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「過去未来報知社」第1話・第33回

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>>第32回
(はじめから読む)<<第1回
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 それは、どこか不思議な空間だった。
 賑やかな人の声、どこからか響く鈴の音。
 大勢の人が近くを歩いているのに、それがどこか遠くのことのように感じる。
 TV番組を音を消して見ているような、近いのに遠い。
 現実なのに非現実的な。そんなふわふわした空気が流れていた。
 そう言えば、あの日からクリスマスなんて自分の中にはなかった気がする。
 りくもんごしにその様子を眺めながら、笑美はふとそんなことを思い出した。
 いつの間にか、子どもが笑美のりくもんの手を握って歩いている。
 三宅はどこに行ったのだろうか。
 ふと傍らの子どもを見る。二人の子どもがにっこりと笑美を見上げる。
 その顔は……。
「おい!」
 がっつり頭を掴まれて笑美はのけぞった。
 そのまま、頭の被り物がとれて、冷たい空気が流れ込む。
 どっと賑やかな歓声が耳に入ってきた。
「そっちは川だぞ。寒中水泳でもするつもりか」
 呆れた顔で見下ろしているのは、白い息を吐いている慶太だった。
 ふと、足元を見る笑美。
 そこには、穏やかだが冷たそうな川がさらさら流れている。
「あれ?」
「あっぶないなぁ。もう脱げよ。そのぬいぐるみ」
 慶太に言われて、わさわさと着ぐるみを脱ぐ笑美。
 冬の寒さが肌にささる。
「わ、なんだその寒々しい格好」
「しょがないじゃないですか。着ぐるみの中狭いし、暑いし」
 うっすらとかいた汗が、さっと引いていく。
 笑美はぶるっと身震いした。
「しょうがねぇな」
 ふわっ、と暖かい物がかぶさってくる。
 笑美が顔を上げると、慶太が着ていたダウンジャケットを笑美にかけていた。
「い、いいですよ、寒いでしょ」
「別に。もともとそんな寒がりじゃないし。それに」
 慶太はりくもんをひょい、と持ち上げた。
 くたり、とりくもんが覆いかぶさる。
「こうやってりゃ、ま、大体あったかい」
「私、持ちますよ!」
「へえ?」
 ひょい、とりくもんを乗せられ、わたわたとよろめく笑美。
 慶太は笑いながらりくもんを取る。
「できることとできないことぐらい、分かっておくべきだな」
「……!」
 笑美はふい、と横を向くとスタスタと歩き出す。
 後ろから含み笑いをする慶太の声が聞こえる。
「で、そっちはどうだったんですか?」
「どう?」
「妖怪ですよ、妖怪!」
「この人数じゃあなぁ……」
 周囲を見渡す慶太。足の踏みどころもない程、人がひしめいている。
「これじゃあ、何か置いていかれても、分からないですよね」
「そもそも、置ける場所、あるのか?」
 笑美と慶太は顔を見合わせて首をかしげた。
「餅やら菓子やら、飛び交ってたしな」
「何があってもおかしくないですよね?
 なんで三隠居はあんな依頼をしてきたんでしょうか?」
「さあな。あ、そろそろつくぞ」
 丘を登りきったところに立っているご神木。
 笑美と慶太は見上げて、口をあんぐりと開けた。
 

>>第34回

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