉のような汗が浮かんでいた。
「おめでとう!」
 祝福ムードに盛り上がる病室。
「良かった~」
 満面の笑美を浮かべる笑美。

「で、部屋を明け渡して出てきちゃったの?」
「だって、あのおめでたムードを壊す事なんて、できなかったんですよ~」
 役場の応接室で毛布にくるまり、湯気のたつ湯飲みを差し出されて笑美は情けない声を上げた。 西畑真美、というのが毛布と茶を出してくれた女性の名前だ。役職は経理。
「凄いな、今回の新人は宿無しか」
「笑い事じゃないですよ」
 真美の後ろからニヤニヤと笑っている男は東谷圭吾という。
 課長。つまりはこの六合町総合課の長である。
 もっとも「長」と言ってもこの部署には笑美を含め、三人しか人がいないのだが。
「結局、不動産詐欺だったんだって?」
「そうなんです。前の住居も引き払っちゃったし、お金も戻ってきていないしで、もう、どうしたらいいのか……」
「まぁ、しばらくはここで過ごすしかないなぁ。給料の先払いできるほど、潤滑な部署じゃないんでね」
 はあ、と笑美は肩を落とす笑美に、真美がことさら明るく語りかける。
「あ、そう言えばなし崩しに自己紹介もろくにしないで話を進めちゃってるわね」
「そりゃ、順番もすっ飛ばすわ。出所してきたら、新聞紙でできた巨大蓑虫が役所の入り口をふさいでりゃ」
「はいはい、この口の悪い、軽いおじさんがね、ここの課長の東谷圭吾さんよ」
 東谷はニヤッと笑い、人差し指と中指をピッ、と立てて振って見せる。
「六合町のクリント・イーストウッドだ。よろしく」
「はあ……」
「相手にしなくていいわよ。先週はアダム・ウィリアムズだって言ってたから」
「来週はジョニー・ディップで行こうかな」
「その前に、まずその薄毛をどうにかしないとね」
 机の引き出しからだした手鏡でしげしげと自分を眺め始めた東谷を尻目に、真美はにっこりと微笑んだ。

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