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「過去未来報知社」第1話・第23回

>>第22回
(はじめから読む)<<第1回
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「誰だ、お前は」
 鏡の間で大家は怪訝そうに笑美を覗き込んだ。
「昼間伺った、市役所の者です」
「……"りくもん"、に見えるが」
「これしか被り物が役所になかったんですよ!」
 まるっこい胴体に
「六」の字をデフォルメした飾り物をつけた着ぐるみがわさわさ動いている。
「前から思っていたんだが、それはクマなのか、かものはしなのか
 くりまんじゅうなのか」
「つい三日前に六合に来たばかりの私が、
 住民の知らないことを知ってるわけないじゃないですか!」
「まあまあ、お茶でも召し上がれ」
「ご丁寧にどうも……って、飲めるかい!」
 にこにこ微笑みながら茶を出すネコに、
丸々とした手(?)でツッコミをいれる笑美。
「……まぁ、ここではなんだ。奥に入るか」
「え? この部屋が住居なんじゃないんですか?」
「住めるか! こんな鏡張りの部屋!」
 大家が奥の壁をスライドすると、普通の日本間が覗く。
「ってかそこ、襖だったんだ……」
 目を丸くする笑美に苛々と答える大家。
「当たり前だろ、日本家屋なんだから!」
 いや、この部屋を見たら当たり前も何もなくなりますよ、
という言葉を笑美は飲み込んだ。

「とりあえず、それ、脱げ。あ、頭は取るなよ。
 そんなでっかいもん2体も部屋に入るか!」
「俺は頭しか被ってないが」
 実は口を聞いていないだけで、あの男もちゃっかりついてきている。
 笑美と同じ六合街マスコットの「りくもん」に入っているが、
 こちらはサイズがあわず、最初から頭しか被っていない。
 もそもそと着ぐるみを脱ぐと、笑美は奥の部屋を見渡した。
 趣味の悪い鏡の間とは異なり、落ち着いた雰囲気の和室だ。
 畳の上には重厚な絨毯が敷かれており、
アンティークの応接家具が置かれている。
 壁一面にこれもアンティークの額に入った写真が飾られている。
 窓に雨戸は入っておらず、満月が煌々と部屋に差し込んでいる。
 灯りは小さなランプの灯、一つ。
 客をソファに座らせると、大家は安楽椅子に腰かけた。
 すぐさま、その膝の上に黒灰ゴマ猫が乗る。
 大家は長身で、どこか冷たい感じがよぎる優男風の顔立ちをしていた。
 赤味が強い髪をオールバックに撫でつけ、
 映画に出てくる上海マフィアのような小さく丸い黒眼鏡を鼻に引っ掛けている。
 その黒レンズ越しにこちらを伺っているが、
 目線は笑美の視線を避けているように思えた。
「どこへ行っていた?」
 大家は笑美ではなくネコに問いかける。
 ネコは小さく首を傾げ、
「お迎え?」
 と応える。
 笑美からすればどことなくかみ合っていない会話だが、
 大家はそれで納得したようだった。
「で、なんだっけ? 入居希望?」
「違います! ……いや、違わないような気もするけど違っていて!」
 漸くスタートラインに立ったような、
 ふりだしに戻ったような気分で笑美は話し出した。

>>次回お楽しみに!

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