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「過去未来報知社」第1話・第38回

>>第37回
(はじめから読む)<<第1回
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 クリスマス・イルミネーションが輝く町を、『あの子』と手を繋いで走っている。
 二人の顔は輝いていて、
 世の中に幸せなこと以外ないような、そんな気分だった。
 ピアノ発表会の連弾で司会のお姉さんに「もみじのような手」と言われたのは
 あながちオーバーな言葉ではなく、
 小さな二人の手は、本当に可愛いもみじみたいだった。
 笑美を振り返り、後ろ向きで走る『あの子』。
 笑美も笑い返す。
 その時、『あの子』の後ろに、黒い大きな化け物が現われる。
 「化け物」は四散して『あの子』を飲み込み……。
「……!」
 笑美の視界が、そこで真っ暗になった。
 いつもだったら、あの「化け物」はぱくっ、と『あの子』を飲み込んで
 『あの子』の顔になって笑美に襲い掛かってくるのに……。
「やれやれ、最後にやたらとデカイ山にぶちあたったなぁ」
 面倒くさそうな声が頭上から降ってくる。
 笑美はどうやらその人物に目隠しをされているらしい。
「おじさん、だぁれ?」
 目隠しの手がみじろぎする。
 どうやら、傷ついているらしい。
「俺は……サンタクロースだ」
「サンタ?」
 どこかそらぞらしい声に、笑美は聴きおぼえがあるような気がした。
「あの子はどうなったの?」
「ああ。もう、夢の中では思い出さなくていい」
「夢……」
 いつのまにか、街に流れるクリスマスソングが消えていた。
「もう、ここではあの化け物は出ない」
 だんだん、と男の声が近くなってくる気がする。
 いや、自分が大きくなっているのだ、と笑美は気がついた。
 遠くから、何かが噛み砕かれている音がする。
 ゴキゴキ、バキバキ。
 何か硬いものが、やはり硬いものに咀嚼されているような音だ。
「あの音は何?」
 何か小さなものの気配がする。しかもたくさん。
 それが、「大きな硬いもの」をバキバキ噛み砕いているようだ。
「六合のサンタクロースはな。置いていったり持っていったりするんだよ」
「なにそれ。意味、分かんない」
「人が集まる場所には、人と一緒にいろんな物がやってくる。
 六合は、元がなくて、『持ち寄り』の集合みたいな町だからな。
『そういう物』も多くて大変なんだよ、管理人としては」
 咀嚼する音がだんだん小さくなっていく。
 笑美の足に、何かやわらかくて小さなものが触れた。
「え? なに?」
「挨拶だよ。
 よほどお前さんは、こいつらに好かれたんだなぁ。
 完食かよ。お前ら、当分胸焼けするぞ」
 足元で何かが小さく鳴いた声がした。
「……これで災いが消えてくれていればいいんだが」
「災い?」
「いや、こっちの話」
 サンタクロースは手を話す。
 しかし、笑美の視界は真っ暗なままだった。
「え?」
「やれやれ、完徹かよ」
 大きな欠伸を一つすると、男は小さく笑った。
「働き者だな、俺は」
 その声に、確かな聞き覚えを感じて笑美は振り返る。
 しかしそこにあったのは、金色に光る巨大な二つの目玉だった。
『お前は、二度とこの夢は見ない』
 身動きもとれず、笑美はその目を見つめた。
『だが、それでお前の問題が解決したわけではない。
 目が覚めればお前はこの事は忘れるだろう。
 心せよ。凶事はこれからだ』
「凶事……?」
『案ずるな。お前を守る者は、常にお前の側にいる』
 その声を最後に、世界は漆黒の闇に落ちた。

>>第39回

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